VOL.215 MAY 2026
[SPRING SPECIAL ISSUE] ENJOYING JAPAN’S SPRING BY LOCAL TRAINS [世界に伝えたい日本の伝統文化]700年守り続けてきた技を振るい、至高の一振りを成す―その厳しさに宿る日本文化の神髄


日本刀の原料である玉鋼たまはがね1を1,200度以上に熱し、不純物を除去するために叩いていく。
Photo: 工藤 明日香

外国人初の刀鍛冶かたなかじ2として、日本刀を作り続けるジョハン・ロイトヴィラーさん。700年以上途絶えることなく受け継がれてきた日本刀を通して見えてくる、人の心を打つ日本文化の神髄について、ジョハンさんにお話を伺いました。

日本刀の価値は「伝統工芸としての希少性」にあると、私は捉えています。海外に目を向けると、日本刀のように技術と精神性を守り続けながら、千年近く連綿れんめんと体系的に受け継がれてきた伝統工芸はほとんど残っていません。海外で日本刀が高い人気を集めるのは、その希少性ゆえだと私は感じています。


金属を加熱しながら、ハンマー一丁で叩いて形を作り上げる火造り3の工程を経た後、反り4を確認するジョハンさん。
Photo: 工藤 明日香

私たち現代刀匠とうしょう5は、刀を「美術品」として制作しています。私は作刀技術に憧れ、日本へ渡り、刀鍛冶になりました。おそらく同じ憧れを抱く外国人は少なくないでしょう。現代社会において、これほどまでに丹精を込めて制作される作品が、他にどれほどあるでしょうか。何本も鍛え、その中で最も優れた一本のみを世に送り出す。その厳しさ、その覚悟、その価値観が、多くの外国人の心を強く打ちます。そこにこそ、美術品としての本質があるのです。


短刀の曲がりを調整し仕上げていく。
Photo: 工藤 明日香

現代の日本においては、日本刀は「古いもの」という印象が強いように思います。「時代劇のチャンバラ6」といったイメージが先行し、日本刀の美術的価値や精神性が十分に伝わりきっていない現実があると感じています。日本刀は単なる武器ではなく、日本の文化そのものを宿す存在です。ヨーロッパをはじめとする海外には、数百年前から工芸品を「美術品」として鑑賞する文化があります。700年にわたり受け継がれた日本刀の技術を、今なお忠実に守り、再現し続けている―その尊さを今、とりわけ外国人が深く感じ取っているのかもしれません。時代ごとに異なる刀の姿や4地鉄じがね7、刃文8には、それぞれの時代の精神が刻まれています。その違いを熱心に学ぶ外国人も少なくありません。日本刀の作刀工程や専門用語の中には、当時の日本人の美意識や価値観を示すヒントが数多く隠れているのです。


ジョハンさんが手掛けた、直線的な刃文8である直刃すぐは小柄こづか小刀こがたな9
Photo: 工藤 明日香

日本の文化は、国籍を問わず人の心を打つ力を持っています。日本刀を通して、その奥深さに触れ、興味を持っていただけたなら—。それは刀匠として、これ以上ない喜びです。

ジョハン・ロイトヴィラー
スイス出身。17歳の時に展示会で日本刀の美しさに魅せられ、その後刀鍛冶になることを志して2017年に来日。5年間の修業を経て、2024年に外国人として初めて刀鍛冶の国家資格を取得。独立後は広島県に工房を構え、2025年度「現代刀職展 作刀の部」で努力賞一席及び新人賞を受賞した。刀匠名は光綱みつつな
Photo: 工藤 明日香
検索:ジョハン・ロイトヴィラー

  • 1. 日本刀の刀身の原料で、砂鉄をとかした鋼鉄のこと。
  • 2. 刀を作る専門の職人。
  • 3. 金属を加熱して、力を加えながら変形させて形を作り上げること。鍛造たんぞうともいう。
  • 4. 日本刀の刀身が湾曲していることを指す。
  • 5. 刀鍛冶と同義。
  • 6. 刀で斬り合うこと。また、それを見せ場とする芝居や映画などを指す。
  • 7. 日本刀は、粘りと強度を引き出すために、原料となるはがねを折り返しながらたたくが、これを折り返し鍛錬と言う。折返し鍛錬の結果、日本刀は刀身の表面に模様が現われる。この鉄の肌模様を地肌と称し、その素地を地鉄じがねと言う。
  • 8. 日本刀の制作過程の一つである、高温状態から急激に冷やして鋼を硬くする「焼き入れ」の際に付けられる白い波のような模様。
  • 9. 日本刀の柄にあたる部分を「小柄こづか」、刃の部分を「小刀こがたな」という。また、小刀を含めて「小柄」と称する場合もある。細身の短刀で、実用性よりも装飾性が強い。

By Johan Leutwiler
Photo: KUDO Asuka

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