VOL.215 MAY 2026
[SPRING SPECIAL ISSUE] ENJOYING JAPAN’S SPRING BY LOCAL TRAINS 樽見鉄道で訪ねる春の名所

谷汲口たにぐみぐち駅周辺の桜のトンネルを走る樽見鉄道

岐阜県の大垣おおがき駅から樽見たるみ駅まで、全長34.5kmを走る樽見たるみ鉄道。根尾川ねおがわと並走し、山間の渓谷を走るこのローカル線は、春になると桜の名所を繋ぐため、「桜鉄道」と言われ多くの人々でにぎわう。樽見鉄道の企画営業課の河瀬かわせ 七留美なるみさんに、見どころを聴いた。

樽見鉄道の路線図

愛知県名古屋市の名古屋駅から電車で約40分の岐阜県大垣駅を起点に、山間部へと向かう樽見鉄道。もともとは国鉄1樽見線として1956年に一部区間が開業し、1984年に第三セクター2の樽見鉄道として生まれ変わり、神海こうみ駅から樽見駅までの約11kmを延伸した。現在は1両編成のワンマン列車が、田園風景や山あいの渓谷を縫うようにして走っている。樽見鉄道で広報やアテンダントを務める河瀬さんは、「短い区間に、日本の歴史、文化、食、自然がぎゅっと詰まっています」と語る。


根尾川ねおがわの渓谷に架かる橋梁きょうりょうを走る樽見鉄道。

樽見鉄道は、揖斐川いびがわに1か所、犀川さいがわに1か所、根尾川に10か所と合計12か所もの鉄橋を渡りながら山間部へと進む。うねるように流れる川を線路がまっすぐに突っ切るため、車窓からはダイナミックな景色を臨むことができる。河瀬さんは、「山と川の間に線路が走る急流の景色は、日本ならではと言えます」と語る。

春になると、この沿線は各地で満開となる桜に彩られる。

始発点である大垣駅から徒歩圏内の水門すいもんがわでは、毎年3月下旬から4月上旬に桜の花を眺めながらの舟下り、4月下旬から5月上旬に新緑に囲まれながらたらい舟が体験できる(要事前予約)。大垣駅がある大垣市は、豊富な地下水に恵まれていたことから、古くから「水都」と呼ばれており、市内の中心部を流れる水門川沿いに咲く約100本もの桜や美しい新緑を見ながら舟に揺られる体験は観光客にも人気だ。


新緑を眺めながらたらい舟に乗ることができる。
Photo: 大垣観光協会

大垣駅から樽見鉄道に揺られ北上した先にある谷汲口たにぐみぐち駅では、周辺を埋め尽くすように桜が植えられており、満開の時期には列車が桜のトンネルを抜けるような幻想的な光景を楽しむことができる。

また、谷汲口駅からバスで10分のところにある谷汲山たにぐみさん華厳寺けごんじは、平安時代(8世紀末から12世紀末)から続く古い寺で、春には参道の桜が美しく、名所として知られている。


春には桜の名所として知られる谷汲山たにぐみさん華厳寺けごんじの参道。
Photo: 揖斐川町

さらに北へ進んだ日当ひなた駅は、樽見鉄道の絶景スポットの一つ。待合室のすぐ背後に桜の木があり、近くの鉄橋やトンネル、そして列車が1枚に収まるフォトジェニックな場所として人気が高い。


日当ひなた駅のホームと桜、鉄橋が美しい風景を作り出す。

終点の樽見駅で下車し、坂道を15分ほど歩くと、日本三大桜の一つに数えられる根尾谷ねおだに淡墨桜うすずみざくらが姿を現す。樹齢1500年を超えるこの一本桜は、1922年に国の天然記念物に指定された。「淡墨」という名前は、淡い桃色のつぼみが、開花すると白になり、満開になった後は淡い墨色に変化することが由来だ。例年、3月下旬から4月上旬には、1日約8千人もの花見客が訪れることもあるそうだ。

「1500年もの間、地元の方々に大切に守られてきたからこそ、今も淡墨桜は立派な姿を見せてくれます。沿線にはその子孫にあたる桜もたくさん植えられており、「桜鉄道」と呼ばれるほど、沿線が桜一色になります。ぜひ、駅周辺も散策してみてください」


満開の根尾谷ねおだに淡墨桜うすずみざくら
Photo: SOU株式会社

樽見鉄道の楽しみは、絶景だけではない。沿線では、春には山菜、夏には根尾川で育ったあゆを使った郷土料理を食べることができる。秋になると、この地域の特産品で「甘柿の王様」と呼ばれる富有ふゆうがきが旬を迎え、冬には名物のジビエがおすすめだ。樽見鉄道ではこうした地元の食を車内で楽しめる企画列車を季節ごとに運行し、好評を博しているという。

さらに、樽見鉄道の魅力を語る上で欠かせないのが、カラフルで個性豊かな車両と駅舎が醸し出すノスタルジックな雰囲気だ。

現在運行しているのは全6両で、根尾川の清流をイメージした水色の車両のほか、地元の企業の広告が描かれたカラフルな車両が走っている。自然豊かな景観の中をポップなデザインの列車が走る姿は愛らしい。


カラフルでポップな色の車両が6両運行している。
Photo: SOU株式会社

沿線の19駅のうち17駅が無人駅であり、その多くは開業当時の姿をそのまま残している。建て替えられることなく守られてきた木造の待合室や手書きの看板は、どこか懐かしさを感じさせる。「最近は「昭和レトロ3」の風情を求めて訪れる若い方も増えています」と河瀬さん。

古い駅舎に降り立ち、周辺を散策しながら次の列車を待つ時間もローカル線の旅ならではの楽しみだ。桜が咲き、新緑が芽吹く時期に、ぜひ訪れてみてほしい。

  • 1. 日本国有鉄道の略称。1987年に六つの地域別の旅客鉄道会社と一つの貨物鉄道会社などに分割し民営化された。
  • 2. 国や地方公共団体と民間企業との共同出資により設立された事業組織体。
  • 3. 昭和時代(1926年から1989年)の生活や文化を思い起こさせる物やデザイン、文化や雰囲気のこと。

By MURAKAMI Kayo
Photo: SOU Inc.; Ibigawa Town; Ogaki Tourism Association; PIXTA

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