VOL.208 OCTOBER 2025
KAWAII CULTURE FROM JAPAN [世界に伝えたい日本の伝統文化]「用の美」を追求。400年の伝統を受け継ぐ唐津焼の美と技巧


木製のけりろくろ(写真中央)。足で蹴って回しながら陶土を成形していく。
Photo: ISHIZAWA Yoji

佐賀県多久たく市で唐津焼からつやき1窯元かまもと2五反林窯ごたんばやしかま」を営むマイク・マルティノさん。大陸伝来の技術と日本の美意識が融合した唐津焼の技法と奥深い魅力について語ってもらいました。

私が唐津焼に心惹かれたのは、2002年に師匠の鶴田つるた 純久よしひさ先生の工房で「叩き技法」を目にした時でした。叩き技法とは、粘土をひものように細長く伸ばして積み上げ、道具で叩いて成形する唐津焼独特の手法で、「こんなやり方があるのか」と一目で興味を持ちました。その技法で自分の作品を作ってみたいと思い、陶芸家の道に進むことにしたのです。

唐津焼の歴史は約400年前に遡ります。佐賀県唐津市は朝鮮半島に近く、古くから大陸の玄関口でした。16世紀末に朝鮮半島から多くの陶工とうこうが渡来し、のぼがま3や本格的な施釉せゆう4といった技術をこの地に伝えました。唐津焼の素朴で力強い美は茶人ちゃじん5たちにも愛され、茶の湯の世界で高い評価を得ました。

私が心を奪われた叩き技法は、まさに唐津焼が目指す「よう6」を象徴する技術です。積み上げた粘土の内側をという板で支えながら、外側から叩き締めていくという工程により、驚くほど薄くて軽い器を生み出すことができます。その軽さは日々の暮らしにおける使いやすさに直結しており、叩き技法で作られた水差しなどは高く評価されています。


17世紀に叩き技法で作られた水差し、朝鮮ちょうせん唐津からつ一重口ひとえくち水指みずさし
Photo: ColBase

中でも、私が特に探求しているのが、水をほとんど使わない「うすづく7」というスタイルです。叩き技法には水を使って成形する方法もありますが、私が実践する薄造りの場合、薄く仕上げる工程で水に触れると器はすぐにひび割れてしまいます。繊細な力加減が求められる非常に難しい技法ですが、理想の軽さを実現するためには、この緊張感こそが不可欠なのです。焼き上がりにひびが入ってしまうこともまれにありますが、そのひびを「きん8」という技法で修復すると、元の作品にはなかった風合いが生まれます。


焼いた時にひびが入ったり欠けたりしてしまった作品も、きんぎを施すことで、別の魅力を持った器としてよみがえらせている。
Photo: ISHIZAWA Yoji

また、叩き技法を支えるのが、独自の道具です。一つは「けりろくろ9」。ほかの産地で使う重い石のろくろとは異なり、唐津焼のものは木製で非常に軽いのが特徴です。自分の足で蹴り続けないとすぐに止まりますが、その分、回転を繊細に制御できるため、土を叩き締める作業に最適です。

もう一つが「ぎゅうべら10」です。粘りが少ない唐津の土は、一般的なこてのように道具のふちで横に延ばそうとすると、すぐにひび割れてしまいます。これに対し、牛べらは土を圧縮しながら成形するため、もろい土でも器にできるのです。私は木製のへらから型を取り、歯科用の樹脂で自作しています。


道具のほとんどはマイクさんのお手製。ぎゅうべら(写真右下)には歯科用の樹脂を用いるなど工夫を凝らす。
Photo: ISHIZAWA Yoji

ぎゅうべらで陶器の形に整えていく様子。
Photo: ISHIZAWA Yoji

このように、唐津焼の技法や道具は、この土地の素材と深く結びついています。私は作品作りに使う土や石を自ら山に入って探すことがあります。この土地の土と向き合うことは常に挑戦ですが、それぞれの土が持つ個性をどう引き出すか日々研究を重ねています。


友人と手掛けた薪窯まきがま11。ガス窯12と使い分けて使用している。
Photo: ISHIZAWA Yoji

マイク・マルティノ
アメリカのニューメキシコ州出身。幼少の頃から古代遺跡などを訪れて陶片を掘ったり集めたりするなど陶器に興味を抱いており、1990年に来日、2002年に熟練の唐津焼陶芸家に師事して作品を作り始める。2005年には窯元として五反林窯ごたんばやしかまを製造。多くの作品は茶道用茶器として使用されており、和食器、洋食器、酒器などの作陶も精力的に行っている。 ※工房見学を希望の場合には要事前予約
Photo: ISHIZAWA Yoji
検索:マイク・マルティノ

  • 1. 佐賀県唐津市を中心に生産される陶器の総称。諸説あるが16世紀後半に始まったとされ、朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工の技術を取り入れたことで生産量が増していった。ざっくりとした粗い土を使った器は素朴かつ力強い印象を与える。
  • 2. 陶器を作るための工房、またはその職人を指す。
  • 3. 陶器を焼く窯の一つ。斜面を使い、一度に多くの器を高温で焼くことができる。
  • 4. 釉薬ゆうやくというガラス質の溶液で陶器の表面を覆い、水漏れを防ぎ装飾する技術のこと。
  • 5. 茶をてたりれたりする作法で客人を持てなす、茶道に通じた人のこと。
  • 6. 道具は使われてこそ美しいという考え方を表す言葉。
  • 7. 薄く仕上げた陶器で、軽量かつ柔らかい口あたりの使用感を生み出すのが特徴。
  • 8. 割れたり欠けたりした陶器をうるしで接着し、継ぎ目に金や銀などの粉で飾る、日本独自の修理法。破損前と異なるおもむきを楽しむことができる。参照:割れたり欠けたりした陶磁器を生かす「金継ぎ」 | August 2020 | Highlighting Japan
  • 9. 陶芸の作業に使われる器具の一つ。足で蹴って回すことで、陶土を成形するろくろのこと。
  • 10. 陶芸の作業時に形を整えるために使用する道具の一種。牛の舌のような見た目から名付けられた。
  • 11. 薪を燃料とする窯。
  • 12. 天然ガスやプロパンガスを燃料として焼き上げる窯。

By MURAKAMI Kayo
Photo: ISHIZAWA Yoji; ColBase

You will be redirected to an external website. Would you like to proceed?
If you wish to continue, please click the link below.

Please Note:
  • The linked website is distinct from the website of the Public Relations Office of the Cabinet Office.
  • The URL of the website mentioned in this notice is as of November 21, 2023.
  • The website's URL may be discontinued or changed. Please verify the latest URL on your own.
Top