福島の復興へ向けて 正しく知ろう 廃炉とALPS処理水
10年後、20年後、そしてその先の未来へ向け、今、私たちができることは何なのか、改めて考えてみませんか? 今回は、「福島の復興へ向けて 正しく知ろう 廃炉とALPS処理水」というテーマで深掘りしました。

- ゲスト
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経済産業省
原子力発電所事故収束対応室 室長補佐
西嶋 健人
ストリーミング(音声で聴く)
- 放送日
- 令和4年(2022年)10月2日
- 時間
- 18分26秒
- 配信終了予定日
- 令和5年(2023年)10月1日
文字で読む
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青木 - 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故から11年と6か月が過ぎました。これまでに福島の復興は一歩一歩進められ、2013年8月から2022年3月に掛けて避難指示区域の面積や対象人口はそれぞれ3割以下まで減少しています。
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足立 - でも、まだ避難されている方はいらっしゃるんですね。
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青木 - そうですね。まだ帰還困難区域がありますので、解除に向けて一歩一歩という状況です。ただ、帰還に向けた環境整備などは着々と進んでいまして、例えば、一部区間が不通となっていた常磐線は2020年の3月に全線運転再開しました。また、一部地域の避難指示が解除された浪江町には「道の駅なみえ」が昨年3月にグランドオープンし、10年ぶりに浪江町で事業を再開した店もあります。
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足立 - 再開まで10年の月日が経っていると思うと胸が熱くなりますね。残る福島の復興も早く地元の方々が望む形で進めばいいなと思います。
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青木 - そうですよね。その福島の復興に欠かせないのは、【廃炉】です。【廃炉】とは、福島第一原子力発電所が地域の皆さんや環境への放射性物質によるリスクを低減させるための作業です。ここからは経済産業省 原子力発電所事故収束対応室 室長補佐 西嶋健人さんに伺っていきましょう。
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足立 - 西嶋さん。福島第一原子力発電所の事故といっても若い方の中には覚えていない方もいると思うんです。
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西嶋 - そうですね。改めてご説明しますと、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、福島第一原発は大津波に襲われ、原子炉を運転・制御するための電源が喪失し、冷却システムが停止しました。原子炉が冷却できなくなったことで固体の燃料が溶けてしまい、その過程で発生した大量の水素ガスにより水素爆発が起こりました。こうして多くの放射性物質が環境中に放出されることとなりました。
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足立 - それで多くの方が避難を余儀なくされたんですよね。今の原子炉って、どんな状況なんですか?
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西嶋 - 今は状態が安定しており、再び事故が発生する可能性は限りなく低い状況です。しかし、皆さんが安心して暮らせる環境を取り戻すため、原子炉施設の解体を進めていく必要があります。
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青木 - 事故直後は、ものすごく混乱していましたから、今の状態が安定していて、再び事故が発生する可能性が限りなく低い状況に持ってこられた時点でも、凄いな、という気持ちはあります。加えて、廃炉なくして福島の復興は進まないということですよね。そして、この廃炉を進めるためには、今日のテーマである【ALPS処理水】の処分が必要不可欠なんです。
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足立 - 初めて聞く方も多いと思うんですけど、改めて【ALPS処理水】っていうものは何ですか?
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西嶋 - ALPSとは、多核種除去設備の通称で、ALPS処理水とはALPSなどを使い、日々発生する放射性物質を含む汚染水を浄化し、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化処理した水のことです。
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足立 - トリチウムって何ですか?
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青木 - トリチウムについては私からご説明します。トリチウムとは、水素の仲間で雨水や水道水など、私たちの身の回りにも広く存在している物質です。また、宇宙から降り注ぐ放射線によって、自然界の中で常に生成されています。放射線を発しますが、とても微弱で紙一枚で防げる程度です。
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足立 - ちょっと不思議に思ったんですが、トリチウム以外の放射性物質は浄化処理できるのにトリチウムはできないってことなんですね?
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青木 - トリチウムは、酸素と結びついて、水とほぼ同じ性質の液体として存在しているため、水の中からトリチウムだけを分離することは極めて困難なんです。
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足立 - そうなんですね。西嶋さん、そのトリチウムを含んだALPS処理水の処分が、なぜ廃炉を進めるために不可欠なんですか?
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西嶋 - 福島第一原発には、このALPS処理水を貯蔵する巨大なタンクが設置されています。その数は現在1,000基を超えていて、今後、廃炉に必要な設備を建設するスペースを圧迫する恐れがあります。また「災害の発生時における倒壊のリスクがある」や、「大量のタンクの存在そのものが風評の原因になる」 というご意見もいただいています。
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足立 - 確かに、今、写真を見ていますが、タンクがズラッと並ぶ様子はどことなく、不穏な感じがしますね。でも、ズラッと並んだタンクをどうやって処分するんですか?
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西嶋 - ALPS処理水の取扱いは、6年以上にわたり専門家が公開の場で議論を行いました。その結果、国内外での実績の有無やモニタリングの容易さなどを考慮し、海洋放出が最も現実的な手段であると評価されました。こうした専門家の評価に加え、繰り返し多くの場での説明や意見交換を踏まえ、政府は2021年4月に、安全性の確保と風評対策の徹底を前提に、海洋放出を行う方針を決定しました。方針の決定から2年程度後を目途に海洋放出を行うこととしています。
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青木 - 国内外の実績という点ですが、実は、トリチウムを含んだ液体廃棄物は、事故があったから出たものではなく、原子炉を稼働させると必ず出るものなんです。そのため、世界中の様々な原子力施設では日頃から安全基準を守った上で、トリチウムを、液体廃棄物として海洋や河川などへ、また、換気などに伴い大気中へ排出しています。
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足立 - そういうものだったんですね。
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青木 - ここに、各国の原発や再処理施設などが、どれくらい液体廃棄物としてトリチウムを海洋や河川などへ放出して処分しているのか、まとめた一覧があるんですが、フランス、アメリカ、カナダ、中国、韓国など、そして、もちろん日本も放出しています。
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足立 - 放射性物質が含まれた液体廃棄物が海洋へ放出されていると聞くと、何らかの影響がありそうな気がしてしまいます。
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西嶋 - そう思われるかもしれませんが、放出を行っている世界各国の原子力施設周辺からは、トリチウムが原因とされる影響は見つかっていません。
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青木 - そうなんですよね。ここからは実際にどのようにALPS処理水が海洋放出されるのかです。西嶋さん!
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西嶋 - はい。ALPS処理水は海洋放出する前に、海水で100倍以上に薄めて、トリチウムの安全基準を大きく下回る濃度にした上で処分します。
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青木 - ALPS処理水を海洋放出する際の濃度は、日本のトリチウム安全基準の40分の1未満となり、国の基準を大幅に下回ります。この数値はWHOの飲料水基準のおよそ7分の1に値するそうです。
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足立 - 飲料水の基準よりもさらに低い濃度で放出されるんですね。
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青木 - はい。そこまでしっかりと濃度を下げてからなんです!
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足立 - でも、やっぱり放射性物質が含まれた水が海へ放出されると聞くと心配になる方も少なくないと思います。
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青木 - ちなみに、足立さん、私たちは日常生活の中でも放射線の影響を受けています。例えば、病院でCT検査を受けたり、食事をしたり、飛行機で移動したり、歯のレントゲンを撮ったり。
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足立 - 確かに。私はよく飛行機に乗るので、大分影響を受けているということですね。
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青木 - 放射線の人体への影響度を表す単位はシーベルトと言い、東京・ニューヨーク間を飛行機で往復すると0.11から0.16ミリシーベルトの影響があるとされています。これと比較してALPS処理水を海洋放出した場合の1年間に受ける放射線の影響は、放水地点の周辺海域を利用する頻度が高い人でも、わずか0.00003から0.0004ミリシーベルトです。
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足立 - あまりにも低くて驚きました。飛行機に乗る方が影響を受けていますよね。
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青木 - 日本人が日常生活で自然に受ける放射線の影響は一人当たり年間2.1ミリシーベルトなので、これと比べても影響は極めて小さいと言えます。
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足立 - これって、体内に蓄積して、数十年後に影響がでることも考えられませんか?
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西嶋 - トリチウムは体内に入っても蓄積されることはなく、水と一緒に体外へ排出されるので、その心配もいりません。原子力について高い専門性を持つ国際機関であるIAEAも海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価しています。その上で、海洋放出の実施に当たっては、繰り返し現地を訪れ、IAEAの安全基準にのっとっているかどうかについて厳しくチェックを行う予定です。
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青木 - モニタリングが大事になってくると思いますがこれは、どのように行われるんでしょうか?
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西嶋 - 海洋放出の前後で海洋モニタリングを徹底します。海の水質に問題がないかをしっかりと確認し、安全確保に万全を期します。また、水産物についてトリチウムを対象としたモニタリングを新たに実施する予定です。モニタリングにはIAEAなどの第三者機関が関与するほか、地元自治体や漁業者といった方々の立会いの機会を確保するなど、透明性を確保します。また、将来的にはモニタリングの結果を 皆さんが簡単に確認できるウェブサイトも立ち上げていく予定です。
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青木 - 実はALPS処理水の安全性を消費者にわかりやすく伝える目的で魚の飼育試験を実施していて、今月から「海水で希釈したALPS処理水」でのヒラメやアワビの飼育試験を開始するそうです。
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足立 - 科学的には安全だと思われていてもわざわざ試験を行うんですね。
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西嶋 - はい。ALPS処理水の処分に当たり、風評を生じさせないための取組です。また、科学的根拠に基づく情報を国内外に発信するため、説明会などを実施するほか、様々な機会を活用し広報活動をしています。
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青木 - 昨年の4月以降から今年の8月までに、700回以上も説明会などを実施しているんです。
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西嶋 - 風評を生じさせないためには、地元の方だけではなく全国の方々に正しい情報を知っていただかなければなりません。そのためにも、説明会などに加え、様々なメディアを通して、多くの方へ情報をお届けしていく予定です。また、廃炉やALPS処理水については、わかりやすくまとめたパンフレットも公開しています。是非、多くの方にご覧になっていただきたいです。
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青木 - 廃炉は、30年、40年と、とても時間がかかることだと思いますが、この日本を未来の日本人に引き継いていくために、ちゃんと行っていかないといけないし、それをきちんとチェックしていく責任が、自分たちにはあるなと思います。
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西嶋 - 福島の復興は福島だけの問題ではありません。全国の方々に日本の課題として向き合い、廃炉やALPS処理水の海洋放出について、多くの方に関心を持っていただくと共に、正しい情報を発信していきたいと思います。福島の復興に向けて全力で取り組みます。
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足立 - 不安だなと思っていたことが、今日、お話を聞いたことによって、あれ?意外と大丈夫かも。と思えるようになりました。
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青木 - そうですよね。言い知れない、そこはかとない不安というのを抱えている方もいたと思いますが、今日の話を聞いていると、クリアになりましたよね。
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足立 - こうやって、全て説明していただけると嬉しいなと思いましたし私が一番驚いたのが、飲料水の基準よりも、さらに低い濃度で海洋放出されるところです。“飲料水よりも”というところに、身近にあるものだから分かりやすく、納得がいったところが、すごく驚きましたし、印象に残りました。
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青木 - 私が印象に残ったのは、西嶋さんの最後の言葉にもありました「福島の復興は福島だけの問題ではない」ということです。元々、発電していた時の電気は、東京に住んでいる私たちも使っていましたし、福島だけの問題として捉えるのだけではなく、全国の方々に日本の課題として捉えて、廃炉に注目してほしいなと思いました。
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