VOL.198 NOVEMBER 2024
JAPANESE RAMEN AND ITS GLOBAL EXPANSION インスタントラーメンの生みの親 安藤百福ももふく


安藤 百福ももふくさん(1910年生、2007年没)
Photo: 日清食品ホールディングス

忠実に再現された百福の研究小屋(カップヌードルミュージアム 横浜)
Photo: 日清食品ホールディングス

世界で初めてインスタントラーメンを発明した安藤あんどう 百福ももふくさん。1958年に世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発明し、以来、生涯を通じて新たな食文化を生み出した。日清食品ホールディングス 広報部の荒川あらかわ 友博ともひろさんに、インスタントラーメンの発明と発展にかけた安藤百福さんの96年間の人生の歩みについて話を聞いた。

「安藤百福は1910年生まれです。実は、第二次世界大戦後、日本は食糧難となり、おなかをすかせた人々が街にあふれ、栄養失調のために行き倒れになる人が後を絶ちませんでした。この悲惨な光景を見た安藤は「やっぱり食が大事。食がなければ、衣も住も、芸術も文化もあったものではない」と食の大切さを痛感しました。ある時、大阪駅近くのやみ市*を通りかかった安藤が目にしたのは、寒空のもと、屋台の一杯のラーメンを食べるために並ぶ人々の長い行列でした。安藤は日本人が麺類好きであることを改めて実感したと同時に、この行列に大きな需要が隠されていることを確信しました。この経験が、のちに大発明を生むきっかけとなりました。それから約10年後、安藤が47歳の時、闇市のラーメン屋台の光景を思い出し、"お湯があれば家庭ですぐ食べられるラーメン"を作ろうと決意しました。安藤は自宅の裏庭に立てた小屋で、1日平均4時間という短い睡眠時間で丸1年間、たった一人で1日の休みもなく、その実現に向けて研究を続けました」

その開発の過程で克服すべき高い壁となったことが二つあったという。「長い間保存できること」、「調理が簡単なこと」という、保存性と簡便性の実現だ。しかし、これは思いがけないひらめきで克服できたという。

「ある日のこと、安藤は妻が天ぷらを揚げているのを見て、これをヒントに「瞬間油熱乾燥法」を思いつきました。麺を油で揚げると、麺の水分が高温の油ではじき出され、ほぼ完全に乾燥した状態となり、麺を常温で6か月間保存することを可能にしました。水分が減ったため、腐敗の原因となる微生物の繁殖を抑えられるからです。また、乾燥した麺は、目には見えませんが、水分が抜けたあとの微細な穴が無数に空いた状態のため、お湯を注ぐと、その微細な穴からお湯が吸収されて麺全体に浸透し、元のやわらかい状態に戻ることを確認し、製法として確立したのです。この製法は特許として認められ、今でもインスタントラーメンの基本的な製法となっています。

「瞬間油熱乾燥法」のイメージ。左:蒸した麺。中:油で麺を揚げた状態。水分が抜けて微細な穴が無数に空く。右:お湯を注ぐと穴から吸収され、短時間で元の状態に戻る

1958年8月、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」の発売が開始された。お湯を注ぐとたった2分で食べられる「チキンラーメン」は、当時の常識では考えられない食品だったため「魔法のラーメン」と呼ばれ、日本国内で大ヒットした。


世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」。写真は当初のパッケージ
Photo: 日清食品ホールディングス

しかし、世界初のインスタントラーメンを発明した後も安藤さんは更に研究を続け、どんな場所でも手軽に食べられるインスタントラーメンの開発を進めた。

「1966年、インスタントラーメンを世界に広めようと考えた安藤が、欧米へ視察旅行に出かけた時のこと。アメリカで訪れたスーパーの担当者たちは、「チキンラーメン」の麺を小さく割って紙コップに入れ、お湯を注ぎフォークで食べはじめました。日本と違ってアメリカには、どんぶり**も箸(はし)もないという状況を安藤は目(ま)の当たりにしたのです。この経験をヒントに、安藤はインスタントラーメンを世界食にするためのカギは食習慣の違いにあると気づき、麺をカップに入れてフォークで食べる新製品の開発に取りかかりました。こうして1971年に完成したのが世界初のカップ麺「カップヌードル」です」


欧米視察中の安藤さん(後列中央)
Photo: 日清食品ホールディングス

世界初のカップ麺「カップヌードル」
Photo: 日清食品ホールディングス

日本で生まれたインスタントラーメンは、食習慣の壁を越えて、世界中でおいしく、そして簡単に食べられるようになり、いまや世界食***となってして発展、広く海外にも定着している。

日本の大阪府池田市と神奈川県横浜市にある二つのミュージアム****では、この安藤さんのインスタントラーメンの発明の歴史や、96歳で生涯を閉じるまで新しい食の創造に捧げた人生の軌跡を紹介している。その他、発見・発明のヒントを学べる展示や、世界にひとつだけのオリジナルカップヌードルをつくる体験なども楽しめるという。インスタントラーメンに興味を持つ方、あるいはラーメンが好きなかたはぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。


「カップヌードルミュージアム 横浜」での展示・アトラクションの一例。具材やスープの種類を選んでオリジナルの「カップヌードル」をつくれる。
Photo: 日清食品ホールディングス

インスタントラーメンの発明の歴史などが展示されている「カップヌードルミュージアム 大阪池田」 
Photo: 日清食品ホールディングス

* 戦後の混乱期などに、統制を受けずに自由に物資を売買した市場
** 食物を盛るための厚手で深い陶製の大きな鉢。
*** 世界ラーメン協会(WINA)の調べによると、2023年の実績で、袋麺 約933億食、カップ麺 約269億食の合計1,202億食が販売された。
**** 「カップヌードルミュージアム 横浜」は神奈川県横浜市中区新港に、「カップヌードルミュージアム 大阪池田」は大阪府池田市満寿美町に所在。


By KUROSAWA Akane
Photo: NISSIN FOODS HOLDINGS CO., LTD.

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