VOL.211 JANUARY 2026
JAPAN AND UME 浮世絵に咲く梅

歌川うたがわ 広重ひろしげ2「東都とうと名所めいしょ 亀戸かめいど梅屋舗うめやしき3ノ図」
Photo: Gift of Louis W. Hill, Jr./ミネアポリス美術館蔵

古くから日本人は、季節の変化を感じ取り、四季折々に咲く花を愛でてきた。江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)になると、浮世絵うきよえ1師たちはその様子を様々に切り取り、絵に封じ込めた。春を告げる花である梅が描かれた浮世絵について、浮世絵専門の美術館で話を聴いた。

日本で古くから人々に愛されてきた梅。太田記念美術館の主席学芸員である日野原ひのはら 健司けんじさんはこう話す。

「江戸時代、特に18世紀頃になると、季節ごとに花の名所を訪れるという、現代につながる花見を楽しむ余裕が庶民の間でも生まれました。特に梅は、まだ寒さが残る中で咲くため、春の訪れをいち早く感じたい風流な人が好んだ花だったのではないかと思います」

そんな梅と人々が描かれた浮世絵を4作品紹介する。

■歌川うたがわ 広重ひろしげ2「東都とうと名所めいしょ 亀戸かめいど梅屋舗うめやしき3ノ図」

「東海道五十三次4」を描いたことで知られる歌川広重の作品。水茶屋と呼ばれる、今で言うカフェの長椅子に座ってお茶を飲みながら、梅を眺める様子が描かれている。

「この絵のポイントは、梅見の情景をリアルに描いているところです。梅の咲く時期は肌寒いので、人々が厚着している様子がよくわかります。また右奥の梅の木近くの男性が、白い紙のようなものを手にしていますが、当時、和歌や俳句を書き記し、それを梅の木の枝に結びつけるという風習があったようです。それが桜の花見と大きく異なるところで、梅は知識人や風流人に好まれ、文芸の題材に近いものがあったことが伺えます」と日野原さんは絵から江戸時代の風俗を読み解く。

■歌川広重「名所めいしょ江戸えど百景ひゃっけい 亀戸梅屋舗」

歌川広重が、同じく亀戸梅屋舗を題材に描いた代表作。手前に梅の太い幹と枝を大きく配し、その奥に訪れた人々の姿がうっすら垣間見えるという大胆な構図が印象的な作品だ。

「ゴッホが、この絵を模写した作品を描いたことでも知られています。彼は浮世絵に強い憧れを持ち、浮世絵から学んでいたことがわかります。現在でもジャポニスムを語る際に必ず紹介される1枚です」と日野原さんは説明する。枝越しに遠景を覗く視点は、まるでカメラのレンズを覗いたような新鮮さを持ち、当時の日本人だけでなく、後世の西洋画家にも大きな影響を与えた。


歌川広重「名所めいしょ江戸えど百景ひゃっけい 亀戸梅屋舗」
Photo: Clarence Buckingham Collection/1857年制作、シカゴ美術館蔵

■鈴木すずき 春信はるのぶ5「夜よるの梅うめ」

鈴木春信による「夜の梅」は、広重の写実的な風景とは対照的な詩情にあふれる作品だ。

「お屋敷に住む女性が夜中、廊下を歩いている。真っ暗で、ほとんど外の様子が見えない中、ふと、梅の香りが漂ってきて、手燭てしょくをかざすと白い梅の花が咲いていた、という物語のワンシーンを切り取ったかのような絵です」と日野原さんは説明する。

真っ暗な中でも鮮烈に香る梅の花の生命力を、静謐せいひつな空気ごと封じ込めたような一枚だ。

「夜の闇の中に浮かぶ梅の白さが印象的です。江戸の人々にとって、梅は春の兆しを感じる花。待ちわびたその花の香がふと漂ってきた、その瞬間が見事に切り取られています」


鈴木すずき 春信はるのぶ5「夜よるの梅うめ」
Photo: Fletcher Fund, 1929/メトロポリタン美術館蔵

■歌川うたがわ 国貞くにさだ6「十二月ノ内じゅうにかげつのうち 衣更着きさらぎ 梅見うめみ」

江戸では、四季を意識した衣替えや花見など、自然とともに暮らす文化が定着していた。歌川国貞のこの作品は、人々の生活の中にある風物詩と女性たちの姿を絡めて紹介している。

「2月を描いたこの絵は、タイトルこそ「梅見」ですが、梅が主役というよりは、生き生きと過ごす女性の姿が目を惹く1枚です。着飾った華やかな女性たちが、梅見と食事を楽しんでいる様子が伝わってきます」と日野原さんは語る。

歌川うたがわ 国貞くにさだ6「十二月ノ内じゅうにかげつのうち 衣更着きさらぎ 梅見うめみ」」
Photo: 国立国会図書館デジタルコレクション(参照 2025-12-02)

江戸の浮世絵に咲く梅は、時を越えて春の喜びを今に伝える。広重の構図にゴッホが魅せられたように、私たちもまた、浮世絵を通じて梅の花に宿る生命力を感じ取ることができる。

  • 1. 浮世とは日常生活を意味し、その名のとおり庶民の日常の風景を描き流行した木版画。
  • 2. 1797年生、1858年没。浮世絵師。代表作に「東海道五十三次」がある。諸国風景や江戸の名所などの風景画を得意とした。
  • 3. 現在の東京都江東こうとう区にあった屋敷で、江戸時代には梅の名所として知られていた。
  • 4. 江戸(現在の東京)の日本橋から京都三条大橋に至る主要道路に整備された53か所の宿場町。
  • 5. 1725年生、1770年没。浮世絵師。可憐で繊細な美人画を多く描いた。
  • 6. 1786年生、1864年没。浮世絵師。数万点の作品を残し、歌舞伎の舞台を描いた役者絵や、美しい女性を描いた美人画などを多く描いた。

By YANAGISAWA Miho
Photo: NDL Digital Collections; Clarence Buckingham Collection/1857, Collection of The Art Institute of Chicago; Fletcher Fund, 1929/Collection of The Metropolitan Museum of Art; Gift of Louis W. Hill, Jr./Collection of Minneapolis Institute of Art

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