VOL.205 JULY 2025
EXPO 2025 OSAKA, KANSAI, JAPAN: THE CHARM OF KANSAI [私が伝えたい日本(日本人インフルエンサー)]日本における能楽の発展

能楽師が宝生流のうたい仕舞しまいを教える「謡曲・仕舞教室」の様子。
Photo: 宝生会

能楽シテ方宝生流第20代宗家1である宝生ほうしょう 和英かずふささん。今月号では、宝生さんに日本における能楽の発展について語ってもらった。

日本には、能楽2をはじめとする多くの伝統芸能があり、古くから進化をしながら発展してきました。では、科学技術が進歩した現代において、これらの伝統芸能はどのように進化したのでしょうか。その鍵となるのが「イノベーション」です。ここでの「イノベーション」は、「既存の価値を応用し、新たな価値を創造すること」と定義します。現代においてはしばしば、「新しさ=コラボレーション」と捉えられますが、これは価値創造の一側面に過ぎず、場合によっては本来の価値を損なうことすらあると考えられます。


宝生流では、海外での能楽の公演も多く開催している。写真はアゼルバイジャン共和国にて開催された能楽公演の様子。
Photo: 宝生会

能楽の歴史においても、興味深いイノベーションの時代がありました。15世紀後半から16世紀後半、日本において約100年の間に3人の為政者が現れたこの時代3には、「戦乱と死の接近」「物理戦から政争への移行」「治世におけるリスクヘッジ」と、社会背景が劇的に変化しました。それに伴い、能楽に求められる役割も変わり、「戦への精神的備え」「プロパガンダ」「文化競争による軍備の抑制」など、同じ演目でも提供の意図や文脈が大きく異なっていました。

近代でも、高度経済成長期4には精神の安定としての能楽が注目され、バブル期5にはブランディング要素として能楽が活用されるなど、「同じ内容」を「異なる提供の仕方」で伝えることで、能楽が生まれてから現在まで約700年にわたり、新たな価値を生み出してきました。

現代においては、ニーズが細分化され、社会変化のスピードが加速する中、価値観のより慎重な見極めが必要とされます。世界的に見ると、社会の不安定さが増しており、能楽本来の持つ「チルアウト(静かな安らぎ)」としての性質が求められつつあるのも事実です。


海外公演や海外の音楽とのコラボレーションにより、近年では能楽の海外への認知も高まっている。写真は能とスウェーデン・ジャズとのコラボレーション舞台の様子。
Photo Provided: Spice of Life, Inc.
Photo: amigraphy

特に30代を中心に、伝統文化を通じて自己のアイデンティティを見つめ直そうという静かな動きが生まれつつあります。その中で、能楽の本質的価値であるアマチュアレッスンとしての側面、すなわち、専門家でなくとも学び親しめる文化としての価値が再評価されています。観る以上に、習うことで体幹や呼吸が整い、健康寿命の延伸にも寄与します。これは長寿社会における現役世代の底上げに繋がる可能性を秘めています。

しかしながら、情報が煩雑な現代において、その価値が十分に伝わっているとは言えません。今後はその魅力をより多くの人に届ける、認知の広がりに向けた取組が重要となります。


宝生能楽堂(東京都文京区)のロビーでは能楽に関する歴史ある絵画や、宝生流の歴史に関する展示物を見ることができる。
Photo: ISHIZAWA Yoji

日本を訪れた際には、ぜひ能楽をはじめとした日本の伝統芸能を体験すると同時に、これまでの進化や今後の発展についても関心を寄せていただければと思います。

宝生ほうしょう 和英かずふさ
能楽シテ方宝生流第20代宗家。伝統的な公演に重きを置く一方で、異流競演や復曲(過去の演目の復活)なども行う。公演活動のほか、マネジメント業務も行う。海外ではイタリア、香港を中心に文化交流事業を手がける。2008年東京藝術大学アカンサス音楽賞受賞、2019年第40回松尾芸能賞新人賞受賞。2022年には「SHOGUN 将軍(ディズニープラスドラマ)」劇中能監修を務める。2024年10月より週刊少年サンデー新連載のマンガ『シテの花 -能楽師・葉賀琥太朗の咲き方-』を監修。
検索:宝生和英

  • 1. 伝統芸能や武道の流派における、その家系の当主。
  • 2. 約700年前に大成した日本の伝統芸能。現存する世界最古の舞台芸術としてユネスコの世界無形文化遺産に登録されている。
  • 3. 日本における戦国時代(15世紀後半から16世紀後半)、織田おだ 信長のぶなが豊臣とよとみ 秀吉ひでよし徳川とくがわ 家康いえやす、の3名の戦国大名が名を馳せた。
  • 4. 日本が急速に経済成長を遂げた1955年頃から1973年頃の期間。
  • 5. 1986年12月から1991年2月までの、日本においてあらゆる資産価格が上昇していた好景気の時代。

By HOSHO Kazufusa
Photo: amigraphy; ISHIZAWA Yoji; Spice of Life, Inc.; Hoshokai

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