VOL.198 NOVEMBER 2024
JAPANESE RAMEN AND ITS GLOBAL EXPANSION 日本のラーメンのおいしさを科学的に解明する

豚骨とんこつラーメンの一例

訪日外国人からも人気を集める「日本のラーメン」。日本のラーメンには、醤油、味噌、塩あるいは豚骨とんこつといった種類があり、また、麺の太さの違い、地域特産の具を使うといった地域差などもあり、多種多様だ。日本では全国約18,000のラーメン店*があるが、ここ15年ほどで、海外でもラーメン店が続々と開店している。ラーメンがなぜこんなに世界に受け入れられているのか。豚骨ラーメンについて研究されている九州産業大学生命科学部教授の米満よねみつ 宗明むねあきさんに、科学的な観点からお話いただいた。


米満よねみつ 宗明むねあきさん
34年間、食品メーカーの技術者として、日本国内、海外の加工食品の開発、生産、品質管理、販売・マーケティングを行う。2017年から九州産業大学生命科学部生命科学科教授。専門は食品加工で「九州豚骨ラーメンのおいしさ解明」等をテーマに研究を行っている。

昨今、海外でも広く人気を博している日本のラーメンですが、まず、そのおいしさについて、科学的な観点からお話していただけますでしょうか?

ラーメンに限らないのですが、基本的に人間が食べ物をおいしいと感じる味には、バランスというものが存在します。例えば、人間がおいしいと感じる塩分濃度の数値の範囲は大体決まっていて、どんな食べ物であってもその範囲内に入らないとおいしく感じない。それは我々の体を構成する細胞の塩分濃度に由来します。大体0.9%なのですが、その数値に近いとおいしく感じるのです。ちなみに、例えばコンタクトレンズの洗浄用水である生理用食塩水やスポーツドリンクの成分であるアイソトニックの塩分濃度も0.9%です。濃度が同じになると、体が吸収しやすいという特徴もあります。

それから、味を構成する要素としては、ペプチドなどのアミノ酸や糖類があります。これらの構成要素も私たちの体に必要な要素です。人間は甘いものをとると気持ちがよいと感じるのですが、これは生物が進化の過程で糖分をとるとエネルギーになると気付いたからにほかなりません。その気持ち良さが積極的に糖類を摂取することの動機付けになるのです。

なかでも特においしさを左右すると言われる「うま味」はグルタミン酸というアミノ酸によるものですが、グルタミン酸はタンパク質を構成します。生物の筋肉を作るために必要な栄養素ですから、人間はこれを食べた時に心地よいと感じるようになっています。

こういったことが、人間がおいしいと感じるメカニズムです。この人間のメカニズムは、人種や生活している地域によって差がありませんから、だしによってうま味が多く、適度の塩分が含まれたラーメンが世界的に受け入れられているのも、実は不思議ではないのです。ただ、それぞれの国や地域によって異なる食文化がありますので、その固有の食文化にはない料理という点で、ラーメンを改めておいしく感じるということはあると思います。

器の中で「たれ(かえし)」とだしをとった「スープ」とを合わせ、そこにゆでた麺を入れてラーメンを作る

先生が研究テーマとされている豚骨ラーメンは、ほかのラーメンと比べてどういったことが特徴でしょうか。

日本ではラーメンの種類を味噌ラーメン、醤油ラーメン、塩ラーメン、豚骨ラーメンと分類しますが、実はその分類は正確ではありません。というのも、ラーメンのスープは、基本的に「たれ(かえし)」と「だし」で作ります。「だし」は洋食では「フォン**」と呼ばれていますね。また店によって量は違いますが、ラーメン用の器に、少量のたれを入れて、だしで薄めてスープをつくり、そこにゆでておいた麺を入れます。この「たれ」というのは、お醤油、味噌、塩といった味を決定する調味料を主原料とし、「かえし」とも言います。醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンといった分類は、この「たれ」の主原料による分類になります。しかしながら、豚骨ラーメンは、後述しますが、一般に豚骨を強火で炊き、白濁した「だし」を使用したものをそう呼びます。「たれ」の種類には拠りません。

ラーメンの分類と「たれ」・「スープ」

ラーメンは、「たれ」の原料と「スープ」の取り方(だし)による分類がある。たれの原料による分類は一般的に醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメン。スープの取り方による分類は、原材料(豚骨、鶏ガラ、野菜等)を静かに加熱して濁らないタイプと、強火で加熱して白濁する豚骨ラーメンのようなタイプがある。

豚骨ラーメンだけスープのだし特性に由来している
資料: 米満さん提供

豚骨ラーメンだけ、スープに由来した名前なのですね。

はい。主に関東の醤油ラーメンや味噌ラーメンは基本的にスープを濁らせないよう弱火でゆっくりたき上げて、澄んだスープをベースにしています。ところが、豚骨スープは強火でガンガン煮るのです。そうすると原料の豚の骨や鳥の骨に含まれている油が乳化して、白濁します。この乳化が風味を前面に押し出し、豚骨ラーメン独特のコクと味の広がりをもたらし、おいしさの秘訣となるのです。

豚骨ラーメンは、店によって骨の部位や炊き出し方法、灰汁あくの処理に違いがあり、それによって味わいや好みも変わります。また、スープの味がのりやすい細い麺を選ぶのか、麺の食感が楽しめる太い平麺を選ぶのかでも味は変わります。さらに豚骨スープに醤油をあわせるか味噌をあわせるかでも変わってきます。それらの組み合わせ次第で味は全く変わってきますので、限りないバリエーションがあるのです。


細麺の一例。スープの風味を伝えやすい麺という。

豚骨ラーメンでしたら、だしをとる骨の部位、麺の太さ、たれなどを各店舗で選択して最良と考える組み合わせを見つけているのですね。何か法則のようなものはあるのでしょうか?

実際にラーメンを調理している料理人さんと話をすると、皆さん長年の経験や勘からそれぞれのお店での正解を見つけているようです。ただ、研究者としては、その組み合わせを科学的に解明して、言語化していきたいと考えています。

一方で先生は、以前日本国外でインスタントラーメンの開発に携わっていたかと思いますが、海外のかたに受け入れられるラーメンというのはどのようなラーメンだったのでしょう?

私は、かつて日本の食品メーカーの技術者としてポーランドやタイ、ペルーでインスタントラーメンの立ち上げや開発を行っていました。例えばポーランドでは、まずその国で一番飲まれているスープを調べました。ポーランドではきのことトマトのスープがよく飲まれていたので、そのスープをベースにインスタントラーメンを開発しました。元々ポーランドではコメコン***の経済政策の一環として、多くのベトナム人が留学していました。彼らは留学のときに山のようにインスタントラーメンを持っていき、それがポーランドのかたにも広がっていたので、インスタントラーメンが一般的になっていたのです。

そういった背景があって、日本のラーメン店も進出しやすかったのですね。

そうですね。私がヨーロッパにいた2000年初頭には、もう既に日本ラーメン店がありました。ただそれは、日本人ではなく現地の方が経営しているラーメン店でした。その後、欧米のニューヨークやロンドンなど主要な都市にラーメン店が出店し、人気が出たと記憶しています。そういった経緯から、昨今一気にラーメンブームが起こったというよりも、2000年の初頭からだんだん広がっていったのではないかと思います。

今後のラーメンのその展開について、日本国内や海外を含め、今後どうなっていくかといった展望などございますか。

日本食のラーメンというのは当然グローバルに広がると思いますけども、一方で各国の食文化に合うラーメンっていうのが新たに登場するのではないかと思います。例えばハラル圏****では、豚骨を使わない豚骨風味のラーメンが増えてきています。またヴィーガン*****に向けたラーメン、地域の食文化に基づいたラーメンなど、新たな種類がどんどん増えていくのではないかと思います。


ヴィーガンラーメンの一例。******九州豚骨ラーメンのバリエーション。
Photo: 九州じゃんがら

食文化の多様化とともにラーメンの形も変わっていく可能性があるということですね。最後に海外のかたがラーメンをおいしく味わうコツを教えてください。

さきほど申し上げたとおり、それぞれの国によって異なる食文化があります。日本が他の国と大きく違う食文化として「すする文化」があると思います。音をたてて麺をすする、これは欧米では恥ずかしいこととされてきました。ですがラーメンのおいしさというのは、麺に絡んだスープをすすったときに、風味が口のなかで広がるというところだと思います。そこで、ぜひ恥を捨てて音をたててすすってみることをおすすめします。それができると「今までとは違う味覚の境地が広がりますよ」とお伝えしておきます。


* 平成28年経済センサス<産業別集計> サービス関連産業Bに「ラーメン店」として登録されている店舗数
** フランス料理で、子牛の骨や筋から取っただし汁。ソースや煮込みの下地に使う。
*** 1949年、ソ連と東欧社会主義諸国間の経済協力を目的として設立された国際機構。 ソ連、東欧諸国のほかに、モンゴル、キューバ、ベトナムなども加盟していたが、ソ連の崩壊により解散した。
**** ハラルとはイスラム教徒の人々が生活全般において指標としているもの。食べ物においては豚肉やアルコールが禁忌とされている。
***** 一般的に一切の動物性食品の摂取を避ける、完全菜食主義の人々のこと。
****** 植物性原料のみを使用し豚骨スープの風味を再現。トッピングの焼豚には主として大豆を原料としたヴィーガンミートを使用している。


By MOROHASHI Kumiko
Photo: Kyushu Jangara; Provided by Prof. YONEMITSU; PIXTA

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