VOL.194 JULY 2024
JAPANESE SMALL AND MEDIUM ENTERPRISES LEADING THE WORLD 四つのこだわりでつくる巨大なアクリル水槽

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沖縄美ら海ちゅらうみ水族館「黒潮の海」のアクリル水槽。
Photo: NIPPURA

加工しやすく透明なアクリル板。その特質を最大限いかして加工し、巨大な水槽を生み出す技術を国内外で展開するのが、香川県を拠点とするNIPPURA(ニップラ)株式会社だ。展示水槽の水量について世界最大級を自ら幾度となく更新してきた。

「水族館大国」*と言われる日本。その中でもおすすめなのは、沖縄県にある沖縄美ら海ちゅらうみ水族館だ。見どころの一つは、体長数メートルに及ぶジンベエザメやナンヨウマンタなど約70種の魚が群れる「黒潮の海」と呼ばれる巨大水槽(深さ10m・幅35m・奥行き27m)で、その水量は7500tにも達する。

このアクリル水槽こそ、NIPPURA株式会社が設計・施工した日本国内の代表作だ。アクリルパネルの厚さは実に60cm。これだけの厚みになると素材本来の色である黄色味が浮かび上がりかねないが、このアクリルパネルは透明度を失っていない。

その理由の一つは、素材づくりにあるという。代表取締役社長の敷山しきやま靖洋やすひろさんは明かす。「アクリルパネルの原板は大手総合化学メーカーに製造を委託しています。クリスタル・ガラスのような透明感を出すため、この段階であえて特殊な色を加えています」。

さらに気をつかうのが、「安全性」と「耐久性」の確保だ。集客施設で破裂事故を起こしたり、建物より早く寿命を迎えたりすることのないように、どんなに巨大であっても、この二つの性能を満たす丈夫なアクリル水槽をつくりあげなければならない。

NIPPURAではそのために、「切削」、「接着」、「研磨」、「熱処理」という四つのこだわりの技術で実現する。

一つ目の「切削」は、アクリルパネルの原板を均一の厚さに削る工程だ。原板の製造を委託するメーカーに仕上がり精度まで求めると、製造コストが高くつく。コストを抑える狙いから、厚さを均一にそろえる工程は自社で受け持つ。

二つ目は「接着」だ。パネルの標準サイズは3.5m×8.5mで、厚さは30mmと40mmと二種類ある。これらを張り合わせたり、継ぎ合わせたりするが、それには、特に自社開発の高強度接着剤を用いている。


アクリル板の接着を行う様子。この工程以降は施工現場で進めていく。
Photo: NIPPURA

そして、三つ目は透明度を高めるために特に欠かせない「研磨」だ。この作業では、目と手の感覚を頼りに社員が手作業で表面を磨き込む。一品生産品の品質確保には手作業が最も適しているというのが、試行錯誤の末に出された結論だ。


研磨作業の様子。ハンドポリッシャーという道具で磨く。
Photo: NIPPURA

そして四つ目「熱処理」は、アクリル樹脂や接着剤の分子に振動を与え、互いをより強く再結合させるための工程だ。パネルの透明度や強度を、それによって一段と高める。アクリル樹脂を軟化する直前まで熱することで分子間の振動を最大限まで高め、その後常温に戻すと分子同士は極めて均一な結合状態になる。

これらのこだわりは海外でも評価され、設計・施工の実績は63か国・400プロジェクト以上にも及ぶという。


サウジアラビア王国のキング・アブドゥルアズィーズ国際空港内の巨大水槽。NIPPURAの設計・施工による。
Photo: NIPPURA

敷山しきやまさんは「私たちのアクリル水槽は日本を代表する製品です。今後もこだわりを貫き、ものづくりへの誇りを大事にしていきます」と熱く語る。


* 日本は国土面積当たりの水族館数は世界一という調査報告がある。日本の博物館法で認定される水族館のほかにも、大小さまざまな関連施設が多数あり、飼育技術も発達していることからそう表される。


By MOTEGI Shunsuke
Photo: NIPPURA

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