VOL.215 MAY 2026
[SPRING SPECIAL ISSUE] ENJOYING JAPAN’S SPRING BY LOCAL TRAINS
市民に愛され続ける路面電車に乗って高知の日常に溶け込む体験を

高知市街をのんびりと巡るのにうってつけな「とさでん交通」の路面電車
Photo: とさでん交通株式会社
「南国土佐」と称され、日本で一番早く桜の開花宣言が出ることもある高知県は、現存する日本最古の歴史を持つ路面電車が走っていることでも知られている。心浮き立つ春の訪れを、路面電車の窓の外を流れ行く景色から感じる旅へ。高知の日常に溶け込む、特別な旅に出かけてみよう。

とさでん交通の路線図
高知県の中心都市・高知市には、120年以上前から市民に親しまれてきた路面電車が今も走っている。1904年5月、日本で10番目に開業したこの路面電車は、開業当初から続く軌道として日本一古い歴史を持つ。路線は高知市の交通の中心である「はりまや橋」を起点として、東へ後免線、西へ伊野線、北へ駅前線、南へ桟橋線が運行。総延長25.3km、76駅(電停)を結ぶ、路面電車としては国内最長級のネットワークを形成している。
市街地から郊外まで移動できるため、路面電車は観光客にとっても分かりやすく利用しやすい交通手段だ。路面電車を運行する、とさでん交通株式会社 電車事業部電車企画課の高橋 美穂さんは「路面電車は高知の人々にとって必要不可欠な社会インフラです。同時に、観光客の方にとっては路面電車に乗ること自体が、旅の目的になっているようです。街の暮らしや地元の文化を感じながらの移動は、大きな楽しみではないでしょうか」と話す。

Photo: とさでん交通株式会社
春の高知市は、路面電車の沿線に見どころが散在する、観光のベストシーズンだ。中でも菜園場町電停から歩いて1分ほどの場所では、堀川沿いに咲く120本以上の桜並木を眺めることができる。伸びた枝が重なり合ってできた桜のトンネルは見ごたえ抜群の景観。遊覧船に乗って、水上から見上げる桜もまた一興だ。

高知城前電停から歩いて3分ほどで到着する高知城も、春ならではの姿を見せてくれる名所。高知城は城主が生活をしていた「本丸」内に、創建当時にあった全ての建物が再建されて今に残る日本唯一の城で、15の建造物が国の重要文化財に指定されている。約220本の桜が城を囲む景色はまた格別。夜にはライトアップも行われ、幻想的な夜桜が訪問者を魅了する。

高知城は県庁前交差点を通過する際に路面電車の車内から眺めることができ、春には城を背景に桜を眺められる人気のスポットだ。
Photo: 高知城管理事務所
とさでん交通の路面電車の魅力は、沿線の風景だけに留まらない。懐かしい板張りの床を残すレトロ車両、とさでん交通開業当時の路面電車の姿を復元した「維新号」、日本の他の地域で使用されていた車両、ポルトガルやノルウェー、オーストリアから来た外国電車など、多彩な車両が走ることでも知られる2。

多種多様なデザインの車種があるのも魅力の一つ。左は開業当時の姿を復元した「維新号」、右は外国電車の数々。
Photo: とさでん交通株式会社
「1984年の開業85周年を機に「世界の電車」計画が始まり、異国の車両を導入しました。異国の車両を走らせることで、電車の魅力を改めて感じてもらいたいという狙いがあったようです」と高橋さん。外国電車による特別ツアーや車内で宴会を楽しむ「おきゃく電車3」など、電車をメインに据えたイベントも企画され、人と人を繋ぐ舞台としての役割を果たす。

Photo: とさでん交通株式会社
都市の中心部を120年以上に渡って走り続けてきた路面電車。ゆっくりと走る電車に乗り、窓の向こうに見えるひろめ市場帰りの人々、学校へ向かう学生、桜を見上げる家族の姿などを眺めれば、観光客もその日常に溶け込んだかのような気分を味わうことができる。街の中を走る路面電車は、その土地をゆっくり味わうための最良の案内役なのである。
- 1. 交差点で線路が平面交差すること。
- 2. 維新号や外国電車は現在貸切やイベントのみ運行し、定期運行は行っていない。
- 3. 高知県で話されている方言で、宴会のことを「おきゃく」という。
By YANAGISAWA Miho
Photo: Tosaden Traffic Co., Ltd.; Kochi Castle Management Office; PIXTA

