VOL.215 MAY 2026
[SPRING SPECIAL ISSUE] ENJOYING JAPAN’S SPRING BY LOCAL TRAINS 秘境列車・只見線で出会う春の奥会津


桜の木の間を通過する只見ただみ線の車両。
Photo: 福島県

かつて豪雨のため一部区間が不通になったものの、住民の声に応えて11年後に全線復旧した只見ただみ線。福島県の会津若松あいづわかまつ駅から新潟県の小出こいで駅まで全長135.2kmを繋ぎ、春になると残雪と新緑、桜が織りなす美しい景色が車窓に広がるこの路線の春ならではの見どころを紹介する。

只見線の路線図

福島県と新潟県の県境、おく会津あいづと呼ばれる山深い地域を走る只見線は、只見川に沿って何度も橋梁きょうりょうを渡りながら進む。渓谷を縫うように走るその姿は、海外メディアで「世界一ロマンチックな鉄道」と紹介され、近年は海外からも多くの観光客が訪れている。

しかし、この路線はかつて存続の危機に立たされたことがある。2011年7月の豪雨災害で複数の橋梁が流失し、一部区間が不通になったのだ。冬になると山を越える道路が雪で閉ざされるこの地域に住む人々にとって、只見線は欠かせない生活の足だった。沿線住民から切実な再開の願いが寄せられ、福島県と沿線自治体、鉄道会社が協力して復旧に尽力した結果、2022年10月に待望の全線運転再開を果たした。

福島県只見線管理事務所主事の箱崎はこざき 翔大しょうたさんは、「只見線があるからこそ、観光に訪れる方々が山深い奥会津まで足を運んでくれます。沿線の自治体も只見線の復活をきっかけに、地域をさらに盛り上げていこうという熱意を持っています」と語る。

旅の起点となるのは、城下町の風情が残る会津若松駅。まずは駅からバスに乗り、鶴ヶ城つるがじょうへ向かいたい。あかがわらを頂く天守閣が満開の桜に彩られる姿は見事で、城下町の春を象徴する光景だ。


満開の桜と鶴ヶ城つるがじょうの天守閣
Photo: (一財)会津若松観光ビューロー

只見線に乗り込み、のどかな会津盆地を後にすると、やがて奥会津の玄関口である会津柳津あいづやないづ駅に到着する。駅近くにある福満ふくまん虚空藏こくうぞう菩薩ぼさつ圓藏寺えんぞうじでは、桜と歴史ある寺院が調和した日本らしい春の情緒を楽しめる。


桜の花が咲く福満ふくまん虚空藏こくうぞう菩薩ぼさつ圓藏寺えんぞうじ

列車が只見川に沿って山間部へと進むにつれ、車窓の景色はダイナミックさを増していく。しばらくすると、只見線を代表する絶景スポットである第一只見川橋梁に差しかかる。列車が橋を渡る間、眼下には只見川の穏やかな水面に山々の緑が映る圧巻の景色が広がる。


第一只見川橋梁の上を走る只見線。道の駅尾瀬おぜ街道かいどうみしま宿じゅくから徒歩で行ける展望台からは、車両、橋、水面、新緑を同時に見ることができる。

地域コーディネーターとして車内ガイドを務める酒井さかい 治子はるこさんは、「この辺りから只見川を渡る橋梁が次々と現れます。春は新緑が芽吹き、橋を渡るたびに景色が変わっていくのが魅力です」と語る。

早戸はやと駅では、ぜひ途中下車して「霧幻峡むげんきょうの渡し」を体験したい。かつてこの地域では、橋のない対岸の集落へ渡るために手こぎの舟が使われていた。その渡し舟の文化を、地元の有志が観光向けに復活させたのだ。


霧幻峡むげんきょうの渡しの手漕ぎ舟からは、只見川沿いを走る只見線の車両を見ることができる。

「特に5月から6月にかけては、雪解け水によって只見川が鮮やかなエメラルドグリーンに染まり、周囲の山々の新緑と見事なコントラストを描き出します。また、気温が上がるこの時期は川面に霧が立ち込めやすく、深い霧の中を舟がゆったり進む様子は幻想的です。舟の上から只見線の列車を眺めることもできます」

福島県最西端の只見駅周辺は、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)1にも登録されたブナの原生林が広がる自然豊かな地域だ。4月下旬から5月にかけて、山肌の残雪を割るようにブナの新芽が顔を出すと、山の景色は日ごとに鮮やかさを増していく。

「朝にはわずかだった緑が夕方には一気に広がり、山全体がやわらかな新緑で覆われていきます。芽吹いたばかりの緑色は、桜以上に奥会津の美しい景色だと思います。只見駅のすぐ近くの山でも、2時間ほどのトレッキングプログラムでブナ林の新緑を楽しめますよ」

只見線に乗っていると、列車に向かって手を振る地元住民の姿を見かけることがある。これは新潟県魚沼うおぬま市から始まり、福島県の只見町など五町村と合わせた沿線六市町村で制定された「只見線に手を振ろう条例」に基づく活動だ。「列車を見かけたら手を振る」という温かな習慣を生むこの条例は、乗客者へおもてなしの気持ちを示すとともに、住人の只見線に対する愛着を深め、只見線を応援することを目的に生まれたものだという。


只見線の車両に手を振る住民
Photo: 酒井 治子

只見線沿線は標高差が大きく、桜や新緑の見頃が4月中旬から5月にかけてリレーのように移り変わっていく。この時期、常に沿線のどこかで春らしさに出会えるのが只見線の魅力だ。

「奥会津は、日本の原風景と、そこに暮らす人々の温もりが今も大切に残されている場所です。只見線に乗って、ふるさとに帰ってくるような心地良さを感じていただけたら嬉しいですね」

  • 1. 生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目的としたユネスコの事業。地域の自然と文化を守りながら地域社会の発展を目指す取組。日本では10地域が登録されている。

By MURAKAMI Kayo
Photo: Aizu-Wakamatsu Tourism Bureau; SAKAI Haruko; Fukushima Prefecture; PIXTA

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