VOL.213 MARCH 2026
EXPLORING JAPANESE POTTERY 日常の器として発展してきた波佐見はさみ

時代に合わせてバリエーション豊かな色味とデザインが生み出されている波佐見はさみ焼の器
Photo: 波佐見焼振興会

長崎県の中央北部に位置する波佐見はさみ町周辺で、約400年以上にわたり作り続けられてきた磁器1波佐見はさみ焼」は、日常の器として広く用いられてきた。近年、国内外で関心を集めているこの波佐見焼について、その歴史と特徴を取材した。

波佐見焼が作られている長崎県波佐見町は、有田ありた2が生産される佐賀県有田ありた町と隣り合う県境の町だ。町の中央は平野部で、周囲は小高い山々に囲まれた盆地状の地形を成している。特に南東部の山々からは磁器の材料となる陶石とうせきが産出され、人口約15,000人のうち2割から3割がやきものに関係する仕事に携わっている。一般社団法人波佐見町観光協会の野口のぐち 雅彦まさひこさんによると、波佐見町では16世紀後半からやきもの作りが始まったという。


波佐見はさみ町に残るのぼがま3
Photo: 波佐見焼振興会

「波佐見と有田はいずれも日本で初めて本格的な磁器生産が確立した地であり、技術、原料、人の往来を共有する一体的な産地でした」

と野口さんは説明する。産業の発展と共に、次第に両者の役割には違いが見られるようになっていった。

「地形的に大規模な窯業ようぎょうに適し、磁器原料や燃料にも恵まれていた波佐見は、実用磁器の生産地として発展していきました。一方、有田は泉山いずみやま陶石4の発見を契機に、当時の有田を統治していた佐賀藩の保護のもとで献上品や輸出向けの磁器を生み出していきました。このことから、波佐見焼は日常の器としての役割を担い、有田焼は様式や意匠を確立した産地として位置付けられるようになったとされています」

1690年頃から茶碗や皿といった庶民の生活必需品としてのやきものの需要が急増し、波佐見焼ではそれに応えるため分業制と量産体制が確立された。

「型作り、成形、絵付け、焼成しょうせい5といった工程をそれぞれ専門の職人が担うことで、品質を安定させながら大量生産を可能にし、「市場で必要とされるものを作る」という考え方が定着しました。このような合理的な生産の仕組みは、現代の波佐見焼にも受け継がれています」


器作りのベースとなる型を作る「型屋」
Photo: 波佐見焼振興会

型から生地を作り、乾燥工程まで担う「生地屋」
Photo: 波佐見焼振興会

素焼きや絵付けを行い、器を完成させる「窯元かまもと
Photo: 波佐見焼振興会

器そのものにも、実用性を重視した工夫が見られる。波佐見焼は過度に薄く作られることが少なく、器の開口部の縁である口縁こうえんや器の底部に設けられた脚状の高台こうだいなど欠けやすい部分に一定の厚みを持たせることで、日常的な使用や洗浄、重ね置きに耐え得る構造となっている。高台を低く広く取ることで重心が安定し、倒れにくく扱いやすい形状となっている点も特徴である。また、高温で焼成された磁器は吸水性が低く、汚れや匂いが付きにくいとされている。白磁はくじ6染付そめつけ7を基調とした装飾も、耐久性と使いやすさを重視した意匠として受け継がれてきた。

「江戸時代後期(18世紀後半から19世紀前半)には、庶民の食生活で用いられていた実用的な磁器「くらわんか碗」が広まりました。川を行き交う船上から飯や酒を売る行商人が使用した器とされ、人々に「食らわんか(食べないか)」と呼びかけたことが名称の由来とされています。揺れる船上でも扱いやすいよう、厚手で割れにくく安定感のある形状を備え、文様は簡潔な染付が中心でした。大量に必要とされる日常使いの器として安定して供給できる生産効率の良さと実用性を備えており、現在では波佐見焼を象徴的に示す器の一つとされています」と野口さんは説明する。


江戸時代後期に普及した実用的な器「くらわんか碗」。船上の行商人が使用したもので、「食らわんか(食べないか)」の呼び声がその名の由来とされる。
Photo: 波佐見焼振興会

現在、波佐見町では学校給食(参照:日本の学校給食制度の意義と歩み | December 2025 | HIGHLIGHTING Japan)用の器としても波佐見焼が使用されている。学校給食ではプラスチック製やアルミ製の器を使用することが多いが、波佐見町では地元のやきものである波佐見焼を用いることで地域文化を大切にする心を育んでいる。

「波佐見町の学校給食では、強化磁器の「われにっか」と呼ばれる波佐見焼の器が使われています。「われにっか」は方言で「割れにくい」ことを「割れにっか」ということからこの名前になりました。町全体がやきものの生産に深く関わってきた歴史の中で、波佐見焼を子どもたちの生活の中に自然に取り入れたいという考えがあったためです」

強化磁器は、給食用に作られた一般的な磁器の強度を高めた磁器で、軽量で割れにくい特性を持つとされている。まさに実用性を重んじる波佐見焼ならではのアプローチだと言えるだろう。


波佐見町の学校給食にも使用される強化磁器「われにっか」
Photo: 波佐見焼振興会

近年は、海外からの観光客にも、波佐見焼への関心が見られるようになっている。事前に地域の窯業史を調べて訪れる人や、陶芸体験や工場見学を目的とする旅行者も増えており、シンプルで機能的なデザインや日常に根ざした器に関心が寄せられているという。

「現代の暮らしの中で繰り返し使え、料理を引き立てる器であること。この特徴が、波佐見焼が国内外で親しまれている最大の理由だと思います。多くの方に波佐見焼の魅力に触れていただけたら嬉しいです」

  • 1. 岩石である陶石を原料とし、高温で焼くことで白く硬質に仕上がる磁器。吸水性が低く、日常使いの食器として広く用いられる。
  • 2. 佐賀県有田町を中心に製造される磁器。朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工が17世紀初期に作り始めたとされる。白くて硬い磁器に、鮮やかな色の絵の具で絵を描くのが特徴。
  • 3. 陶器を焼く窯の一つ。斜面を使い、一度に多くの器を高温で焼くことができる。
  • 4. 佐賀県有田町の泉山で発見された磁器原料となる陶石。日本で本格的な磁器生産が始まる契機となったとされる。
  • 5. 成形した陶土を窯で焼き固める工程のこと。
  • 6. 陶器の表面にかけるガラス質の溶液である釉薬ゆうやくによって白く仕上げられた磁器。装飾性が高く、料理の色を引き立てる器として用いられる。
  • 7. 素地の上に呉須ごすと呼ばれる顔料で文様を描き、光沢のある透明無色の釉薬をかけて焼成する装飾技法。

By MOROHASHI Kumiko
Photo: Hasami-yaki Shinkoukai

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