VOL.208 OCTOBER 2025
KAWAII CULTURE FROM JAPAN 国境を超え進化する「kawaii」文化


高馬こうま 京子きょうこさん
明治大学情報コミュニケーション学部教授。超域文化論、ファッション・スタディーズ、言語文化学などを専攻。リトアニア国立ミーコラスロメリス大学 アジアセンター 所長、国際日本文化研究センター外国人研究員などを歴任し、現職。著書に「日本とフランスにおけるカワイイ文化論-なぜわたしたちはかわいくなくてはならなかったのか」、共編著に「越境するファッション・スタディーズ」、論文に「Kawaii Fashion Discourse in the 21st century: Transnationalizing actors」(Rethinking Fashion Globalization, S.Cheang, E.Greef and TAKAGI.Y編)」など。

日本語の「かわいい」という言葉は、今や世界中で「kawaiiかわいい」として認知されている。フランスと日本の「kawaii」文化を研究している明治大学教授・高馬こうま 京子きょうこさんに話を聴いた。

「かわいい」とは一般的には愛らしいものに対する表現だと思いますが、英語表記の「kawaii」も同じ意味でしょうか。先生が考える「kawaii」の定義を教えてください。

それは実は非常に難しい質問です。というのも現在の日本の「かわいい」は、ひらがな、カタカナ、アルファベットといった異なる表記が混在し、時代、地域、メディア、そして個人の感覚が複雑に重なり合う文化として存在しているからです。「kawaii」は、国や文化の枠を越えて広がる「超域的な」文化、現象であり、それがこの言葉の大きな特徴の一つです。「kawaii」文化は、従来の国や大手メディアの発信をもとに拡散されてきたトップダウン型の国際文化ではなく、誰もが自由に情報を発信し、文化の担い手となることができるボトムアップ型の新しい文化創造の好例として現代の国際文化における注目すべきモデルとなっています。

「kawaii」文化は常に変化し続ける流動的な価値観から生まれたのですね。

そうですね。このような越境的な文化が可能になった大きな要因として、インターネットとSNSの普及が挙げられます。デジタルテクノロジーによって、個人が自由に情報を発信し、世界中の人々とつながることが可能になりました。これにより、「kawaii」文化はもはや特定の地域や集団に限定されるものではなく、グローバルなネットワークの中で常に変化し続ける動的な現象となっているのです。

では、そもそも日本で「kawaii」文化が出現した時代背景などについて教えてください。

現在の「kawaii」文化の基盤は、実は1960年代後半から70年代前半にかけて形成されました。この時期は世界的に若者文化が台頭し、第二波フェミニズム1が展開された時代です。日本でも若い女性たちが従来の価値観に挑戦し、新しい表現方法を模索していました。1969年に刊行された後の女性向けの雑誌「an・an」の準備号となる「平凡へいぼんパンチ女性版 臨時増刊」では、初めて「かわいいおじさん」という挑戦的な表現が登場しました。若い女性たちが、これまで自分たちに向けられていた「かわいい」という言葉を逆手に取り、あらゆるものを対象に使い始めたのです。セクシーなファッションまでもが「かわいい」と表現され、大人の男性ですら「かわいい」と言われるようになりました。従来の「かわいい」の使い方を大きく転換する革新的な出来事です。この変化は単なる言葉遊びではなく、当時の若者たちの意識変革を表していたと思います。「かわいい」という言葉を自分たちのものにすることで、従来の価値観や権力構造に対する静かな反抗を示していたのです。この時代の空気感が、後の「kawaii」文化の多様性と創造性の土台となったと考えられます。

若者たちが使う「かわいい」という言葉は、新しい日本語表現だったのですね。では「kawaii」に想起されるような、ポップでカラフルな世界観がグローバル化したのはいつでしょうか。

2000年代初頭です。特に2006年1月1日の朝日新聞一面への大型特集記事「「カワイイ」世界に風」の掲載は、「kawaii」が社会的に認知された象徴的な出来事でした。当時の原宿はらじゅく(東京都渋谷区)で流行っていたポップなファッションを身にまとった海外の著名アーティストの姿と共に、日本の「kawaii」文化が、海外でも注目されていることを詳しく紹介する記事でした。この時期に世界で「kawaii」文化が爆発的に広がった背景には、複数の要因が重なっています。フランスでは、2000年から始まった日本文化の総合フェスティバル「Japan Expo」2の影響が特に大きかったようです。1980年代にアニメや漫画に親しんだ世代が大人になり、インターネットの普及と共に日本文化への関心を再燃させていた時期でもあったため、Japan Expoは大変な盛況ぶりでした。

また、2004年に公開された映画「下妻しもつま物語ものがたり」の海外公開もフランスでは重要な転換点でした。ロリータファッションを題材としたこの作品は、海外で「Kamikaze3 Girls」というタイトルで上映され、主演の深田ふかだ 恭子きょうこさんが日本の「kawaii」につながる文化を具現化した存在として大きな反響を呼びました。


2004年にカンヌ国際映画祭で公開され、スタンディングオベーションを受けた「下妻物語」
Photo: ©2004『下妻物語』製作委員会 ©嶽本野ばら・小学館

更に2010年代初頭、「kawaii」文化は「きゃりーぱみゅぱみゅ」という新たなアイコンを得ました。それまでに蓄積された読者モデル文化4やストリートスナップ雑誌5の影響、そして原宿系ファッションの発展といった複数の要素が、きゃりーぱみゅぱみゅの登場と相まり、彼女の存在は日本のポップカルチャーを体現する象徴的な人物の一人として、「kawaii」文化の人気をより世界に広げていったのです。


「kawaii」文化のミューズとなったきゃりーぱみゅぱみゅ(写真は2012年発売のアルバム「ぱみゅぱみゅレボリューション」)
提供:ワーナーミュージックジャパン

日本で生まれた「kawaii」文化が海外で受け入れられた理由をどのようにお考えでしょうか。

フランスでは2018年に、辞書「Le Petit Robert」には「kawaii」が正式に収録され、「日本の美意識に由来し、幼少期の世界観を想起させる(パステルカラー、空想上のキャラクターの描写など)」として定義されました。しかし海外での「kawaii」は、この辞書の定義とは微妙に異なる解釈をされている側面もあります。フランスのアーティスト、フィリップ・カトリーヌが提唱した「mignonisme(かわいい主義)」は、フランス語でかわいらしいを意味するmignonを肯定的に捉えた概念です。このmignonismeにおいてmignonは明るさ、楽しさ、創造性を表す肯定的な言葉として捉えられ「kawaii」文化がより広く受け入れられる素地となりました。

フランスをはじめとするヨーロッパ社会の西洋的な価値観では、成熟と美しさが重視される傾向がありますが、「kawaii」文化はあどけなさや子どもらしさにも価値を見出します。そうした新しい価値観は、より幅広い個性や表現を受け入れる若い世代にも支持されたのではないでしょうか。

欧州最大級のジャパンフェスティバルであり、動員数25万人を超える「Japan Expo」2023年の様子。

Photo: Japan Expo Paris 2025 ©Christopher KIBALI

2020年代に入り「kawaii」カルチャーはどのように進化しているのでしょうか。

「kawaii」文化は更なる細分化と多様化を見せているといえます。日本の「かわいい」も「夢かわいい」「レトロかわいい」など、様々な言葉を組み合わせた派生形が生まれ、もはや一つの定義では捉えきれない複雑な現象となっています。これは「かわいい」が一時的なブームを超えて、日本社会に深く根ざした普遍的な美意識として定着していることを示しています。一方で、この普及には課題も伴っています。「かわいい」があまりにも広く使われることで、周囲に合わせることを求められる雰囲気、いわゆる「同調圧力」が生まれ、多様な表現を妨げる一因となることもあるからです。また、「かわいければ何でも許される」という風潮には、批判的思考の欠如を招く危険性もあります。

「kawaii」文化の未来を考える上で重要なのは、その本質的な特徴である多様性と創造性です。日本文化には海外の影響を受け入れながら独自にアレンジし、新たな価値を創造する力がありますが、「kawaii」文化もこの伝統的な文化創造のパターンを踏襲しています。

これからも、多様な表現を受け入れ続けていくことで、この文化は21世紀においても重要な現象として成長し、更に新しい発展を遂げていくのではないでしょうか。

  • 1. 1960年代後半から1980年代にかけて広がった女性解放運動の流れ。家庭内の役割や身体、性的自由など、社会構造における女性の地位向上を訴えた。
  • 2. フランス・パリで開催されている欧州最大級の日本文化イベント。アニメやマンガ、ファッション、音楽、ゲームなど多様な日本文化を紹介する場として2000年にスタートした。
  • 3. 神の威力で吹くとされている風。 暴風雨の多い日本では風に対する恐れから、神の威徳に従わないと神風で罰せられるという信仰があった。
  • 4. ファッション雑誌の一般読者が誌面に登場し、自らの私服スタイルを紹介する文化。プロのモデルとは異なり、等身大のスタイルとして若者の共感を集め、1990年代以降、日本のティーンカルチャーに大きな影響を与えた。
  • 5. 1990年代から2000年代にかけて日本で発展した雑誌形式で、都市の街頭で撮影された若者の私服スタイルを紹介。特に原宿でのスナップが多く、着用アイテムや年齢なども誌面に詳しく掲載され、「kawaii」文化やストリートファッションの発信源となった。

By MOROHASHI Kumiko
Photo: ©2004 Shimotsuma Monogatari Production Committee ©Takemoto Nobara / Shogakukan; Warner Music Japan Inc.; Japan Expo Paris 2025 ©Christopher KIBALI

You will be redirected to an external website. Would you like to proceed?
If you wish to continue, please click the link below.

Please Note:
  • The linked website is distinct from the website of the Public Relations Office of the Cabinet Office.
  • The URL of the website mentioned in this notice is as of November 21, 2023.
  • The website's URL may be discontinued or changed. Please verify the latest URL on your own.
Top