土砂災害 その備えが命を救う
いつ起きてもおかしくない土砂災害。早めの避難、早めの対応、そして、日頃の備えであなたと、大切な方の命を守りましょう。今回は、「土砂災害 その備えが命を救う」というテーマで深掘りしました。

- ゲスト
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国土交通省
水管理・国土保全局 砂防部 砂防計画課長
草野 慎一
ストリーミング(音声で聴く)
- 放送日
- 令和4年(2022年)6月26日
- 時間
- 17分58秒
- 配信終了予定日
- 令和5年(2023年)6月25日
文字で読む
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青木 - 一口に土砂災害といっても、いくつか種類があります。代表的なのは「がけ崩れ」「地すべり」「土石流」です。それぞれの違いを簡単に説明します。「がけ崩れ」は、斜面の地表に近い部分が、雨水の浸透や地震などで緩み、突然崩れ落ちる現象を言います。「地すべり」は、地下水の影響と重力により、斜面の一部あるいは全部がゆっくりと斜面の下方へ移動する現象を言います。「土石流」は、山腹や川底の石、土砂が長雨や集中豪雨により、一気に下流へと押し流される現象を言います。
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足立 - それぞれに違う特徴がありますね。ニュース映像などで目にしますが、一瞬にして周辺を巻き込みながら、 人の命を奪ってしまい、恐ろしいですよね。
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青木 - そうした恐ろしい土砂災害が発生しやすい国、それが日本です。日本は、傾斜が急な山が多く、台風や大雨、地震や火山活動が活発です。地形的・気象的な条件により土砂災害が発生しやすい環境なんです。その発生件数は、直近の10年間の平均で年1,450件です。
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足立 - そんなにあるんですね。
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青木 - 2018年は、1982年の統計開始以降で、最も多い年間約3,500件の土砂災害が発生しました。特に、この年の「平成30年7月豪雨」の影響による土砂災害は記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。このときは、梅雨前線が本州に停滞して活発になり、九州から東北にかけて広い範囲で断続的に激しい雨が降りました。この影響で、西日本を中心に2,581件の土砂災害が発生し、119名の方が亡くなりました。特に被害が大きかった広島県では、複数の斜面や渓流から土砂が同時多発的に流出して、土石流により87名の方が亡くなりました。ここからは、国土交通省 水管理・国土保全局 砂防計画課長の草野慎一さんにお話を伺っていきます。土砂災害は尊い命や住宅などの貴重な財産を奪う恐ろしいものですね。草野さん、実際に土石流が発生した現場に行かれたことがあると伺いましたが、どんな状況だったんですか。
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草野 - はい。2014年に長野県木曽郡南木曽町(なぎそまち)で、集中豪雨により土石流が発生しまして、その後の対応のために現場へ行きました。住宅10戸が全壊し、中学生の男子1名がお亡くなりになったほか、JR中央本線の橋が流されて、一部区間が約1か月近く運休になったり、国道19号に土砂が流れ込み、通行止めが続いてしまった現場でした。
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青木 - 実際にどのような状況でしたか?
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草野 - まず現場を初めて見たときは、以前見たときと状況が全く違っていたので、同じ場所だということがすぐにはわかりませんでした。以前の梨子沢周辺は、樹木が多く生えていて、建物も密集していましたが、それが全て流されてしまっていたので、全く違う場所に思えました。そして、梨子沢第2砂防堰堤という施設を見たとき、そこには一つで200トン、つまり軽自動車200台分位ある巨石が数え切れないくらい堆積していて、自分が今見ている光景が、現実のものとは思えませんでした。
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青木 - 先ほど、我々もその時の現場の写真を見せていただいたのですが、車ほどの大きな石が、たくさん流れ込んでいるのが分かりました。
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足立 - このときは集中豪雨の影響ということですが、やはり土砂災害は雨が降っているときに発生することが多いんですか?
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草野 - 実は、そういうときだけではなく、雨が全く降っていないときに突然発生することもあるんです。2018年に大分県中津市(なかつし)耶馬溪(やばけい)で、6名の方が亡くなる土砂災害が発生したのですが、このときは数日前にわずかな降雨があったものの、その後は降雨のない状況で、突然、がけ崩れが発生しました。
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青木 - これは、地下水が起因となり、浸食、圧迫することによって岩盤が不安定化し結果的に崩壊するというのも、がけ崩れの原因であると考えられていて、必ずしも雨が降っているときに発生するわけではないんですよね。
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足立 - 特に、山あいに住んでいらっしゃる方は常に注意していなければいけませんね。
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青木 - 加えて、注意しなければならないのは、山あいに住んでいらっしゃる方だけじゃないんです。都道府県により、土砂災害発生のおそれがあると指定された区域を【土砂災害警戒区域】と言います。この区域は公表されているんですが、なんと全国に68万か所もあるんです。
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足立 - そんなにあるんだ!?
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青木 - しかも、これは基礎調査が行われた場所だけの数で、まだ調査が終了していない場所もあるので、今後、もっと増える可能性があります。ここに東京都が公表している「土砂災害警戒区域」と、土砂災害警戒区域よりも危険性が高い「土砂災害特別警戒区域」を示した地図があるんですが、土砂災害特別警戒区域を示す赤い印が、東京の都心にも点在しています。住宅街やオフィス街であっても、斜面があるようなところは指定されていますね。
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足立 - ホリプロがある目黒にも赤い印があって、認識を変えていかないといけないんだと改めて思いました。
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青木 - 自分が住んでいる地域や、生活エリアだけでも目を通しておくのは大事ですよね。
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草野 - 東京の例からもお分かりいただけるように、土砂災害は山あいに住んでいる方だけが警戒すればいいというものではなく、一人一人が土砂災害から身を守れるように日頃から備えておくことがとても重要だと思っております。
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青木 - ここからは土砂災害から身を守るために最低限知っておくべきポイントを三つご紹介していきます。「どこから逃げる、いつ逃げる、どうやって逃げる」の三つのポイントです。まず、その1【お住まいの場所が、土砂災害警戒区域か確認】です。先ほどもお伝えしましたが、土砂災害警戒区域は全国に68万か所もあるので「我が家は大丈夫」などと高をくくらないことですよね、草野さん!
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草野 - はい。自分の家はもちろん、職場や日頃よく立ち寄る場所などは、普段から市町村が作成する土砂災害ハザードマップや都道府県のホームページなどを利用して「土砂災害警戒区域」や「土砂災害危険箇所」とされていないか確認しておいてください。そして、「土砂災害警戒区域」などとされていなくても土砂災害が発生する場合があります。付近に傾斜が急な土地や小さな沢があれば注意してください。
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青木 - では、土砂災害から身を守るポイント その2【土砂災害警戒情報や雨量の情報に注意】です。
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草野 - 土砂災害警戒情報は気象庁のホームページや各都道府県の砂防課などのホームページ、また、テレビやラジオの気象情報でも発表されます。雨が降り始めたら積極的に情報を確認してください。この土砂災害警戒情報は、警戒レベル4の情報であり、市町村の判断で避難指示が出されるのが原則です。避難指示が出されると、危険な場所からは全員避難する必要がありますので、正に土砂災害警戒情報が出されたタイミングが、「逃げる」という行動を執るべきタイミングということになります。なお、夜中に大雨が想定される場合は、避難指示が発令されていなくても、早めに避難するということがとても重要です。
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青木 - そして、土砂災害から身を守るポイント その3【避難場所、避難手段の確保】です。
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草野 - お住まいの地域に土砂災害警戒情報が発表され、自治体から避難指示が発令されたら、近くの避難場所など、安全な場所に避難してください。その際、ご近所の方などに声を掛けるように心掛けてください。また、お年寄りや障害のある方など避難に時間が掛かる方や、浸水などで避難場所への避難が困難なときは、近くの頑丈な建物の2階以上や家の中でより安全な場所、がけから離れた部屋や2階などに移動してください。
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青木 - 状況は一気に悪くなる場合もありますから、早めに避難することがポイントですよね。
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足立 - そうなんですよね。ただ、頭ではわかっていても、実際に恐ろしい経験をしたことがないと、「今回も大丈夫だろう」という気持ちが出てきて、避難が遅れるということはありますよね。
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青木 - 後は、実際に経験している人としていない人の差はありますよね。
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草野 - そうですね。実際に恐ろしい体験をすることは難しいですが、土砂災害についての知識を増やし、また、避難訓練に参加することで、擬似的な体験にはなります。ですから、家族や地域の人、職場の人と土砂災害について話をしたり、普段から地域の避難訓練に参加するなどして、もしものときに避難行動を起こしやすくしておくことがとても大切です。番組の始めに【平成30年7月豪雨】で広島県が甚大な被害に見舞われたことをお伝えしましたが、このときに避難行動により命を守った事例もあるんです。
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青木 - 私からご説明しますと、東広島市黒瀬町(くろせちょう)の洋国(ようこく)団地では、およそ50軒ある人家のうち、およそ10戸が全半壊、20戸が床下浸水しましたが、死者やけが人はいませんでした。この団地では、団地内で防災マニュアルや防災マップを作成し、防災意識を高め、また、自力で避難するのが難しい住民の避難を支援する担当者を決め、土砂災害が発生する4年前から年2回、土砂災害を想定した避難訓練を実施していました。
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足立 - 普段からしっかりと対策をされていたんですね。
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青木 - 川の近くに住む高齢の女性は「川の流れが気持ち悪い」と感じ、警戒情報発表前に自主的に避難をしたり、 団地に住む高齢者夫婦も、高齢者の避難を支援する担当者に連絡して、車で迎えに来てもらい避難することができたそうです。
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草野 - 日頃の訓練のおかげで住民の方々はためらうことなく、自主的に避難所に集まれたのだと思います。 また、動きが執れない人を動かす手順もわかっていたので、素早く対応できた好事例でした。
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足立 - 避難訓練の重要性を感じますね。大人になってから避難訓練に参加することは、なかなかないですよね。
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青木 - 日頃からの地域のつながりが大事ということなんですね。
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足立 - それにしても「川の流れが気持ち悪い」と感じて自主避難したということですけど、 そういうことでも土砂災害の危険に気付くことができるんですね。
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青木 - 土砂災害の場合、前兆現象がある場合もあるんですよね、草野さん!
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草野 - はい。例えば、「井戸や川の水、湧水が濁る」又は「湧水が止まる」「がけや地面にひび割れができたり、水が湧き出る」「小石がパラパラと落ちてくる」「地鳴り・山鳴りがする」「雨が続いているのに、川の水位が下がる」「樹木が傾く」「立木が裂ける音や石がぶつかり合う音が聞こえる」「川の方から、卵の腐ったような、硫黄のような臭いがする」など、こうした現象を感じたら、ためらわずに避難行動を執っていただきたいと思います。
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青木 - 後になって「そういえば…」といっても遅いですから、少しでも異変を感じたら用心してほしいですね。
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草野 - 6月は土砂災害防止月間です。この機会に、ご家族や職場の仲間、地域の方とお住まいの地域や職場が土砂災害警戒区域に指定されていないか、もしものときはどこに避難すればいいのかなど、一緒に話し合ってみてください。また、雨の多いこの時期は特に土砂災害に警戒し、もしものときには早めの避難行動をお願いします。
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足立 - 今日の話を聞いて印象に残ったのは、避難指示が発令されていなくても、早めに非難することは大事だし、 恥ずかしいことではないし、何もなかったら、「よかったね!」で済ませること。それを今回改めて、感じました。
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青木 - 草野さんが教えてくれた事例にもありましたが、「地域の避難訓練に日頃から参加すること。」が印象に残りました。日頃から、防災意識を高めておく、これに尽きますね。日本は、土砂災害が多いことを認識して、日頃から、防災意識を高めていきましょう。
政府からのお知らせ
次回放送予定
- 放送日
- 令和5年(2023年)4月2日(日)
放送局によって日時が異なります。 - テーマ
- みんなですすめよう! 災害に強い国づくり
- 内容
- これまで日本は多くの大規模な自然災害を経験し、その度に大きな被害を受け、長期にわたり復旧や復興に向けた対策を余儀なくされてきました。その教訓から、事前に災害に強い国づくりを行い、被害を少なくし、暮らしも経済も速やかに回復させるための取組が進んでいます。番組では、行政や企業・地域が行った防災・減災対策の事例をご紹介するとともに、私たち一人一人が、事前に取り組めることについて深掘り!是非、お聴きください。
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