VOL.194 JULY 2024
JAPANESE SMALL AND MEDIUM ENTERPRISES LEADING THE WORLD
[私が伝えたい日本(日本人インフルエンサー)]華やかで奥深い日本の婚礼衣裳
京都在住で、身近な日本文化を日々、英語で発信するクリエイターKaaisan。今月号は、Kaaisanが日本の婚礼衣装について語ります。
日本の伝統的な花嫁衣裳の小物のなかに、小さな剣があることをご存知でしょうか。これは、かつての武士が台頭していた社会の名残です。このように婚礼衣装ひとつをとっても、日本で脈々と受け継がれてきた伝統や美意識そして信仰が見えてきます。華やかで奥深い、日本の婚礼衣裳の世界へ、ようこそ。
花嫁の衣装
西洋スタイルのウェディングドレスのイメージと似て、日本でも白は神聖で潔白な色とされており、花嫁は白い着物に白い帯、白い小物と全身に白をまとう白無垢という姿が一番古典的です。最近では、内側にカラフルな着物を着用したり、逆に、一番外側に羽織る、裾を長く引くガウン状の「打掛」に、色や柄の華やかなものを選んで着用したりするのも人気です。
ウェディングドレス姿でベールをかぶるように、日本では白い帽子(綿帽子)や布(角隠し)を巻いて頭部を隠しますが、実はその中の髪型も独特です。19世紀末の女性に人気だった文金高島田*という髪型が、花嫁の定番となっています。ただ、現代ではその型のかつらをかぶるのが一般的です。
花嫁の胸元には小さな守り刀の懐剣と小物入れが挟まれています。どちらも17世紀頃の武家の女性が持っていたものとされ、19世紀以降に装飾として花嫁衣裳に取り入れられました。小物入れの中にはちり紙や薬、化粧道具などを入れていたようです。
なお、婚礼用の着物に描かれる柄は単なる装飾ではなく、古来から縁起の良いと言われているものが選ばれます。例えば、長寿や生命力の象徴である鶴や、平安を意味する青海波模様**が描かれているものなどがあります。
花婿の衣装
花婿の伝統的な婚礼衣装は黒紋服(あるいは「黒五つ紋付羽織袴」)と呼ばれます。上半身に黒い着物を着て、下半身には袴を着用、上から黒い羽織を着るのが正装です。羽織には五か所に「家紋」と呼ぶ紋章がついていますが、これは祖先から受け継ぐ家系や家柄のシンボルのようなものです。
参列者の衣裳
現代日本では、参列者は洋装が主流となり、男性はスーツなどを着用するかたが多く、女性も白は避けますが、ややフォーマルなデイドレスのかたが増えました。ただ、親族の女性は、着物を着ることが多いようです。新郎新婦の母親は黒地で下半身のみに絵柄が入った黒留袖を着用します。既婚女性は上半身に絵柄のない色つきの着物である色留袖を着ます。また、未婚女性は振袖という、上半身にも柄があって足までかかる長い袖が特徴の着物を着ます。
もともとは自宅で行われることが多かった日本の婚礼。20世紀以降は結婚式場や神社など家の外で執り行われるのが一般的となったほか、結婚式とは別個に、記念のウェディング写真だけを撮る習慣もできたおかげで、街で洋装、和装、さまざまな婚礼姿の人々を見かける機会も増えました。もし日本旅行中に彼らを見かけたら、ぜひ小さく「おめでとう」と声をかけてみてください。(厳正な式典中でなければ!)
Kaaisan
日本について英語で紹介するショート動画を作るクリエイター。日本文化や世界に関心を持つ仲間同士が出会い、共に学べる場所を提供するために、オンラインコミュニティを運営するほか、不定期でイベントを企画・開催している。
* 日本の伝統的な髪型の一つ。由来は諸説ある。現代日本では、和装の花嫁の代表的な髪型(写真参照)。
** 大海原の波を扇形で表現した日本で古くから用いられている伝統模様。無限に広がる波の文様であり、平安な生活、幸せが末永く続くことへの願いが込められているという。
(青海波模様の例)
By Kaaisan
Photo: Kaaisan; PIXTA