VOL.194 JULY 2024
JAPANESE SMALL AND MEDIUM ENTERPRISES LEADING THE WORLD
人手による手間のかかる調整が不要な高精度なロボット制御ソフト
何らかの製品を工場でつくる際、ロボットを導入すれば労働力の削減、工程の合理化が図れる等のメリットがあり、導入を検討している企業も多い。ただし、そうした産業用ロポットを製造システムに組み入れるとすると、実際に稼働させるための調整に要するマンパワーが膨大にかかるという大きな課題があった。それに対し、日本の一企業がその課題を克服し、高精度なロボットシステムを構築できるロボット制御ソフト「クルーボ」を開発した。しかも低コストだという。世界的に注目されているこの技術について、開発者に話を聴いた。
日本でも、さまざまな製造業において、製品の生産工程へのロボットの導入がなされてきた。ただ、これまでのロボットは決められた動作しかできなかったため、例えば、工業製品の部品の組み立てなどをさせるには、人間の手の動作に代わる作業をするロボットの手先が対象の位置に正確に届くよう、人間が調整をする必要があった。重要なのが、ロボットアームの付け根の位置や角度の正確な設定だ。わずかなズレがロボットの手先では大きなズレとなり、ものをつかめなくなるためだ。そのため、実際の産業用ロボットの導入時には、人間が膨大な時間をかけて、キャリブレーション(基準座標の調整)や、ティーチング(動作指示)を行う必要があった。
「労働力不足を補うはずのロボットが、大きな労力とコストをかけた調整を必要とするのは矛盾している」。そう考えたチトセロボティクス 代表取締役社長 西田 亮介さんは、細かい調整が不要で高精度な作業ができる、画期的なロボット制御技術を開発した。
「人間が、例えばものをつかむといった場合は“だいたいこの辺り”と大まかに位置を把握し、実際に手を動かしながら高精度に動きをコントロールしています。ロボットでも、人間のようにあいまいな情報に基づいた制御ができるはずだと考えました」
西田さんが開発したのは、複数台のカメラが捉える画像情報を即時にロボットにフィードバックし、ロボットをゴールまで連続的に動かしていく「ビジュアルフィードバック制御システム」を実現した制御ソフト「クルーボ」だ。これを搭載したロボットは、動いている対象に自動的に追従したり、不定形のものをつかんだりできる。ロボットの位置が多少ずれても、ロボットが複数の画像情報を解析してついていくので問題はない。実に、このソフトがあれば、これまでの調整コストが不要になる。
「日本の多くの製造業では人手不足が深刻ですが、ロボット労働力の提供により、市場の活気や規模を維持したいと考えています。中小規模の製造業の現場でも広く使っていただけるよう、価格は最小構成(ソフトを入れた制御PCとカメラ2台等)で110万円の買い切りとしました」
現在クルーボは、日本のほか、欧米やアジアの自動車、電気、食品の製造現場や、物流の分野で使われ、現場の自動化や生産性向上に貢献している。
「当社は今後も高品質で独自性の高い技術を提供していきます」と、西田さんは自信をもって断言する。新進気鋭の企業のこれからに期待したい。
By SAKURAI Yuko
Photo: Chitose Robotics