VOL.209 NOVEMBER 2025
ENJOYING JAPAN’S MARKETS
[世界に伝えたい日本の伝統文化]使うことで完成する器―暮らしの中で育つ唐津焼の魅力

マイクさんが手掛けた、日常に寄り添う器の数々
Photo: ISHIZAWA Yoji
「焼き物は使ってこそ価値がある」と語り、日常で使う器を作り続ける陶芸家のマイク・マルティノさん。使い込むほどに味わいを増す唐津焼1の魅力と、日常を豊かにする器との付き合い方について語ってもらいました。
私が作る器は、全て使うためのものです。茶器2、食器、酒器、花器。どれも人々の暮らしの中で実際に使われることを前提に作っています。工房を見学したお客様からよく、「この器は美しいから部屋に飾りたい」と言われることがありますが、私はいつも「棚に飾るのではなく、どんどん使ってください」と伝えています。なぜなら、唐津焼は使い込むほどに味わいが深まっていく「育つ器」だからです。

Photo: ISHIZAWA Yoji
私は作品によって使用する土を使い分けています。どの作品も機能性を第一に考えていますが、その先にある美しさや使う楽しさも意識しています。例えば、レストラン向けの器は、毎日の洗浄に耐えられるよう固く焼き締まった土を使います。一方、茶器や個人のお客様向けの器は、日々の暮らしで使う楽しみを感じていただけるように、あえて変化しやすい「育つ土」を選ぶこともあります。「育つ土」で作った器は、長く使っていくうちに、釉薬3の表面にある細かなひびに茶渋4などが少しずつ染み込み、器の表情が変わっていきます。使わずにただ飾っておくだけでは、こうした変化や味わいは生まれません。つまり、「使わなければ損」なのです。使う人が時間をかけて自分だけの器を育てていけることが唐津焼の魅力。皆さんには、器が少しずつ変わっていくプロセスも含めて、楽しんでもらえたらと思います。

作品に応じて、さらさらしたものから粘土質のものまで使用する土を使い分ける。
Photo: ISHIZAWA Yoji
器と暮らしとの関係は、地域の文化の中にも深く根付いています。私の工房がある佐賀県には「唐津くんち5」という伝統的な秋祭りがあります。祭りの時期になると、各家庭でゲストをもてなすために大きな魚を一匹丸ごと調理した「あら6の姿煮」という魚料理が食卓に並びます。その魚を盛りつけるために、直径50cmを超える唐津焼の大皿が古くから作られてきました。今でも祭りの時期が近づくと、この大皿の注文をいただくことがあります。粘り気の少ない唐津の土で大皿を作ると、乾燥させる時に割れやすく、技術的にも難しい挑戦です。しかし、こうした地域の文化と結びついた器づくりも、陶芸家としての私の大切な仕事だと考えています。

提供:(一社)唐津観光協会

提供:(一社)唐津観光協会
器が暮らしにどう馴染むのか。それを知るために、私自身が自分の作品の一番の使い手になることを心掛けています。私の工房には少し傷が付いていてお客様には売れないけれど、普段使うには全く問題のない作品が並んでいます。これらは私や家族が日常で使うためのものです。新しい形の器を作った時に、実際に料理を盛ってみて、大きさはどうか、食べやすいか、洗いやすいかなどを自分の暮らしの中で試すのです。妻は一番正直な批評家で、「持ちにくい」「料理が盛りにくい」といった率直な感想を伝えてくれます。こうした家族からの正直なフィードバックは、次の作品づくりに活かしています。

Photo: ISHIZAWA Yoji
西洋では実用的な器と美術品は区別されますが、日本では暮らしの道具が芸術にもなります。美しさと機能性を兼ね備え、日々の暮らしに寄り添う器をこれからも作っていきたいです。

マイク・マルティノ
アメリカのニューメキシコ州出身。幼少の頃から古代遺跡などを訪れて陶片を掘ったり集めたりするなど陶器に興味を抱いており、1990年に来日、2002年に熟練の唐津焼陶芸家に師事して作品を作り始める。2005年には窯元として五反林窯を製造。多くの作品は茶道用茶器として使用されており、和食器、洋食器、酒器などの作陶も精力的に行っている。 ※工房見学を希望の場合には要事前予約
Photo: ISHIZAWA Yoji![]()
- 1. 佐賀県唐津市を中心に生産される陶器の総称。諸説あるが16世紀後半に始まったとされ、朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工の技術を取り入れたことで生産量が増していった。ざっくりとした粗い土を使った器は素朴かつ力強い印象を与える。
- 2. 茶を点てる、または淹れる作法である茶道で用いる道具の総称。狭義では抹茶の量を少なくして点てたり、淹れたりした薄茶用の器を指す。
- 3. 陶器の表面にかけるガラス質の溶液のこと。
- 4. 茶の成分が茶碗などに付着したもの。
- 5. 佐賀県唐津市にある唐津神社の秋祭りで、毎年11月2日から4日にかけて行われる。豪華な装飾が施された曳山という屋台を、人々が曳いて市内一帯を巡行する。2016年にはユネスコ無形文化遺産に登録された。
- 6. アラは白身の海水魚で、姿煮のほか、刺身や鍋などで食べられる。一年中手に入るものの、10月から12月までが旬で、唐津くんちが行われる11月はアラがおいしい季節である。
By MURAKAMI Kayo
Photo: Karatsu Tourism Association; ISHIZAWA Yoji

