VOL.213 MARCH 2026
EXPLORING JAPANESE POTTERY
暮らしに息づく1万年を超える日本のやきもの文化

学習院大学文学部哲学科(日本美術史)教授。出光美術館主任学芸員を経て2008年より現職。日本美術史の中でも工芸分野を専門とし、日本のやきものを研究テーマの中心に据えている。著書に「日本やきもの史」「唐津やきものルネサンス」「やきものの見方」など。
日本の陶磁器1の歴史は古く、その技法や用途、評価の視点も多様で、個性豊かなやきものが数多く存在する。古代から現代に至るまでの日本の陶磁器文化の歴史的背景や食文化との関わり、その楽しみ方について、日本陶磁史の研究者、荒川 正明さんに話を聴いた。
日本のやきもの(陶磁器)文化の特徴について教えてください。
日本の陶磁器の最大の特徴は、非常に長い時間をかけて、生活と密接に結び付きながら発展してきた点にあります。海外では、鑑賞や装飾を目的とした工芸が発展する例も多いのですが、古代から土器文化があった日本では、食との関わり合いも深く、水や穀物の保存、祭祀など暮らしの中で使われる器が中心となり、日常の器として使い続ける中で生まれる風合いや変化そのものが価値として受け止められてきました。手に取った時の温かみや手触り、長く使うことで生じるその姿の変化を含めて楽しむ点も、日本の陶磁器文化を特徴付ける要素だと言えるでしょう。
日本の陶磁器の成り立ちや歴史について教えてください。
狩猟採集が中心であった約1万3千年前の縄文時代に登場した土器から始まった日本の陶磁器の歴史は、大きく五つの時代に分けて捉えることができます。
第一の時代は、約1万3千年前から開始された「土器の時代」です。縄文土器の時代を終え、農耕が開始された弥生 2土器の時代、そして土師器3などの機能的な土器の登場した時代を経ていきます。

(火焰型土器、縄文時代(中期)・前3000年から前2000年 東京国立博物館蔵)
Photo: Colbase
そして第二の時代、5世紀頃に朝鮮半島から「窯」を使って千度以上の高火度で焼成する技術が伝播してきます。この窯で焼成された新たなやきものが須恵器4と呼ばれるやきもので、現在の陶器の源流となっています。741年に聖武天皇から「国分寺建立の詔」5が出され、日本各地に塔や寺院が建てられました。これらの建物の屋根には「瓦」(参照:伝統を守り受け継いでゆく日本瓦 | March 2026 | HIGHLIGHTING Japan)が使用されましたが、瓦こそが、渡来系の陶工がもたらした陶器の新たな技術の一種です。高度な技術を有した陶工たちは、ほかにも儀式や儀礼用の器の生産に従事し、全国各地の寺院などにも派遣されたことで、陶器生産の技術が日本全国に伝播していくきっかけを作りました。

(装飾付脚付壺古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵)
Photo: Colbase
その後、平安時代(8世紀後半から12世紀頃)になると中央集権が緩み、全国のやきものの生産も地方の役所が司る体制は弱体化し、その代わりに民間のやきもの工房が次々と独立、誕生しました。その過程で地域の風土や土質にあったやきもの産地が形成され、それぞれの産地の個性が確立されました。平安時代以降、いわゆる中世の時代となると各地を代表する大規模な窯場が登場していきます。
特に、越前、瀬戸、常滑、信楽、丹波、備前から構成される日本六古窯(参照:日本の陶磁器文化を継承する「日本六古窯」| March 2026 | HIGHLIGHTING Japan)と呼ばれる窯場は現在まで受け継がれる伝統を有しており、日本のやきものの発展において重要な役割を担いました。これらの窯場で制作されたやきものは、大型の壺や甕6が多く、生活に根ざした実用的な器です。水や穀物の貯蔵器、更には農業に不可欠な肥料用の容器として使用されていました。
続く、日本のやきものの第三の時代は、日本において茶の湯7の文化が広く浸透した16世紀に始まりました。天下一の茶匠とされた千利休8が登場し、独創的な陶磁器、特に茶道具に使用される器が制作されるようになりました。千利休などが認めた茶碗は単なる道具としての枠を超え、権力の象徴としても位置付けられるようになるのです。京都では楽焼9と呼ばれる茶碗、岐阜県の美濃では、志野焼10や織部焼11などの茶道具が誕生していました。
またこの時期、茶の湯を嗜む人々は朝鮮半島や東南アジアのタイやベトナムの陶磁器を模倣しつつも、遊びの心を加えながら独自の表現へと発展させていきました。「完璧な対称性」を尊ぶ他国の陶磁器に対し、日本ではあえて形が歪んだものや割れた部分からも、自然や作為のない美を見出しました。花を生ける際にも、竹や素朴な陶器の器に、自然の中で生きているかのように花を挿し、自然との調和を大切にしてきました。

(志野茶碗 銘 振袖美濃 安土桃山から江戸時代・16世紀から17世紀 陶製 東京国立博物館蔵)
Photo: Colbase
時代が進み、江戸時代から明治時代(17世紀初頭から19世紀)が第四の時代で、磁器の生産と京焼12が発展した時代です。1610年代に有田(佐賀県)で磁器の生産が始まり、白い器面に色鮮やかな絵付けを施した器が人気を集めました。京都でも華麗な意匠を施した陶器が発展し、技術が高度化していきます。

(色絵花鳥文大深鉢重要文化財 伊万里(柿右衛門様式) 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵)
Photo: Colbase
そして、19世紀以降の第五の時代は、現代へと続きます。西欧美術の影響を受けた陶芸家が登場し、海外へも輸出されるなど、陶磁器は実用品としてだけでなく、芸術としての地位も確立していきました。このように1万3千年前の土器から現代の多様な表現へと陶磁器の歴史は繋がっています。

(色絵粟鶉図茶碗薩摩・竪野系 江戸時代・19世紀後半 陶製 東京国立博物館所蔵)
Photo: Colbase
海外と比較すると、日本の陶磁器文化にはどのような特徴があるのでしょうか。
以前、アメリカに滞在した際に感じたことですが、欧米では鑑賞を目的とした陶製オブジェを制作する作家が多い印象でした。海外では、鑑賞を目的とした陶芸作品が中心となる傾向があるのに対し、日本では、食事や生活の中で実際に使う器が陶磁器文化の中心を占めてきました。実用的で暮らしに深く根ざし、人々の生活を豊かにするためのやきものであるという点が、日本の陶磁器文化の大きな特徴だと言えるでしょう。
日本を訪れた際に陶磁器を楽しむことができる産地や場所を教えてください。
東京を訪れるのであれば、その近郊である茨城県の笠間や栃木県の益子など、伝統を受け継ぎながら新しい陶芸家も多い産地を訪ねてみるのがよいでしょう。他にも、愛知県の瀬戸や京都、そして有田といった歴史的な産地はぜひ訪れてほしい場所です。特に有田は、17世紀に磁器の世界のトップシェアを誇った有田焼13の産地です。当時、磁器の最大の輸出国であった中国が内乱に陥り、供給が途絶えた中国磁器の代用品として、オランダが日本に発注を行いました。その結果、1650年代以降、日本の陶磁器は欧州の王侯貴族の間で人気を博し、伊万里港から輸出されたことから「IMARI」の名で世界に広まっていきました。近代以降、有田焼は生糸や茶と並び、当時の日本の三大輸出品であったと言えます。こうした歴史から有田の街全体が産業遺産となっており、現在でも街歩きを通じて歴史を体感することができます。


日本での陶磁器の楽しみ方について教えてください。
旅先で器を楽しむ方法としておすすめしたいのは、東京や京都などに多くある良質な料理店で、良い器を使ったおいしい料理を味わうことです。優れた料理人ほど、器にも心を配りながら料理を盛り付けているように思います。そして料理人に「このお皿はどこの陶磁器ですか」と尋ねていただくとコミュニケーションが生まれ、日本の文化を知る入口になるかもしれません。器は飾るだけでなく、実際に使い、料理を盛り、見て味わって楽しんでもらいたいですね。手に取ったときの重み、手触り、口に触れる感覚、全てが鑑賞体験です。そうした体験を通して、日本人が大切にしてきた、暮らしを豊かにする「用の美」14を感じてもらえたらと思います。

Photo: Colbase

- 1. 陶器と磁器の総称。陶器は「陶土」という粘土を原料に、1,100から1,300度で焼かれた器。土の風合いが残り、温かみのある質感が特徴。
磁器は「陶石」という白い石を砕いて原料とし、約1,300度から1,400度の高温で焼かれた器。白く硬く、透明感のある質感が特徴。 - 2. 大陸から稲作が本格的に伝来し、青銅器や鉄器などの金属器の使用が始まった。
- 3. 古墳時代(3世紀末から7世紀)を中心に日本で広く用いられた土器。ろくろを使わず手作りで成形され、低温で焼成されるのが特徴。
- 4. 5世紀頃に朝鮮半島から伝来した高温焼成の土器。ろくろ成形と窯焼きによって硬く焼き締まり、日本の陶磁器の原点とされる。
- 5. 疫病や災害など不安定な社会情勢の中で仏教を通じて国家の安定をはかろうと塔や寺院の建設を命じた。
- 6. 甕は水や穀物の貯蔵用の壺。
- 7. 粉末の茶である抹茶を味わう茶道のこと。
- 8. 1522年生、1591年没。安土桃山時代の茶人。茶の湯を大成し、「わび茶」の美意識を確立した。
- 9. 京都で生まれた茶道用の陶器。ろくろを使わない手捏ね成形と低温焼成による柔らかで温かみのある表情になるのが特徴。
- 10. 16世紀後半に美濃(現在の岐阜県)で生まれた陶器。白い長石釉と柔らかな形が特徴。
- 11. 桃山時代(16世紀から17世紀初頭)に生まれた美濃(現在の岐阜県)の陶器。緑釉や歪んだ形など、斬新な意匠が特徴。
- 12. 京都を中心に発展した陶磁器の総称。絵付けなどきらびやかな作風が多い。
- 13. 佐賀県有田町を中心に製造される磁器。朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工が17世紀初期に作り始めたとされる。白くて硬い磁器に、鮮やかな色の絵の具で絵を描くのが特徴。
- 14. 日常生活で使われる道具の中に見出される美しさのこと。実用性と機能性の中に自然と備わる美を重視する、日本独自の美意識を表す言葉。
By TANAKA Nozomi
Photo: Colbase; PIXTA
