VOL.213 MARCH 2026
EXPLORING JAPANESE POTTERY
暮らしの中での変化を楽しむ萩焼

茶道で使用される萩焼の井戸茶碗1
Photo: 萩焼協同組合
萩焼は、山口県萩市で約400年以上にわたり受け継がれてきた日本を代表する伝統的な陶器である。やわらかく素朴な佇まいと、土の温かみを感じさせる質感が大きな特徴である萩焼について取材した。
山口県萩市は、江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)の町割り2が今も残る城下町で、武家屋敷や2015年にユネスコ世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」3などがあり、歴史や文化を体感できる地である。そうした背景の中で、伝統的な工芸として受け継がれてきたのが萩焼だ。萩焼協同組合の横見 史さんによると、その始まりは16世紀末の日本と朝鮮半島の戦いの時期に遡るという。
「当時の日本の統治者である豊臣 秀吉4の朝鮮出兵に伴い、渡来した朝鮮陶工5の高い技術が、後に萩焼の基礎を築きました」
その後、1604年に武将の毛利 輝元6が萩に城を築くと、招かれた陶工たちが城下町の東側に位置する松本市と呼ばれる地区に窯を作り、そこで陶器を焼くようになった。
「毛利家は伝統的な茶道である「茶の湯7」を好み、茶器として使う陶器の需要が高まったことで萩焼は発展しました。江戸時代になると、現在の山口県の一帯を治めた長州藩の庇護のもと、藩の公式な仕事として作る陶器「御用焼」として作られ続けました」
萩焼はこうして、茶道で使われる器「茶陶」として高く評価され、日本各地に知られるようになっていった。

Photo: 萩焼協同組合

Photo: 萩焼協同組合
萩焼には、大道土や見島土、金峯土などの山口県内で採れる複数の土を組み合わせた独自の粘土が用いられる。ろくろや手びねり9で成形してから、低温で素焼きを行い、その後、長石や木灰、藁灰を使った釉薬と呼ばれるやきものの表面にかけるガラス質のコーティングを施して1200℃以上で本焼きされる。登り窯10では炎や灰の影響によって偶然に生まれる色や模様「窯変」が、同じものが一つとしてない表情を生み出すという。

Photo: 萩焼協同組合
「さらに萩焼を特徴付ける重要な要素が「貫入」です。これは成形した器を焼き上げる「焼成」の工程を経た後、冷却過程で釉薬の表面に生じる細かなひびのことを指します。この貫入から、茶や酒の成分が少しずつ染み込み、色合いや表情が徐々に変化していきます。萩焼は焼締11が強すぎない穏やかな焼き上がりが、吸水性が高く、使用するにつれ貫入が風合いや魅力を形作るため、これも重要な要素の一つとされています」

Photo: 萩焼協同組合
萩焼は使い手の暮らしの中で少しずつ表情を変えながら育っていく器であると横見さんは語る。
「この変化は「萩の七化け」と呼ばれます。「七」と付きますが、特定の段階数を示すものではなく、長い年月をかけて何度も姿を変える様子を象徴した呼び方です。萩焼は作られたときに完成するのではなく、使う人の生活の中で少しずつ育っていく器です。毎日の暮らしの中で変化していく様子を楽しめることが大きな魅力であり、日本の「わび・さび」12という考え方を感じることができる楽しみ方でもあります」
使い込むことで色合いや表情が変化していくからこそ、「育っていく過程」を楽しんでほしいと横見さん。
「使用にあたっては、吸水性の高さを理解し、使い始めは水にくぐらせ、使用後は早めに洗浄し、十分に乾燥させることが大切です。多少の染みや変化を欠点ではなく、器が育つ過程として楽しむのが萩焼本来の味わい方です」
こうした萩焼の特性は、茶の湯の世界で高く評価されてきた。茶人たちの間で、茶碗の名品を「一楽、二萩、三唐津」13と呼ばれ、愛でられてきた。
現代では茶道具にとどまらず、和洋を問わず日常の食卓や暮らしに自然に溶け込む器として親しまれている萩焼。伝統を守りながら現代の感性にも寄り添う点こそが、萩焼の一番の魅力と言えるだろう。
- 1. 15世紀から16世紀頃に朝鮮半島で焼かれた茶碗の一種。素朴な造形と使い込まれた風合いが尊ばれた。
- 2. 武士と町人の居住区を計画的に分けた都市構造。
- 3. 19世紀の半ばから20世紀の初頭にかけて西洋の技術や機械を取り入れ発展した、製鉄・製鋼、造船、石炭産業などの8県11市にまたがる23の構成資産のこと。
- 4. 1536年又は1537年生、1598年没。群雄割拠していた戦国時代(15世紀後半から16世紀後半)に天下統一を果たした武将。
- 5. 陶器を作る職人。
- 6. 1553年生、1625年没。戦国時代後期から江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)前期の武将。広島県広島市にある広島城を創建した。(参照:広島城:街のシンボル | April 2023 | HIGHLIGHTING Japan)
- 7. 粉末の茶である抹茶を味わう茶道のことを茶の湯(抹茶道)という。
- 8. 陶器を作るための工房、またはその職人を指す。
- 9. ろくろは回転運動によって円形の器物をつくる機械。手びねりとは陶器の成形に際し、ろくろや型を使わずに手で粘土をこねて作ること。
- 10. 丘などの傾斜面に階段状に焼成室(房)を連続して築いた窯。下から上へ焚き上げ、炎や灰が室内を流れることで、多様な焼き上がりが生まれる。
- 11. 陶器を比較的高い温度で長時間焼くことで、土が締まり、吸水性が低くなる焼成状態のこと。焼締が強いほど器は硬く、水を吸いにくくなる。
- 12. 不完全・静けさ・質素な中にある美しさを感じる、日本独特の美的理念を表す語。茶道の発展とともに日本人の美意識として育まれた。
- 13. 茶の湯の世界で茶碗の名品を評価する際に用いられてきた言葉。京都の楽焼、山口県の萩焼、佐賀県の唐津焼(参照:「用の美」を追求。400年の伝統を受け継ぐ唐津焼の美と技巧 | October 2025 | HIGHLIGHTING Japan)を特に高く位置づけた表現で、それぞれ異なる風合いと美意識が尊ばれてきた。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: Hagiyaki Cooperative Association

