VOL.207 SEPTEMBER 2025
THE MUSICAL INSTRUMENTS AND MUSIC CULTURE OF JAPAN
[世界に伝えたい日本の伝統文化]土地ごとの土と技が生む多様性―日本の焼き物の奥深い魅力

マイクさんが手掛けた唐津焼の数々
Photo: ISHIZAWA Yoji
アメリカのニューメキシコ州出身で、現在は佐賀県で唐津焼1の陶芸家として活躍するマイク・マルティノさん。日本各地の焼き物に触れ、その魅力に惹かれたマイクさんの視点から、日本の焼き物文化の魅力について語ってもらいました。
私が日本の焼き物に心を奪われたのは、子どもの頃の体験が原点にあるかもしれません。自宅の庭で父と一緒に何百年も前の陶片を見つけ、「昔の人はこれをどう使っていたのだろう」と想像を膨らませては、古いものが語りかけてくる歴史に心を躍らせたものです。
1990年に空手修行のために福岡県に来日した私は、週末になると小石原焼2や高取焼3の窯元4をよく見学に行きました。アメリカでも陶芸は盛んですが、日本の焼き物は全く異なる世界でした。地域ごとに土や技法、デザインが異なり、独自の伝統を築いている。この多様性に、私はすっかり魅了されました。

Photo: ISHIZAWA Yoji

Photo: ISHIZAWA Yoji
例えば、唐津焼は朝鮮半島の文化の影響を受けた作風、有田焼5は透き通るような白磁、備前焼6は釉薬7を使わない力強い焼き締めが特徴です。それぞれがその土地でしか生まれない個性を持っています。


Photo: ColBase
中でも、私が特に魅了されたものの一つが伊賀焼8です。10日間も薪を焚き続けることで、飛びちった灰が釉薬となって器に降りかかり、緑色のビードロのような美しい表情を作り出します。これは「自然釉」と呼ばれ、人の手では作り出せない偶然の美です。また、16世紀の茶人である古田 織部9が好んだ織部焼10も実に興味深いです。あえて歪ませた形と大胆な緑色の釉薬が特徴的な作品「沓茶碗」は、左右対称が良いとされていた時代の常識を覆す、現代アートのような自由な発想から生まれました。
2002年に師匠である鶴田 純久先生と出会い、私は本格的に陶芸の道に入りました。先生の工房で最初に教わったのは、意外にも「作る」ことではなく「見る」ことでした。先生が大切に収集していた古い陶片を一緒に研究することから、私の修行は始まったのです。
400年前の唐津焼の陶片を手に取ると、子どもの頃に感じた「古いものから学ぶ」という感覚が蘇りました。驚いたのは、古い作品は水漏れしないのに、20世紀の作品には「使ううちに水漏れが止まります」と断り書きがあることでした。なぜ昔の陶器は水漏れしなかったのでしょうか。研究の結果、現在は粘土で成形する唐津焼ですが、昔の陶工たちは粘土だけでなく、石や砂岩を混ぜて焼き締まる土を作っていたことが分かりました。砂岩は粘り気を出すのに手間がかかるため、成形しやすい原料の発見とともにそれを使用するようになり、製法が変化したと言われています。古い陶片は、昔ながらの技法を知ることができる、まさに陶芸を学ぶ最高の教材だったのです。
日本の焼き物文化で特に素晴らしいと感じるのは、一般の人々の知識の深さです。アメリカでは陶芸作品は主に美術品として扱われますが、日本では400年以上続く茶の湯の文化を通じて、多くの人が器の良し悪しを見分ける目を自然に持っています。
日本各地の焼き物は、互いに影響を与え合いながら、この豊かな文化を形成してきました。その多様性と奥深さ、そして生活に根ざした美意識こそが日本の焼き物の魅力であり、このすばらしい伝統を世界に伝えていくことが私の今の目標です。

マイク・マルティノ
アメリカのニューメキシコ州出身。幼少の頃から古代遺跡などを訪れて陶片を掘ったり集めたりするなど陶器に興味を抱いており、1990年に来日、2002年に熟練の唐津焼陶芸家に師事して作品を作り始める。2005年には窯元として五反林窯を製造。多くの作品は茶道用茶器として使用されており、和食器、洋食器、酒器などの作陶も精力的に行っている。 ※工房見学を希望の場合には要事前予約
Photo: ISHIZAWA Yoji![]()
- 1. 佐賀県唐津市を中心に生産される陶器の総称。諸説あるが16世紀後半に始まったとされ、朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工の技術を取り入れたことで生産量が増していった。ざっくりとした粗い土を使った器は素朴かつ力強い印象を与える。
- 2. 福岡県朝倉郡東峰村小石原地区で採掘された陶土を主原料として生産される陶器で、1682年に開窯。既に小石原にあった高取焼と交流することで生み出された、素朴で温かい持ち味の模様が特徴。
- 3. 福岡県朝倉郡東峰村を中心に生産される陶器。朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工が1600年に開窯したのが始まりで、茶陶という茶道用陶器で特に高い評価を得てきた。
- 4. 陶器を作るための工房、またはその職人を指す。
- 5. 佐賀県有田町を中心に製造される磁器。朝鮮半島から渡来した朝鮮陶工が17世紀初期に作り始めたとされる。白くてかたい磁器に、鮮やかな色の絵の具で絵を描くのが特徴。
- 6. 岡山県備前市を中心に生産される陶器。5世紀頃に朝鮮半島から伝わった、硬く焼きしまった土器である須恵器の製法が元となり、それが変化していったとされる。絵付けをせず釉薬も使わずにそのまま焼くのが特徴で、土味がよく表れている焼き物である。
- 7. 陶器の表面にかけるガラス質の溶液のこと。
- 8. 三重県伊賀市を中心に生産される陶器。起源は8世紀頃とされ、甕や壺などが焼かれていたが、茶の湯が盛んになった17世紀初期からは茶陶という茶道用陶器としても評価されるようになった。土を高温で幾度も焼くため、土の成分が融け出たところに薪の灰がかかり緑色のガラス質となるなど、土の風合いを楽しめるのが特徴。
- 9. 1544年(諸説あり)に美濃(現在の岐阜県)に生まれ、1615年没。武将であり茶人。茶道の大成者である千 利休の弟子で、織部焼10を生み出した。
- 10. 岐阜県南東部で生産される陶器。茶人の古田 織部好みの焼き物で、左右非対称のいびつな形に美を見出したり、市松模様・幾何学模様・扇子など様々な文様をかたどったりした茶器が特徴。
By MURAKAMI Kayo
Photo: ISHIZAWA Yoji; ColBase; PIXTA



