VOL.213 MARCH 2026
EXPLORING JAPANESE POTTERY 信楽しがらき焼のたぬきに見る日本の縁起物文化

小ぶりなものから日本一の大きさとされるものまで、たぬきのやきものが並ぶ「信楽しがらき陶苑とうえん たぬき村」の園内。
Photo: ISHIZAWA Yoji

日本の飲食店や商店などの店先には、たぬきの姿をかたどったやきものが置かれていることがある。これらは日本で縁起物として、長く親しまれてきた。滋賀しが県にあるたぬき像の窯元かまもと1に、その成り立ちやたぬき像に込められた意味について話を聴いた。


撮影スポットとして人気な「信楽しがらき陶苑とうえん たぬき村」の「たぬき村大鳥居」
Photo: ISHIZAWA Yoji

信楽高原てつどう 信楽駅のホームに設置されたたぬき像。
Photo: ISHIZAWA Yoji

日本のほぼ中央に位置する滋賀県は、県土の約6分の1を日本最大の湖である琵琶びわ湖が占める。県南東部にある甲賀こうか信楽しがらき町は、日本にほん六古窯ろっこよう(参照:日本の陶磁器文化を継承する「日本六古窯ろっこよう」 | March 2026 | HIGHLIGHTING Japan)の一つに数えられる信楽焼2の産地として知られてきた。古くから生活用品を中心としたやきもの作りが行われてきたこの地域では、現在も多くの窯元が点在し、陶芸文化が日常の風景として息づいている。

信楽町を象徴する存在として、町の随所で目にすることができるのが信楽焼のたぬき像だ。笠を被り徳利とっくり3を手に二本足で立つ姿が、どこかユーモラスで親しみやすい表情を持つたぬき像は単なる装飾品に留まらず、日本の生活文化の中で縁起物として親しまれてきた。

信楽町には、窯元が運営する複合施設「信楽陶苑とうえん たぬき村」があり、敷地内には日本一の大きさとされるたぬきのやきものをはじめ、多くの信楽焼のたぬき像が展示されている。同施設のマネージャーである大熊おおくま 礼菜れいなさんは、たぬき像について次のように語る。

「信楽町でたぬき像が作られるようになったのは、1900年頃です。当時は、茶壺ちゃつぼかめ、植木鉢など、実用品を焼いていましたが、ある窯元が遊び心からたぬき像を作ったのが始まりとされています」

信楽焼に用いられている土は粒子が細かく、粘り気があり、細かな造形に適しており、たぬきの表情や細部まで丁寧に表現することができたことも、たぬき像作りが広まった理由の一つである。大熊さんは、たぬきが題材として選ばれた背景には、日本における文化的な意味合いがあると言う。

「日本では、たぬきは古くから縁起の良い動物とされ、「を抜く」と読める語呂合わせから、勝負運や商売運の象徴として親しまれてきました」

信楽焼のたぬき像には、「八相はっそう縁起」4と呼ばれる八つの縁起の良い思いも込められているとされ、笠は身を守る備え、徳利は人徳を表すなど、それぞれの持ち物にも意味がある。

信楽焼のたぬき像が全国的に知られるようになったきっかけの一つが、1951年の昭和天皇(第124代、在位1926年から1989年)による信楽訪問である。

「沿道に並べられたたぬき像をご覧になった昭和天皇が、その情景を歌にまれたことが報じられ、信楽のたぬきは縁起物として広く知られるようになりました」と大熊さんは語る。以降、飲食店や旅館、商店の玄関先に置かれる存在として定着していった。

信楽焼は、こうしたたぬき像だけでなく、高い技術力を生かした制作でも知られている。1970年に開催された大阪万博のシンボルである「太陽の塔」の背面に設けられた「黒い太陽」の一部には、信楽焼のタイルが用いられたとされている。

現在、信楽陶苑 たぬき村では、大小様々なたぬき像が制作、展示されているほか、絵付け体験などの陶芸体験も行われている。

「海外からのお客さまが多く、2024年は年間でおよそ1万人の方が訪れました。素焼きのたぬきに自由に色を施す絵付けは、旅の記念になると人気の高い体験です」と大熊さん。

日本独自の縁起文化とものづくりの考え方が反映され、地域の歴史と人々の営みの中で育まれてきた信楽焼のたぬき像は、現在も、信楽焼を代表するやきものの一つとして作り続けられている。


「たぬきづくりコース」体験でたぬき像を型から外した直後の工程。
Photo: ISHIZAWA Yoji

焼き上がった素焼きのたぬき像に色を施す。
Photo: ISHIZAWA Yoji
  • 1. 陶器を作るための工房、またはその職人を指す。
  • 2. 滋賀県甲賀こうか信楽しがらき町周辺で作られてきた伝統的な陶器。窯で焼かれる過程で自然に生まれる火色や味わい深い焦げ色による表情が特徴とされ、日用品や壺などのほか、たぬき像などの置物でも広く知られる。
  • 3. 徳利とっくり(写真右)…首が細く胴体が膨らんだ形をしている。お猪口(写真左)やさかずきなどへ注ぐ際に使用する。
  • 4. 信楽焼のたぬき像に備わる八つの縁起の様子を指す。「笠」は災難から身を守る備え、「笑顔」は人を和ませる心構え、「大きな目」は周囲をよく見渡すこと、「腹」は冷静さと大きな決断力、「徳利」は人徳を身につけ飲食に困らない、「通帳」は信用、「尻尾」は物事の終わりを大切にし、最後がよければ全てよし、と言う意味を、「金袋」は金運を象徴する。

By TANAKA Nozomi
Photo: ISHIZAWA Yoji; PIXTA

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