VOL.194 JULY 2024
JAPANESE SMALL AND MEDIUM ENTERPRISES LEADING THE WORLD
世界でも独創的な乾燥装置
ものづくりの製造過程で発生する不用物のなかでも価値を有し、有償で売却できる有価物を収益化し、廃棄物の量を抑える。そんな循環経済*の実現を支えるのが、佐賀県を拠点とする株式会社西村鐵工所の独創的な乾燥装置「CDドライヤー® (Compact Disk Dryer)」だ。
日本列島の南西部に位置する九州。この地方のお酒と言えば焼酎であり、特産品として有名だ。焼酎は蒸留酒の一つで、蒸留後には「焼酎粕」と呼ばれる有機物**を含む液体が生まれる。株式会社西村鐵工所の「CDドライヤー®」は当初、焼酎粕の水分を蒸発させ、乾燥後に残ったものを肥料や飼料として販売し、収益化する目的で開発された乾燥装置だ。取締役営業本部長の泉 章さんにその開発にまつわる話を聴いた。
「製造開始は1987年でした。当時は、焼酎粕を廃棄コストのかからない海洋投棄で処分していたため、焼酎メーカーで使用されるには至りませんでした。ところが20年ほど後に廃棄物の海洋投棄禁止がロンドン議定書の採択で強化され、その影響で焼酎メーカーから「CDドライヤー®」を使用するニーズが高まりました。焼酎粕の水分を蒸発させることで、廃棄物として処分すべき量を大幅に減らせる点が評価されるようになったのです」。
こうした時代背景の推移とともに、「CDドライヤー®」の利用目的は「有価物の収益化から廃棄処分量の削減へ」と焼酎業界ではがらりと変わった。さらに、レアメタル回収を行う工場から出る廃液から金属を回収する、あるいは飼料の粉体製造***に利用するなど、ほかにも幅広い目的での利用に対応し、多くの導入実績を積み上げてきた。
「例えば、レアメタルの回収を行っている企業では、有価物である銅を含む廃水を1日約10t排出し、脱水後の廃棄物処分に年間9,000万円のコストをかけていました。ところが、「CDドライヤー®」を導入することで廃水から銅を取り出せるようになったため、廃棄物処分のコストを年間6,000万円削減できるようになったうえ、銅の販売収入として年間500万円を得られるようになりました。特にこの3年間は海外での導入実績が伸び、アジアを中心に10か国以上に広がっています」と泉さんは説明する。
乾燥の技術の仕組みには独創性があふれている。
「熱伝導****を利用して対象物を間接的に加熱することで水分を蒸発させる仕組みは一般的ですが、熱伝導の手法はほかには見られない発想から生まれたものです。直径1m前後、厚さ2㎝ほどの金属製のディスクが、その役割を担っています。ディスクは、装置内で1分間に最大20回転するもの。その内部に蒸気を送り込み、表面を100℃以上に加熱する。回転するディスクに対象液を注ぎかけると水分が蒸発し、表面に乾燥物が残り、それを採取することができるという仕組みです。これは世界でも例がなく、ディスクの構造と利用する熱源について特許を取得しています」
この技術のポイントは、薄いディスクの両面を対象液の加熱に用いることだ。最大で16枚にもおよぶディスクを並べることによって、加熱できる表面積が広がり、従来の装置よりも小型で熱効率が良い装置となっている。
左が一般的な乾燥装置。CDドライヤー®は、複数枚のディスクの両面を、対象物を加熱する伝熱面積とすることから、同じ伝熱面積でも設置スペースを小さくすることが可能。
「“この乾燥装置は熱交換器*****である”という発想に立って研究開発を進めてきた成果です。熱効率の向上を実現できたことで、省エネや運転コストの節減という強みも生まれました。当社の企業理念は『創造と挑戦』です。創業以来、世の中にまだない産業機械を生み出すことへの挑戦を心掛けてきました」と泉さんは話す。
この企業理念がディスクを利用した独創的な乾燥装置を生み出したのだ。
* 資源(製品や部品等を含む)を循環利用し続けながら、新たな付加価値を生み出し続けようとする経済社会システムのこと。
** 炭素を含む化合物のこと。
*** 原料を粉末や顆粒状にすることで取り扱い性や保存性を向上させる工程。
**** 熱が物体を伝わって、高温部から低温部に移動する現象。
***** 高温から低温へ熱が移る性質を利用して効率的な熱の移動を促す装置。
By MOTEGI Shunsuke
Photo: NISHIMURA WORKS Co., Ltd.