VOL.201 MARCH 2025
Traditional knowledge and skills of sake-making with koji mold in Japan
伏見の名水が生む歴史と伝統を受け継ぐきめの細かい淡麗な酒

酒蔵が立ち並ぶ京都市伏見区の宇治川派流(通称「濠川」)沿い。
Photo: 月桂冠株式会社
日本を代表する日本酒の産地の一つとされる京都市の伏見は、市の最南端に位置する伏見区にある。伏見の酒造りの歴史は古く、日本酒造りが産業として大きく発展した地域である。伏見の酒造りの歴史や特徴について紹介する。
「伏見の酒は「宮中由来の料理1から発展、派生した京料理に合う酒」として発展し、洗練されてきた歴史があり、落ち着いて控え目な、はんなり2とした味わいに特徴があるとされています」
そう教えてくれたのは、月桂冠株式会社の広報・田中 伸治さんだ。
「もともと日本酒は、古来、神様にお供えするための、大切なお酒として造られてきました。朝廷では、神様に供えたお酒を味わう宴が開かれ、それが次第に大切な儀式となりました。また、朝廷の中に公式な酒造りの工房が設けられ、この技術が京都の酒造り発展のもとになっていると言われています。当社は、現在も神事で供えられるお神酒や振る舞い酒の醸造をさせていただいております。これは、日本の酒文化の源流に根ざした大切な伝統を受け継いでいるからではないかと考えています」
伏見の酒造りが産業として発展した一番の理由は、何といっても酒造りにかかせない水の良さだという。
「京都の街をとり囲む三方の山々に降った雨水は野山に浸透し、同時に市街を貫く鴨川、桂川へと流れ込みます。川の水は京都市街の北部から伏見方面に向けて流れていますが、実は河川のほかにも豊富な伏流水が存在し、ここ伏見で湧き出しています」
伏見には16世紀後半に政権を担った当時の武将、豊臣秀吉によって築かれた伏見城を中心に城下町が構築され、旅人や物資が集まり、酒の需要が増えていった。その後、17世紀初頭になると、京都と大坂(現在の大阪)を結ぶ水陸交通の要衝として伏見は更に発展した。こうして地の利の良さや質の良い水を求めて、ほかの地域から移ってくる酒蔵も少なくなく、国内有数の日本酒の産地になっていった。
「京都盆地の地下には京都水盆と呼ばれる琵琶湖3に匹敵するほどの大きな水がめのような地下水が存在しており、この京都水盆の水源と伏流水があいまって、伏見の酒造業が集中するおよそ2キロメートル四方でも豊富な水量が存在し、20社以上の酒造メーカーが酒造りに用いています。この区域の一画で、濠川沿いから眺めた酒蔵が立ち並ぶ景観は伏見を象徴する風景として親しまれています」
また、伏見の地層は砂や礫4が堆積した地層により構成されており、丘陵の山裾に湧き出す伏流水は、ほどよい量のミネラル分が水に溶けだすため、カルシウムやマグネシウムを適度に含んだ中硬水となる。

Photo: 月桂冠株式会社
「酒造りにはこの中硬水を用い、比較的長い期間をかけ発酵させます。これらの条件が、酸は少なめ、なめらかで、きめの細かい淡麗な味わいという伏見酒の風味を特徴づけています。ほどよく硬度成分を含んだ、柔らかく優しい味わいの水により、緩やかに発酵が進み、うま味、甘味のバランスがとれた酒を醸すことができるのです。当社では、創業地の一角、「月桂冠内蔵酒造場」という酒蔵の中に酒造りのミニプラントを設けています。現在、但馬流の杜氏5が昔ながらの手法で酒を醸しています。寒い時期に仕込む伝統的な醸造方法の「寒造り」が最盛となる厳冬期には、蒸米や発酵によって醸し出される香りがあたりに漂い、酒どころの雰囲気が一層高まります」
この内蔵酒造場は製造場につき一般公開はされていないが、その向かいの月桂冠大倉記念館で酒造りの歴史や伏見の酒造りについて詳しく知ることができる。

Photo: 月桂冠株式会社

Photo: 月桂冠株式会社
豊富な水源から生まれ、京都の豊かな食文化を彩る伏見の酒。海外の人にもぜひ京都の地で楽しんでいただきたいと田中さんは話す。
「京都の料理文化は、宮中の宴の料理から始まり、寺院の精進料理7、武家の本膳料理8、町人の会席料理9、茶人の懐石料理10へと広がり、発展してきました。その中で、伏見の清酒も京料理に合う味わいを追求してきました。
伏見の酒の理想的な楽しみ方を聞かれれば、京都の花街11や料亭で京懐石とともに味わうのが一つの答えです。ただ、伏見の酒に限らず日本酒は「食中酒」として、さまざまな料理に合うことも再認識されています。是非、いろいろな料理との組み合わせを楽しんでみてください」

Photo: 月桂冠株式会社
- 1. 有識料理とも称し、平安時代(794年から12世紀末)の宮中や貴族が食した見た目に美しい料理が淵源とされている。「HIGHLIGHTING Japan」2022年6月号「1200年の日本料理の伝統を受け継ぐ」参照
- 2. 京都の言葉で、上品で優しく、かつ自己主張せずまろやかなといったようなイメージを指す言葉。
- 3. 滋賀県にある日本最大の淡水湖。およそ400万年もの長い歴史をもつ日本最古の湖。
- 4. 細かい石。小石。砂よりも大きな粒のものを指す。
- 5. 杜氏は酒蔵の責任者であり、酒造りの総監督のこと。但馬杜氏とは、京都府の隣県・兵庫県北部の但馬を拠点として、各地の酒どころで活躍している。
- 6. 糖化と発酵を同時に進⾏させる発酵形式のこと
- 7. 仏教の教えに基づき、肉類や魚類を使わず、穀物や野菜を使ってつくる食事のことを指す。僧侶たちの食事として発展してきた。
- 8. 日本の本格的な供応料理。室町時代(1336年から1573年。諸説あり。)に武家の供応料理として始まり、江戸時代(1603年から1868年。諸説あり。)に発達、普及した。1人分の料理を膳に組んで供する。
- 9. 近世以降に発達した酒宴向きの料理。本膳料理と懐石が変化・発達したもので、現在の日本料理の主流となっている。「HIGHLIGHTING Japan」2023年5月号「京料理の精神を象徴する鯛のへぎ造り」参照
- 10. 茶の湯の席で、茶事の一部として供される簡素な食事を指す。
- 11. 芸妓や舞妓が舞踊や唄、お座敷遊びなどでお客さんをもてなす「お茶屋」が集合している街の総称。
Photo Gekkeikan Sake Company, Limited


