目指せ日本復権! 半導体の世界
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スマホ、パソコン、家電などに組み込まれ、私たちの暮らしを支える半導体。かつて日本は半導体の世界シェアが50%を超える時期がありましたが、現在は外国に遅れをとる状況です。番組では、日本における半導体産業の重要性、また、熊本に半導体新工場ができることによる地域経済、雇用、人材育成などの効果を深掘り。そして、日本がアメリカや欧州と連携して進める「次世代半導体」の開発についても紹介!

- ゲスト
経済産業省 商務情報政策局
情報産業課 総括補佐
羽原健雄
ストリーミング(音声で聴く)
- 放送日
- 令和5年(2023年)4月9日
- 再生時間
- 18分02秒
- 配信終了予定日
- 令和6年(2024年)4月8日
文字で読む
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青木 - 今日は、見聞を広げる大人の社会科見学企画第7弾です。スマホの頭脳でもある半導体を深掘りします!足立さん、「半導体」と言われて、どんなことを思い付きますか?
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足立 - いろんな電子機器に入っている「緑色のあれ」ですよね?
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青木 - 半導体はスマートフォンやパソコンなどの電子機器や、電車、自動車などにも組み込まれ、その頭脳の役割を果たすものです。電気で動いたり、制御されている、ほぼ全てのものに入っています。半導体が無ければ、スマホもパソコンも使い物にならないので、私たちの暮らしに無くてはならないものなんです。そこで、大人の社会科見学企画第7弾では、この半導体の世界を深掘りしていきます。早速スペシャリストをお呼びしましょう!経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 総括補佐の羽原健雄さんです。
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足立 - 羽原さん、この緑色のものは、もしかして?
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羽原 - こちらが、先ほど、足立さんがおっしゃっていた「緑色のあれ」です。正確には緑色をしている基盤の中で、そこに張り付いているように見える、ボコッとした黒いものの一つ一つが半導体です。
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足立 - 黒いもの、そっちが半導体なんですね!
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羽原 - こうした半導体が加工されて電子機器に組み込まれているんですが、その加工の世界は非常に微細です。例えば、最新のスマホに使用される半導体の中には、4ナノメートルの世界で加工が行われているものもあります。
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青木 - 足立さん。4ナノメートルですよ。
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足立 - ちょっと、どれくらいなのか想像ができないですね。
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青木 - ちなみに、1ナノメートルは、髪の毛1本の太さの10万分の1です。
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足立 - えっ!?髪の毛1本でも十分に細いし、細かいと思いますが、それよりも、小さな世界ということなんですね。
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青木 - はい。今は、4ナノメートルの世界で加工が行われているんですね。
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足立 - 加工の工程は目に見えない世界で行われているんですね。すごい技術ですね。
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羽原 - はい。世界は今後ますます、デジタル化、脱炭素化を進めていきますから、その実現に、半導体は無くてはならないもので、世界の主要な半導体メーカーは、そのテクノロジーと製造技術に磨きをかけて、熱い戦いを繰り広げている状況です。
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青木 - 足立さん、一口に半導体と言っても、その用途によって種類があり、関係する主要メーカーにも違いがあるんです。半導体の種類は大きく「先端半導体」と「従来型半導体」に分けられます。先端半導体は、パソコンやスマホ、自動運転の車などに用いられ、高度な計算や情報処理を行います。一方で、従来型半導体は家電などによく用いられ、単純な計算や情報処理、電流や電圧の制御などを行います。そして、その先端半導体分野に強くシェアが高い国・地域は、アメリカや台湾、そして韓国なんです。
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足立 - あれ?日本は?
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青木 - そうなんですよ。気付きましたか。羽原さん、日本の半導体メーカーの現状を教えてください。
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羽原 - 実は、日本の半導体メーカーは、ハードディスクやUSBメモリなどの情報を記憶する半導体は作れるのですが、高度な計算や情報処理をする先端半導体分野には参入していないんです。
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足立 - そうなんだ。では、従来型半導体分野の方は強いんじゃないですか?
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羽原 - 日本が強い分野もあるのですが、昔に比べると競争力は落ちているんです。日本はかつて、半導体の世界シェアで50パーセントを超える時期がありました。日本の家電メーカーが海外へどんどん輸出していた1988年頃です。しかし、1990年代以降、パソコンや携帯電話などの需要が伸びるようになると、徐々にその地位が低下してしまい、今は10パーセントを切る状況です。
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足立 - 何でそんなに弱くなってしまったんですか?それに、どうして日本はパソコンや携帯電話に利用される「先端半導体」分野に余り参入していないんですか?
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羽原 - 理由は様々ありますが、日本の半導体が好調だった時期に、日米の間で半導体の貿易摩擦が生じ、日本政府が半導体産業を支援しづらい時期があったんです。
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青木 - その間に台湾や韓国政府は「日本が行かないのならうちが行くぜ!」とばかりに、国内の半導体産業の支援に力を入れたため、台湾や韓国は従来型半導体だけでなく、先端半導体分野の開発も進め、シェアを高めていったんです。
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足立 - 悔しいですね。
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青木 - 少なからず技術者も海外に流出していますしね。
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足立 - なるほど。でも、このままじゃダメなんじゃないですか?
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羽原 - はい。先ほども少しお話をしましたが、今、世界は、デジタル化、脱炭素化を進めていて、今後も半導体の需要が増大していくことは確実です。この大きな市場で、日本も存在感を示し、世界に貢献していくポテンシャルは十分あると考えています。また、経済安全保障の観点からも、半導体に力を入れていくことは非常に重要です。
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足立 - 経済安全保障?
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羽原 - はい。実はここ数年、アメリカ、中国、ヨーロッパ、韓国といった主な国では、異次元の半導体支援策を打ち出しています。例えば、アメリカ政府は半導体関連のための設備投資などに5兆円を超える補助基金を設けているほか、半導体製造関連の投資に対する25パーセントの減税措置も打ち出しています。実は、日本には80を超える半導体関連の工場があるのですが、例えば、そうした工場が、このような補助を受けられるのならと、海外へ流出してしまった場合、有事のときに半導体はもちろん、半導体を用いる様々な製品の製造が滞ってしまいます。
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足立 - 確かに、コロナ禍の影響で、半導体が手に入らないから車の納品が遅れてるとか、そんなニュースを聞きましたね。
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羽原 - 半導体は様々な電子機器に使用されていますから、それが手に入らないと、経済に与える影響は非常に大きいです。ですから、各国が様々な支援策を打ち出して半導体関連の重要な生産基盤を自国で確保しようとしているんです。
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足立 - もしものときも、国内で生産していれば、影響を軽減することができますよね。だから、日本も遅れを取っちゃだめですよね。
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青木 - はい。でも安心してください。足立さん。日本もしっかりと対策を立てて、すでに動き出しているんです!
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足立 - 羽原さん、日本が国内で半導体を生産するために、どんな対策が行われているんですか?
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羽原 - はい。半導体を作るには、様々な素材や製造装置が必要です。そうしたもの全てを一つの国で補うことは不可能でして、同盟国や有志国と連携することが重要です。また、半導体の工場を整備するには多額の投資が必要となります。そこで日本は法律を改正し、予算を計上し、先端半導体の生産施設の整備及び生産を行う企業に助成を行うこととしました。
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足立 - ということは、いよいよ先端半導体の生産に本腰を入れるって感じですね。
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羽原 - 昨年は3件の助成が決定したんですが、そのうちの一つは、半導体製造メーカーの世界最大手となる台湾の企業TSMCです。TSMCは今、熊本県に新工場を建設中で2024年の稼働を目指しています。日本政府はその誘致に当たって基金を作り、最大4,760億円の支援を決定しました。
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青木 - この工場の運営を担うのは、TSMCの子会社で日本の企業も出資しているJASMです。現在、JASM熊本工場では、本来3年を要する建設を1年半で終わらせる速さで工事が進められています。
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羽原 - 実は、人材育成の面でも、高等専門学校で半導体の専門知識と技術を習得できるよう新しいカリキュラム作りが進められていたり、熊本大学では半導体の製造・開発に携わることができる人材育成をする新しい学部創設の準備が進んでいます。
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足立 - なるほど。大きな工場ができると、新たにそこで働く人が必要になりますもんね。
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羽原 - 雇用に関しては、JASMが直接雇用する1,700人を含めて、地域全体で7,500人の雇用が見込まれています。また、JASM熊本工場の誘致が公表されると、半導体関連企業も熊本を中心に、九州の工場に新たに投資することを発表しました。その数、分かっているだけで、なんと31社です。
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足立 - 1つの工場ができるだけで、すごい影響力があるんですね!
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青木 - そうですよね。人材育成を含めて、熊本が半導体をきっかけに一つの拠点になりそうですよね。実際にJASM熊本工場が稼働したら、その経済波及効果は2024年からの2年間で1兆8,000億円、2022年から31年までの10年間では4兆2,900億円との試算もあります。
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足立 - 工場がどんどん増えて、働く人が増えれば、住宅も必要ですし、日常的に消費もしますから、これから地域経済が活性化するというわけですね。半導体の大きな工場ができると、国としてだけでなく地域にも多くのメリットをもたらすのは、すごいですよね。
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青木 - ここまでは日本の半導体産業の現状や、先端半導体の工場の誘致について紹介してきましたが、ここからは未来の話をしていきましょう。未来の社会では、今よりもっと高機能・低消費電力のモビリティや、圧倒的なシミュレーション能力を持つスーパーコンピュータなどが必要不可欠です。例えば、完全自動運転の車やドローンによる配送、超精密な気象予測などを実現させるためには、「次世代半導体」の開発が必要不可欠なんです。
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足立 - 次世代半導体?先端半導体より、もっとすごい半導体ってことですか?
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羽原 - はい。次世代半導体は2ナノメートル以下の小さい世界の半導体で、まだ世界中のどの企業も実用化に成功していない半導体です。そのため、半導体トップメーカーを有するアメリカ、韓国、台湾だけでなく、欧州も乗り出し、今、世界中で次世代半導体の開発が加速しています。そこで、日本もアメリカや欧州とタッグを組んで、この次世代半導体産業に参入していこうとしています。
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足立 - 今日の話を聞いて、日本は先端半導体の開発に遅れを取っていると思うんですが、それでいきなり次世代半導体って、難しいんじゃないですか?
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青木 - そんなことはありません!羽原さん、期待できるんですよね。
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羽原 - はい。既に日本は、アメリカや欧州と一緒に次世代半導体の開発を推進していくことに合意しています。アメリカは先端半導体のシェアは高いですが、アメリカ一国で次世代半導体の開発をしていくのは厳しい状況です。また日本は、先端半導体の生産には他国に遅れを取っていますが、実は、半導体の製造装置や素材の分野では強さを発揮しているんです。ですから、日本とアメリカ、欧州がタッグを組めば次世代半導体の開発も夢ではありません。
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足立 - そうなんだぁ。それは楽しみですね。
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青木 - 必要不可欠な技術の一部を日本も握っていますからね!
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羽原 - 既に、次世代半導体の量産製造拠点を目指す企業が設立され、日本の大手企業8社も出資しています。早速、昨年12月、アメリカの企業と共同開発パートナーシップを締結し、欧州の研究機関とも協力をすることとなりました。さらに、先日、北海道に工場を建設することも決まりました。目指すは2ナノメートル以下の次世代半導体です!
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足立 - 1ナノメートルは髪の毛1本の太さの10万分の1だから、2ナノメートルは髪の毛1本の太さの5万分の1の世界ですよね。ワクワクしますね。
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青木 - とんでもない世界ですが、これは期待したいですね。
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羽原 - 今、政府では半導体産業の国際的な競争力を強化するため、力を注いでいます。半導体産業の競争力が強化されることで、皆さんの生活が今よりもっと便利になるだけでなく、経済的にも潤う社会が期待されています。是非、これからの半導体産業に興味をもって見守ってください。
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足立 - 熊本に半導体の工場ができるだけで、雇用や人材育成、住宅などいろんなことに広がることが面白いなと思いました。実際、半導体を自分たちで作れるわけではないから遠い存在に思えていましたが、意外と、身近にあるものなんだというのを改めて感じることができました。
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青木 - 経済波及効果もすごいですもんね。私が今日の話の中で印象に残ったのは、次世代半導体産業に参入することです。確かに、先端半導体の開発に遅れを取っているという現状はあるんですが、実は、半導体の製造装置や素材の分野では、まだ日本は強さがありますから、まだまだ日本に求められる役割、できることがあるんじゃないかなと思って期待しています。