VOL.213 MARCH 2026
EXPLORING JAPANESE POTTERY
[世界に伝えたい日本の伝統文化]美と魂を鍛える―外国人刀鍛冶が歩む覚悟の道

ジョハンさんが手掛けた日本刀。数週間から数か月かけて丁寧に作り上げる。
Photo: 工藤 明日香
外国人初の刀鍛冶1として、日本刀を作り続けるジョハン・ロイトヴィラーさん。見る人の心を静かに揺さぶる一振りを追い求めて、火と鉄に日々向き合いながら、美しさと魂を宿す刀を生み出しています。ジョハンさんが日本刀に魅せられた理由、そして作刀に込める思いについてお話を伺いました。
備前・福岡一文字2の刀を初めて目にした時、言葉を失うほどの感銘を受けました。端正な姿、自然に流れる刃文3、その全てが調和し、ただ美しいというだけではなく、強く心に訴えかけてくる作品でした。「自分もこんな刀を作りたい」。その思いが、はっきりと胸に湧き上がった瞬間でもありました。
日本刀はもともと、神に捧げる神聖な存在として作られ、時代と共に武器として使われながらも、実用性と美を高次元で融合させた「用の美4」を体現してきました。その精神性を忘れずに刀を鍛えることこそ、現代の刀鍛冶に課せられた使命だと考えています。ただの武器ではなく、手にする人、あるいは目にする人にとって、何か意味を持つ存在でなければなりません。現代において日本刀は主に美術品として鑑賞されるものであるからこそ、見る人の心を静かに癒すものであってほしいと思っています。
私が惹かれたのは、日本刀そのもの以上に、それを作り続ける刀鍛冶という職人の生き方でした。日々、火と鉄に向き合い、成功するか失敗するかわからない緊張感の中で技を磨き続ける―その覚悟と精神性に強い憧れを抱きました。奈良県の刀匠5・河内 國平氏の作品と姿勢には深い感銘を受け、その出会いが刀鍛冶を志す決意を固めるきっかけとなりました。河内氏が弟子を取らないという方針を知った後も、思いは揺らぐことなく、学びの場を探し求めました。そして現在の師である久保 善博氏と出会い、卓越した技と哲学に触れたことで、刀鍛冶として生きる覚悟をより強くしました。

Photo: 工藤 明日香
一般に日本刀といえば、侍が腰に差している姿を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、現代の刀匠が多く手がけているのは、侍の時代以前に用いられた「太刀6」です。太刀はより伸びやかな曲線を持ち、日本独自の美意識を最も端的に表現できる形式だと感じています。だからこそ、私の代表作もまた、侍の刀ではなく、かつて乗馬の際に用いられていた太刀なのです。
刀鍛冶として独立後もなお、課題や壁に直面し悩み続ける日々ですが、それは自分自身、そして鉄と向き合う修行が今も続いている証だと感じています。誰かと競うのではなく、自分自身と向き合い、昨日の自分を越えていく―その積み重ねがあるからこそ、後世にまで大切に受け継がれる日本刀が生まれるのだろうと思います。

Photo: 工藤 明日香
一振りの刀が完成するまでに注がれる膨大な時間と精神は、表に語られることはありません。しかし、長い歳月をかけて鍛え上げられたからこそ、美しさと魂が宿り、手にする人、目にする人の心を静かに揺さぶる力を持ちます。私の刀もまた、そんな存在でありたいと願っています。

ジョハン・ロイトヴィラー
スイス出身。17歳の時に展示会で日本刀の美しさに魅せられ、その後刀鍛冶になることを志して2017年に来日。5年間の修業を経て、2024年に外国人として初めて刀鍛冶の国家資格を取得。独立後は広島県に工房を構え、2025年度「現代刀職展 作刀の部」で努力賞一席及び新人賞を受賞した。刀匠名は光綱。
Photo: 工藤 明日香![]()
- 1. 刀を作る専門の職人。
- 2. 鎌倉時代初期から中期(12世紀末から13世紀半ば)にわたって栄えた、備前国福岡(現在の岡山県)の刀工集団一派。一文字派の名は、天下一を意味する「一」の字を銘に刻むことに由来するとされる。丁子の実(英名:クローブ)を連ねたような、華麗な形状の刃文が特徴。
- 3. 日本刀の制作過程の一つである、高温状態から急激に冷やして鋼を硬くする「焼き入れ」の際に付けられる白い波のような模様。
- 4. 道具は使われてこそ美しいという考え方を表す言葉。
- 5. 刀鍛冶と同義。
- 6. 刃を下に向けて腰に吊るす長大な刀剣で、主に騎乗用の武器として使用された。対する侍の刀は、太刀に比べてやや短小で、刃を上に向けて腰に締めた帯に直接差すのが特徴。
By Johan Leutwiler
Photo: KUDO Asuka

