VOL.197 OCTOBER 2024
JAPAN’S HEALING FORESTS (PART 2)
Autumn Forests with Colorful Leaves
紅葉の秋を五感で楽しむ、日本ならではの森林浴


Photo: 一般社団法人 森と未来
日本は世界有数の森林大国であり、国土面積の約7割を森林が占めている。1982年に日本で提唱されて発祥した森林浴*は、「Forest Bathing(Shinrin-yoku)」として、世界に知られている。今月号では、地域における森林浴のあり方を探って活動している小野 なぎささんに、秋の紅葉の時期の森の魅力や楽しみ方などを教えていただいた。
小野 なぎささん
一般社団法人 森と未来代表理事。
東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科卒業。全国の地域と連携して森林資源を活用した観光プランづくり、企業研修、人材育成を実施し、執筆や講演活動を行う。2015年一般社団法人森と未来を設立。「森林浴」に着目し、2023年10月には森林浴発祥の地をめぐるインバウンドツアーを実施。著書に「あたらしい森林浴 地域とつくる! 健康・人材育成プログラム」等。
小野さんが取り組まれている森林浴について、方法や効用などを具体的に教えていただけますでしょうか。
私たちは2015年に、森と人がともに豊かな未来を創ることをビジョンに掲げ、一般社団法人森と未来を設立しました。日本の山村地域の森を活用し、人が森に集い、森と人がともに健康になることを目指しています。主な取組としては、地域の森林空間の活用支援や人材育成、地域と連携をして森の中で企業の研修を行っています。
宮崎良文先生**の著書「Shinrin-Yoku」をはじめ森林浴の医学的効果の論文が海外に広がった2019年頃から、森林浴を体験したい、日本で森林浴を学びたいという問い合わせが来るようになり、海外のかたへ森林浴体験の提供や人材育成を行うようになりました。
日本で森林浴は、森とふれあい癒される昔ながらのアクティビティとして認識されていることがほとんどですが、海外では、森林浴は森で行う治療法として認識されていることもあるようです。実際に海外のかたが日本の地方の森を訪ね、森林浴をしたいという要望を現地のかたに伝えても、そういった体系的なプログラムは用意されていないことがほとんどですから認識に差異が生じます。この差異をどう埋めていくかを常に考えながら活動しています。
それでは、一般社団法人 森と未来では、具体的にはどのような森林浴を提唱されてらっしゃるんでしょうか?
私たちが提案するプログラムでは大きく三つのテーマを持っています。
一つ目は「五感を使う」。日常ではパソコンに向かう時間も多く、タスクに追われて疲れているかたも多いです。森の中では、リアルに五感で触れて感じてもらいます。観察する、音を聴く、土や葉に触る、森の匂いを嗅ぐ、湧き水の冷たさを感じる、など自分の感覚を研ぎ澄ます体験を楽しんでいただきます。
二つ目は「土地の記憶に触れる」。実は、日本の森の約半分は人の手が入った人工林です。先人が木を植え、手入れをし、森を守り続けています。長い年月をかけて大切に育てていく中で、森にまつわる物語や伝説が生まれたり、神様が宿っているとされる鎮守の杜***が全国にあるなど、森は地域によって信仰の対象である場合もあります。そういったその土地ならではの具体的なお話を地元の人などに伺って、森を抱く土地の歴史にも思いを巡らせてもらいます。
そして三つ目は「森と人の未来を想像する」。今日触れた木が数十年後、数百年後にどういう姿になっているかを想像してもらいます。さらに皆さんの子どもたちが大人となった際の、ここに来る未来を想像してもらいます。
この三つのテーマをもとに、プログラムを作っています。
具体的にはどのようなプログラムを行っていますか。
季節や人数によってさまざまですが、森に入るときに、一旦頭をリセットし感覚で楽しむ準備をする「五感チェック」というワークを行います。また、人気が高いのが「森ぼっこ」と呼んでいるひなたぼっこのように森を感じてもらうワークです。森の中に寝転がって腹式呼吸で深い呼吸をしてもらうのですが、中にはいびきをかいて寝てしまう人がいるくらい快適な体験です。他にも土を掘ってみて、その土の匂いをかぐとか、地元のかたにその土地のことをお話していただくこともあります。

Photo: 一般社団法人 森と未来

Photo: 一般社団法人 森と未来
昨年2023年10月には、世界初の森林浴発祥の地をめぐるインバウンドツアーを主催されました。その模様や参加者の反応などをお教えください。
現在、世界中で森林浴ガイドを育成する団体が発足しており、昨年のインバウンドツアーでは、アメリカのガイド育成団体を対象に行いました。アメリカの団体とは言っても、アメリカ以外にカナダやコロンビア、ニュージーランドなどさまざまな国籍のかたがいらっしゃって、23名が参加されました。森林浴発祥の地の日本で森林浴を学びたいという要望をいただき、森林浴発祥の森として知られる長野県の赤沢自然休養林****、そして東京都の奥多摩町の森にてツアーを企画しました。
アメリカの団体が教える森林浴は、体系化したプログラムがあり、森の中で自分と向き合う心理療法に近い印象を受けました。そういったことも踏まえて、まず3時間ぐらいかけて日本における森と人の関わりや、地域ごとに森との関わりかたが違うことを説明しました。赤沢自然休養林であれば、ここは伊勢神宮の建て替え*****の際にお納めする木曽ヒノキを育てており、木1本にも神が宿ると考えられていることをお話させていただくと、皆さん非常に興味をお持ちでした。そして、木をきって運ぶ時に歌う「木やり歌」を皆さんで歌いました。また、日本では地域によって山を信仰の対象として捉えていることもあるため、森に入って癒されるということは、エビデンスがあるからとか美しいからだけではなく、リスペクトの気持ちや、気持ちを整える感覚があることなどもお伝えすると、かなり興味を引いた様子でした。
小野さんが、海外から紅葉を楽しみに来日されるかたに訪れていただきたい、おすすめの森などがありましたらご紹介ください。あわせて、森に入る際に気を付けるべきことがあれば教えてください。
先ほど話に出た赤沢自然休養林は、さまざまな紅葉が楽しめるのでおすすめです。ただし、紅葉が楽しめるのは、11月初頭くらいまでです。おしなべて、10月下旬から11月にかけての紅葉の季節の日本の森は、海外のかたにも非常に人気が高いです。ですが、注意していただきたいのは11月中には閉山してしまう山にある森林が多いことです。行く前に閉山時期を確認し、森林浴をされたいかたは、ぜひガイドさんの同行を依頼していただき、一緒に森へ入ることをおすすめします。
比較的長く紅葉が楽しめる森林としては、長野県安曇野市の烏川渓谷緑地や長峰山があります。長峰山は雪が降る前の11月下旬から12月上旬くらいまで森に入ることができます。

Photo: 一般社団法人 森と未来
また、市街地から程近い場所としては、広島県広島市の二葉山があります。早朝に山の山頂で野点******をしているので、紅葉の森でお抹茶を味わっていただくのも一興かと思います。そして広島駅からのアクセスもよいところで、海外のかたにも人気の広島県廿日市市の厳島でも、大元公園や紅葉谷公園など紅葉の森林浴を楽しんでいただけます。

Photo: 一般社団法人 森と未来

Photo: 一般社団法人 森と未来
また秋から冬にかけての森は、日没後、急激に冷えるので暖がとれる服装でお出かけください。特に山地の奥深い森に向かう際は、念のためツアー先やホテルにスケジュールを伝えてから出発すると安心です。また、紅葉の季節はさまざまな木の実が突然落ちてきますから、頭を守るために帽子は必須です。適切な服装で森に入っていただき、より快適に、より安全に森林浴をお楽しみください。
* 樹木に接することで心身への癒しを求める行為のこと。1982年に林野庁長官が提唱し、自然の中で誰でも手軽にできる健康的な過ごし方として今では世界中で行われている。
** 「HIGHLIGHTING Japan」2024年5月号「人はなぜ、森へ行くとリラックスするのか」(宮崎氏へのインタビュー記事)参照。
*** 地域で、その土地の守護神をまつった神社を取り囲む森。または、森に囲まれたその社域全体。
**** 長野県上松町にある樹齢300年を超える木曽ヒノキの森林を有する地域。詳細は「HIGHLIGHTING Japan」2024年5月号「樹齢300年以上のヒノキが林立する「森林浴」発祥の地」参照。
***** 三重県伊勢市にある伊勢神宮(皇室の祖神をまつる。正式名称は「神宮」) で20年に1度、社殿を造り替え、衣装や宝物も新調し、御神体をうつす神事。
****** 屋外で抹茶をたてて楽しむこと。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: The Future with Forest Association
