VOL.213 MARCH 2026
EXPLORING JAPANESE POTTERY
伝統を守り受け継いでゆく日本瓦

国宝である妙法院の立派な瓦屋根
歴史的文化財や由緒ある建造物に使用され、日本の木造家屋を守ってきた日本瓦。その歴史や発展について話を聴いた。
日本瓦は、日本家屋の屋根の資材として使われる、粘土を材料としたやきものである。高温で焼かれるため強度や耐久性が高く、表面が塗装処理されていないことから再塗装のメンテナンスが不要といった特徴がある。丸瓦1や平瓦2、軒瓦3、鬼瓦4、鳥衾5など、形状や用途によって種類は多様だ。瓦は屋根を守る機能だけでなく、建物の表情を形作る重要な要素でもある。日本伝統瓦技術保存会の会長、竹村 優夫さんによると、日本瓦の起源は約3千年前の中国に遡るという。

「720年に完成したとされる日本最古の歴史書である「日本書紀」には、558年に朝鮮半島から渡来した瓦博士によって、日本に瓦葺きの技術が伝えられたという記録があります。日本瓦は日本最古の本格的な仏教寺院である飛鳥寺の建立に用いられ、その後、天皇の住まいであった藤原京や平城京、平安京の宮殿や寺院へと広がっていきました」
16世紀に入ると城郭建築の発展により日本瓦の需要が高まり、焼成6技術も進歩する。竹村さんは、「この時代に、現在見られるような銀色の燻瓦7が焼かれるようになりました」と話す。屋根を飾る軒瓦に金箔が施されるようになるのもこの頃である。日本瓦は当初、特別な建物への使用に限られた屋根材だったが、江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)になると庶民の家にも普及していった。


Photo: ColBase
「火事の多かった江戸(現在の東京)では、延焼を防ぐため瓦葺きが奨励され、一般の家屋でも採用されるようになったのです」
日本瓦の大きな特徴の一つが重量だ。平瓦の重さは約3kg、丸瓦は約2.8kgであり、日本瓦の屋根1平方メートルあたりでおよそ104kgの荷重が家屋にかかることになる。
「構造がしっかりした建物では、瓦の重さが建物の重心を下げるため、地震や台風といった自然災害への耐性を高めるとされています。また、飛鳥寺創建当初の瓦が現在も機能している例が示すように、瓦は耐久性にも非常に優れており、極めて長寿命な屋根材と言えます。修理の目安としては、100年に一度の部分修理、200年に一度の葺き替えで足りるとされ、破損した部分のみを差し替えることができる点も大きな利点です」
竹村さん自身も、清水寺10や妙法院11などの国宝12や重要文化財の瓦工事に携わってきた。
「文化財修理では、当初の設計意図を尊重し、私見を加えず忠実に保存修理を行うことが重視されます。古い瓦は丁寧に選別、清掃し、可能な限り再利用することを心掛けます。鬼瓦などの装飾瓦も構造的に問題がなければ修理して使い続けます」

また、日本伝統瓦技術保存会は瓦製造や瓦葺きの伝統技術を後世に伝えるため様々な活動を行っている。「保存会では、時代ごとの日本瓦の原寸図をもとに瓦を葺く研修を通じ、技術の継承と後継者育成を行っています」
このように職人たちによって大切に守られてきた日本瓦だが、現在深刻な存続の危機を迎えつつあるという。
「瓦業界では一番目に土、二番目に焼成する窯、三番目に瓦を作る技術が大切と言われているくらい、瓦制作にとって粘土の性質は重要です。現在、文化財を含め全国の瓦に使用されている愛知県13の三河粘土を、複数の材料を配合して作る工場が1974年には七か所ありましたが、2025年には遂に一か所になってしまいました」
今後も国宝や文化財の保存活動や、伝統技術の継承を続けていくために文化遺産を守る環境整備を訴える竹村さん。日本を代表する寺院を訪ねる際は、彼らの願いに思いを馳せながら屋根を見上げてみてほしい。
- 1. 半円筒形の瓦。この丸瓦と平瓦と組み合わせて屋根を作り上げる。
- 2. 反りのある長方形の板状の瓦。

平瓦の使用例 - 3. 屋根の軒先に用いる瓦。
- 4. 屋根の棟の端に取り付ける飾り瓦のこと。鬼面の形がよく知られ、厄災よけの意味がある。
- 5. 屋根の先端の鬼瓦の上に、反って長く突き出した円筒状の瓦。

鬼の形をしている「鬼瓦」と鬼瓦の上にある円筒状の瓦「鳥衾」 - 6. 成形した陶土を窯で焼き固める工程のこと。
- 7. 粘土を成形し焼成炉で焼成してから、空気を遮断し蒸し焼きにする瓦を指す。
- 8. 浮世とは日常生活を意味し、その名のとおり庶民の日常の風景を描き流行した木版画。
- 9. 1797年生、1858年没。浮世絵師。代表作に「東海道五十三次」がある。諸国風景や江戸の名所などの風景画を得意とした。
- 10. 京都府京都市にある、778年開創の寺。本堂から前面に張り出すように広がる「清水の舞台」は、清水寺にある数ある建築物の中で最も有名である。国宝であり、ユネスコ世界文化遺産「古都京都の文化財」の一つとして世界遺産にも登録されている。
- 11. 京都府京都市にあり、9世紀創建と伝わる寺。寺院の台所にあたる庫裏は1595年頃の建築物で国宝に指定されている。
- 12. 建造物や工芸品、彫刻、歴史資料などの有形文化財のうち、重要なものを「重要文化財」に指定し、さらに世界文化の見地から特に価値の高いものを「国宝」に指定して保護を図っている。
- 13. 愛知県の三州瓦、島根県の石州瓦、兵庫県の淡路瓦が日本三大瓦と呼ばれ、国内8割のシェアを誇る。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: Adobe Stock; PIXTA; ColBase

