VOL.215 MAY 2026
[SPRING SPECIAL ISSUE] ENJOYING JAPAN’S SPRING BY LOCAL TRAINS
「道南いさりび鉄道」で行く北海道の春の旅

道南いさりび鉄道とサラキ岬のチューリップ。
Photo: 道南いさりび鉄道株式会社
日本の雄大な自然や人々とのふれあいを楽しみたいなら、北海道の南西部を走るローカル線の「道南いさりび鉄道」に乗ってみるのはどうだろう。北の大地に訪れる遅い春の楽しみ方や同線の魅力について、道南いさりび鉄道株式会社企画営業課の春井 満広さんに話を聴いた。
道南いさりび鉄道は、2016年の北海道新幹線開業に伴い並行するJR江差線の経営を引き継いだ、北海道南西部の鉄道である。上磯郡木古内町から海沿いを行き、北斗市を経て、函館市に至るまでの総距離37.8kmを結んでいる。
道南いさりび鉄の始発駅・終着駅は木古内駅と五稜郭駅だが、実際には五稜郭駅からJR線に乗り入れて隣の函館駅まで列車は運行する。函館駅のある函館市は、札幌市と旭川市に次ぐ中核市で北海道の発展に深く関わった港町である。一方、木古内駅は北海道新幹線が乗り入れる駅で、東京駅まで線路で繋がっている。
道南いさりび鉄道の12ある駅のうち、木古内駅から上磯駅までの区間は津軽海峡に面して運行している。津軽海峡とは、北海道と青森県の地に挟まれた太平洋と日本海を結ぶ水域で、毎年6月から12月までにかけて函館市の名産の真イカ(スルメイカ)が獲れる優良な漁場である。真イカ漁では、船は夜のうちに海へ出て明かりを灯しながら獲物を捕らえる。暗闇の中に光が漂う、その幻想的な眺めは「漁り火」と古くから言われ、漁が最盛期を迎える夏の函館の風物詩になっており、「道南いさりび鉄道」の名前の由来でもある。
とりわけ泉沢駅から茂辺地駅までのあたりは、「見晴らしが良い区間で、車窓からの眺めは絶景です」と春井さんは言う。函館湾の向こうには函館山が見えるほか、気象条件が合えば、本州の青森県下北半島を臨むことができるという。

Photo: 道南いさりび鉄道株式会社

Photo: 道南いさりび鉄道株式会社
その道南いさりび鉄道が走る、函館市を中心とした道南地域には、春が訪れたらどのような風景が広がるのだろう。春井さんに尋ねると、沿線に咲き渡る花々の景色を挙げてくれた。
「本州から南の地域では、まずは春を告げる梅が咲き、その後に桜が咲くのが一般的ですが、こちらでは梅も桜もほぼ同じタイミングで咲きます。例えば函館市ですと、4月下旬頃に梅と桜が咲き始めて5月初旬の大型連休の前には終わりを迎えます。5月からチューリップ、マリーゴールドなどが花開きますが、4月上旬まで真っ白な雪景色だったところに次々と花が咲いて色鮮やかな景色に変わるというのが、北海道の春です」
沿線の春の花の名所としては、渡島当別駅が最寄りの「トラピスト修道院」の八重桜の並木や、札苅駅が最寄りの「札苅村上芝桜園」の芝桜、釜谷駅が最寄りの「サラキ岬」のチューリップ花壇などが知られているそうだ。

Photo: 道南いさりび鉄道株式会社

道南いさりび鉄道の路線図。点線はJR線の乗り入れ区間。
道南いさりび鉄道では、地域住民が生活の足として利用する定期列車のほかに、「ながまれ海峡号」という貸切の観光列車も運行している。「ながまれ」とは、道南地域の方言で「ゆっくりして・のんびりして」を意味し、通常片道約1時間の函館駅から木古内駅間を往復約4時間かけて走る。津軽海峡の絶景や、沿線地域の食材を使った料理が堪能でき、一時停車する茂辺地駅のホームに降り立つと、そこで行われるバーベキューで焼かれた新鮮な海産物が振る舞われるという。
このような列車の旅は沿線地域の協力を得て成り立つそうで、人情味のあるもてなしは外国人観光客にも評判が良いという。「今後はアジアの国々をはじめとしたインバウンドの誘致にも力を入れたい」とのことだが、その一方で春井さんは地元への変わらぬ思いも語ってくれた。
「弊社は開業以来、沿線自治体の皆さんと共に歩んできました。2026年3月に10周年を迎え、これからも沿線地域の活性化に繋がる取組をしていきたいと考えています」
北海道の大地にはまもなく遅い春がやってくる。道南いさりび鉄道に揺られて、ゆっくりのんびりと「ローカル線の春の旅」を体感してほしい。
By TAKADERA Kuriko
Photo: South Hokkaido Railway Company

