食の恵みを育む! BISTRO下水道
私たちの暮らしを支えている大切なインフラの一つ下水道。実は、SDGsにも貢献する大きなポテンシャルを持っているんです!番組では、循環型社会を実現に貢献する革新的な取組「BISTRO下水道」を深掘り。私たちの暮らしから出る水が、下水道を通り、下水処理場に送られ、肥料やエネルギーになる!?肥料発売日には、農業関係者が行列を作るなど、全国から注目が集まる下水処理場の先進的な取組についてもご紹介。

- ゲスト
- 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 特任准教授
下水道システムイノベーション研究室
加藤 裕之
ストリーミング(音声で聴く)
- 放送日
- 令和5年(2023年)2月19日
- 時間
- 18分18秒
- 配信終了予定日
- 令和6年(2024年)2月18日
文字で読む
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足立 - 気になっていたんですが、「BISTRO(ビストロ)下水道」って何ですか?BISTROというと、おいしそうなイメージですけど、下水道とは、全く結び付かないです。
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青木 - そうですよね。足立さん、以前、この番組で災害時のトイレについて深掘りしたとき、下水道の役割をお話しましたよね。
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足立 - 確か、そのときは、災害時に役立つ「マンホールトイレ」などをご紹介しましたよね。
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青木 - そうですね。下水道と言うと、真っ先に思い付くのは「トイレをはじめとする家庭から排出される汚水を処理するインフラ」ということですよね。汚れた水を家の排水管や下水管から下水処理場へ流し、きれいな水にして海や川に戻すことで、街を清潔に保ったり、大雨などによる浸水から街を守る、これが下水道の基本的な役割とご紹介しました。
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足立 - 覚えてます。電気やガス、水道と同じように暮らしを支えているのが分かりました。それまでは、下水道のことを考えることが余りなかったので、このときに、改めて下水道の重要性を知れて良かったなって思いました。
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青木 - 大切な社会インフラですよね。でも、これで下水道の全てが分かったと思ったら大間違いです。下水道にはBISTRO下水道という革新的な取組があり、今、そのプロジェクトに期待が集まっているんです!ここからはスペシャリストと一緒に深掘りしていきましょう。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 特任准教授 下水道システムイノベーション研究室の加藤裕之さんです!加藤さん、下水道システムイノベーション研究室では、どんなことを研究されているんですか?
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加藤 - はい。下水道には、いろんなものが流れてきます。今までは、どちらかというと、きれいにして川に流すことを行っていましたが、それを資源として、例えば農業やエネルギーと、社会に還元していく取組を研究しています。
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青木 - 加藤さんは、国土交通省や農林水産省、関係団体、自治体などで構成される「下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けた官民検討会」に副座長として参加されていて、今日の深掘りテーマであるBISTRO下水道の取組にも関わっていらっしゃいます。
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足立 - 早速なんですけど、そのBISTRO下水道の取組というのは、どういうものなんですか?
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加藤 - 先ほど、私の研究室の紹介でもお話しましたが、BISTRO下水道とは、下水道に流れてくるいろいろな資源を集めて、価値を高めて、食料として使っていく。まさに「BISTRO」ですから、下水道から出たものをおいしい料理に戻していく、そういう取組です。
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足立 - 「下水道で集められた資源」って、どういうことなんですか?
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加藤 - 我々が家庭などから出す汚れた水、排水の中には、例えば、リンや炭素といった有機物や窒素など、いろいろな資源が含まれています。今までは、単に集めて焼いて、埋め立てたりということが多かったのですが、 それを食料としてリサイクルしていく、ということです。
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足立 - それだけを抜き出す、みたいなことですか?
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加藤 - そうですね。廃棄するのではなく、資源として肥料やエネルギーなど、いろいろなものに使えるんです。
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青木 - 今、肥料のお話が出ましたが、実は、日本は、肥料の原料となるリンの需要量、年間およそ30万トンのほぼ100パーセントを輸入に頼っているんです。昨今、肥料の値段は、世界的な食糧需要の高まりや、リン鉱石の主要産出国の輸出制限などにより安定せず、乱高下を繰り返している状況なんです。
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足立 - そうなると、肥料代が高くなってしまいますよね。農家さんも困りますし、結果として、私たちが食べる農作物の値段も上がってしまうということなんですよね。
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青木 - こうした背景もあり、BISTRO下水道の取組に期待が集まっているんですよね、加藤さん!
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加藤 - はい、そのとおりです。農業に欠かせないリンですが、私たちの使った家庭などから出る下水の中にも多く含まれていて、下水道に集まる量は、年間のリンの需要量の1~2割相当にもなります。さらに、リン以外にも窒素などの資源が含まれています。肥料の三大要素というと「窒素、リン、カリウム」とありますが、窒素、リン、そして炭素といったものが下水道に入っており、こうした背景から、下水道から出てくる汚泥などの肥料としての活用に注目が集されているんです。
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足立 - でも、話を聞いていると、下水道から出てくる汚泥というと、良くないものも含まれているというイメージを持つ方もいるのではと思うのですが、その辺はどうですか?
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加藤 - 確かに、下水道にはいろいろなものが入ってきます。ですが、我々の健康に問題がないように法律によって基準が決まっています。肥料として使うには、物質がどのくらいの濃度で入っているかを分析し、安全な物だけが流通する仕組みが出来上がっています。
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青木 - それは、作るときに分けているんですか?
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加藤 - 出来上がった肥料の成分が十分に安全かどうか分析しています。例えば、重金属の濃度には、基準が決まっているので、その基準と、できた肥料の濃度を比べて、十分、低いことを確認しています。そういった肥料だけが登録され、流通する仕組みになっています。最近は、水質がかなりきれいになって、安全性の基準値よりも十分低い値になっています。
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青木 - 実際に、下水汚泥から肥料を作っている自治体によっては、毎月肥料を分析し、その結果をホームページなどで公表するなど、安全性と安心感を確保するための取組も行われているそうです。
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足立 - そうなんですね。では、出来上がった肥料ですが、肥料としての効果はどうなんですか?
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加藤 - いろんな自治体で、既に農作物を作って、検証してまして、まず、農作物の量が増えたり、味が良くなったなど様々な効果が上がっています。また、微生物の効果で、土がふかふかになったなど、今までよりも、より良い農作物ができるといった報告も届いています。
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足立 - 私たちの暮らしから出る水が、こんな風にリサイクルされているなんて全然、知りませんでした。
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青木 - 下水道というと、何となく良くないイメージを持つ方も多いと思いますが、今は進化して、循環型社会に貢献しているんです!ここからは、実際にどんな風に下水道に集められた資源がリサイクルされているのか、具体的に伺っていきます。ご紹介するのは、行列ができる下水処理場「佐賀市下水浄化センター」の取組です!
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足立 - 下水処理場に行列ができるんですか?
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青木 - この下水浄化センターのBISTRO下水道の取組は、先進的で全国から注目が集まっています。ここで作られた肥料は、その品質の良さが口コミで広がり、発売日には多くの農業関係者が行列を作るなど、毎年約1,400トンが完売するほど人気なんです。
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足立 - 加藤さん、どんな肥料が作られているんですか?
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加藤 - はい。ここでは、下水汚泥に、ある菌を加えて90度以上の高温発酵を行っております。じっくりと発酵させることによって雑草の種や病原菌を死滅させます。また、充分に発酵させることで、農作物が吸収しやすい状態になるんです。それによって、おいしい農作物が良く育つということで、人気になっているんですね。
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青木 - 実際、この肥料を用いて栽培したお米で効果を調べたところ、化学肥料で栽培されたお米よりも、アミノ酸がなんと55パーセントも増えていたそうです。
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足立 - アミノ酸が増えたということは、お米がおいしくなったということですか?食べてみたくなりますね。
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青木 - 佐賀市下水浄化センターのBISTRO下水道の取組がすごいのはこれだけじゃないんですよね、加藤さん!
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加藤 - はい。今、下水汚泥の話をしてきましたが、浄化センターで処理した きれいな水も活用しています。佐賀市は海苔の養殖が盛んで、処理水の窒素の濃度を、海苔を養殖する時期の冬にだけ上げています。これによって、栄養満点の処理水が有明海に流れ、おいしくて、色が濃い、品質の良い海苔が出来上がります。また、水だけでなく、汚泥からでるエネルギーですが、消化することによって、ガスが出ます。そのガスを使った発電も行っています。
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青木 - 発電するために、新たな機械や設備投資が必要というのはないんですか?
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加藤 - 元々、下水汚泥は量を減らすのが一番いいんです。ある意味では厄介者なので。そのために必要な消化という装置を使うのですが、これまではそこから出るガスを空中に捨てていたんです。ですが、そのガスを集めて精製すると、発電のガスとして使えるんです。なので、新たな機械は必要ないんです。
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青木 - なるほど!今までは空中に放出していたものを発電に利用していると。
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加藤 - そうです。効率的にガスを発生させる仕組みを工夫しております。
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青木 - 利用できる電力量というのは、どれくらいなんですか?
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加藤 - 現在、処理場で使う電力の40パーセントくらいは、賄っています。カーボンニュートラルにもつながる取組を実施していることも、佐賀市のすごいところですね。
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青木 - 佐賀市では、こうして栽培された作物や海苔など、下水道発の食材を大手スーパーと連携して販売するなど、PRも積極的に行なわれているそうです。
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足立 - 今、佐賀市でのお話でしたが、こうした取組は佐賀市以外でも行われているんですか?
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加藤 - はい。全国様々な地域で広がっています。例えば、山形県鶴岡市では、自治体やJA、大学、民間企業などが連携してBISTRO下水道を推進しています。それは、汚泥の肥料やエネルギーの利用など様々な取組を展開していますが、特徴的な取組は、下水処理した水を用いて藻を栽培し、養殖鮎の餌として与えていています。鮎は、スイカやキュウリの香りがするものがおいしいと言われています。藻を食べた鮎は、通常の養殖の鮎より香り高く育つそうで、そういった実験も行っております。
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足立 - その地域によって、取組が変わっているのが面白いですね。SDGsの観点からも、多くの地域に広がると良いですね。ところで、先ほど、佐賀市では生産された食材を大手スーパーと連携して販売していると紹介していただきましたが、私たちもそうした食材を買うことはできるんですか?
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加藤 - はい。BISTRO下水道の取組によって生産された食材に「じゅんかん育ち」というブランドネームを付けて販売しているところもあります。例えば、北海道岩見沢市でできたお米「ゆめぴりか」は「じゅんかん育ち」として、ふるさと納税の返礼品としてあります。
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足立 - 「じゅんかん育ち」探してみます!
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青木 - 人が排出した物を作物の栽培に利用し、再び排出するという食の循環がイメージされ「じゅんかん育ち」とされているそうです。すぐにそれと分かるように「じゅんかん育ち」というシールが貼られて販売されているものもあるそうですよ。
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足立 - これから、ちょっと気にしてみます!
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青木 - さて、今回は「BISTRO下水道」という革新的な取組を紹介しました。加藤さん、今後、下水道の取組は、どんな広がりを見せていくと思いますか?
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加藤 - 今、世界は水と食とエネルギーをいかに確保していくかという時代になっています。地域や我々個人が世界的な問題にどう貢献できるか、問われていると思います。そのときに、下水道が世界に貢献していくための一つの道具になっていくのではと思っています。下水道も、インフラの老朽化という問題はありますが、世界に貢献していける道具ですから、是非、皆さんに応援していただきたいなと思っています。
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足立 - 今日の話を聞いて、「BISTRO下水道」という意味が分かりました。この取組がいろんな地域や場所で広がってほしいので、そのためには、私たちにできることは、「じゅんかん育ち」の物を買うことだと思いました。そうすると、その下水道処理場がいろんな取組をしてくれる可能性もありますよね。
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青木 - 私たちが「じゅんかん育ち」を手に取ることで、応援できるわけですものね。私が今日の話を聞いて、下水道のポテンシャルを感じました。肥料はもちろんですが、バイオガスを発電に利用している、これも驚きでした。今まで、単純に捨てられていたもの、利用できないと思われていたものでも、環境のために、社会のために、いろんな形で利用するというのは良いことですよね。
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