日本の農林漁業の成長のカギとして「6次産業化」が注目されています。農林漁業者自らが生産だけでなく加工・流通販売を一体的に行ったり、農林漁業者と商工業者が連携して事業を展開する、農林漁業の可能性を広げようとする取組みです。日本政策金融公庫では、6次産業化を目指す農林漁業者等を応援するため、様々な支援を行っています。
農林漁業の「6次産業化」とは?~生産(1次産業)・加工(2次産業)・流通販売(3次産業)を一体化した農林漁業の新たな展開です。
我が国には地域ごとに、その土地で生産される農林水産物をはじめ、森林資源などのバイオマス、水や土地、景観や伝統文化など、有形無形の様々な「地域資源」があふれています。地熱や太陽光、風力などの自然エネルギーもそれに加えられるでしょう。
「6次産業化」とは、そうした地域ごとの資源を活かして、農林漁業者が生産・加工・流通販売を一体化することや、2次産業・3次産業と連携して新しいビジネスの展開や営業形態を創り出すことであり、農山漁村の雇用と所得を確保することを目指しています。生産部門の1次産業、加工部門の2次産業、流通販売部門の3次産業の、1、2、3を掛けて6になることから、6次産業化といわれています。
2次産業、3次産業との融合により、農林漁業の可能性は大きく広がります。例えば、1次産業が産み出す生鮮品は売れる時期が限られますし、売る値段も市場の影響を受けやすい。しかし、生鮮品を冷凍や乾燥などの加工をすれば販売時期を変えられますし、直売所などの販売ルートがあれば、自ら価格を決めることが可能です。
農林漁業では競争力強化や従事者の確保が喫緊の課題となっており、成長産業化として発展させる「6次産業化」への期待は益々高まっています。
政府も、「日本再興戦略」を受けて平成25年12月10日に決定(平成26年6月24日改訂)された「農林水産業・地域の活力創造プラン(※)」において、「6次産業化等の推進」を掲げています。そこでは「2020年までに6次産業化の市場規模を(現在の1兆円から)10兆円に増加」することを目標として、6次産業化を図る農林漁業者や食品企業を含む多様な事業者の取組を支援するとしています。
※:「農林水産業・地域の活力創造プラン(平成26年6月24日改訂)」(P22)[PDF]より。
こうした中で、日本政策金融公庫(以下、「日本公庫」という)では、各種の融資制度や経営支援サービスを通じて、農林漁業者などの6次産業化の取組を支援しています。
どんな融資制度があるの?~事業を行う方に応じて、4つの融資制度があります。

6次産業化に取り組む方を対象とした日本公庫の融資には、ご利用いただく事業者や事業内容に応じて、下表の4つの制度があります。
(1)スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)
(2)農業改良資金
(3)食品流通改善資金
(4)農林漁業施設資金
融資制度 | ご利用いただける事業者など | 融資条件 | 利率(※) |
---|---|---|---|
(1)スーパーL資金 (農業経営基盤強化資金) |
認定農業者 (農業経営改善計画を作成して市町村長の認定を受けた個人・法人) |
【融資限度額】 個人:3億円 法人:10億円 【返済期間】 25年以内 (うち据置期間10年以内) |
一般: 0.25~0.70% 特例: 0%(貸付実行日から5年後の応当日の前日まで) |
(2)農業改良資金 | 6次産業化法に定める「総合化事業計画」、農商工等連携促進法に定める「農商工等連携事業計画」の認定を受けた中小企業者など | 【融資限度額】 個人:5,000万円 法人:1億5,000万円 【返済期間】 12年以内 (うち据置期間5年以内) |
無利子 |
(3)食品流通改善資金 (食品生産販売定型事業施設・食品生産製造提携事業施設) |
農林漁業者等との提携事業を行う ・食品販売業者 ・食品製造業者 |
【融資限度額】 事業費の80%以内 【返済期間】 10年超15年以内 (うち据置期間3年以内) |
0.25~0.65% |
(4)農林漁業施設資金 | 【共同利用施設】 農業協同組合、農業協同組合連合会 |
【融資限度額】 負担する額の80% 【返済期間】 20年以内 (うち据置期間3年以内) |
0.70% |
【スーパーW(アグリビジネス強化計画)】 認定農業者が加工・販売などを行うために設立した法人 |
【融資限度額】 負担する額の80% 【返済期間】 設備資金:25年以内 (うち据置期間5年以内) 運転資金:10年以内 (うち据置期間3年以内) |
※利率は平成27年10月20日時点のもの。
最新の利率は下記をご覧ください。
日本公庫「農林水産事業(主要利率一覧表)」
6次産業化のための融資は近年、増加傾向にあります。平成26年度は、前年度と比べて融資先が864から1,166へ、融資額は523億円から853億円となっています。
グラフ:6次産業化関連の融資実績
(資料:日本公庫)
ここでは、農業者に最も活用されている「スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)」をご紹介します。
スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)の概要
「スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)」は、農業経営改善計画を作成して、市町村長の認定を受けた方(認定農業者)の自主性と創意工夫を活かした経営改善を応援する総合的な資金です。
例えば、酪農家であれば、牛舎の建設や長期運転資金だけでなく、6次産業化のためのチーズやジェラートの加工場、直売所の建設など、様々なニーズにお応えできる資金制度となっています。
【利用できる方】
認定農業者(農業経営改善計画を作成して市町村長の認定を受けた個人・法人)
※なお、個人の場合、簿記記帳を行っていること、または今後簿記記帳を行うことが条件となります。
【資金の使いみち】
農地の取得や改良・造成、施設・機械の費用、果樹・家畜の購入・育成費、規模拡大や設備資金に伴う原材料費や人件費、負債の整理など経営安定化のための資金、法人への出資金など
【融資限度額】
個人:3億円(特認※ 6億円)
法人:10億円(特認※ 20億円)
※特認:一定の要件を満たす場合、特別の融資限度額が認められる場合があります。詳細は最寄りの日本公庫・農林水産事業の支店窓口等にご相談ください。
○このうち経営安定化のための資金の融資限度額は、個人6,000万円、法人2億円です。
【返済期間】
25年以内(うち据置期間10年以内)
スーパーL資金について、詳しくは下記をご覧ください。
日本公庫「スーパーL資金」
そのほかにも、次のような融資制度も6次産業化に関連して利用することができますので、ぜひご参考にしてください。
日本公庫「農業改良資金(認定中小企業者向け)」:農商工等連携促進法に定める農商工等連携事業計画の認定を受けた認定中小企業の方
日本公庫「農業改良資金(促進事業者向け)」:6次産業化法により認定された総合化事業計画の実施を支援する促進事業者の方
融資制度を利用するには?~最寄りの日本公庫・農林水産事業の支店窓口等にご相談ください。
日本公庫の調査によれば、6次産業化に取り組んだ方の約7割が、所得の向上を実感しています。農林漁業の可能性を広げ、所得の向上にもつながる6次産業化に皆さんもチャレンジしてみませんか。
農林漁業の6次産業化支援の融資およびビジネスサポートについては、最寄りの日本公庫・農林水産事業の支店窓口、または電話による相談窓口「事業資金相談ダイヤル0120-154-505」にお問い合わせください。
【支店窓口】
●日本公庫「店舗案内」
【電話による相談窓口】
●日本公庫「事業資金相談ダイヤル」
・音声ガイダンスが流れた後に、ご希望のサービスメニューの選択番号を押してください。
・事業資金相談ダイヤルのほかに、全国の支店でも相談に応じています。
(支店の営業時間:平日9時~17時)
選択番号 | サービスメニュー | 事業 |
0 | これから創業をお考えの方、創業して間もない方(創業ホットライン) | 国民生活事業 |
1 | 個人企業・小規模企業の方 | |
2 | 中小企業の方 | 中小企業事業 |
3 | 農林漁業者や国産農林水産物の加工流通業者の方 | 農林水産事業 |
【融資制度の利用手続き】
農林水産事業では、政府の政策を踏まえた地域の農林水産施策の方向に沿った事業に融資をしています。ご融資に当たっては、都道府県知事や市町村等からの事業計画等に対する承認等を確認しています。スーパーL資金の手続きは次のとおりです。
スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)の借入れまでの手順
○経営改善資金計画の作成・認定 |
(1)窓口機関(日本公庫・地元行政・農協等)に相談 ※資金利用の条件である経営改善資金計画の作成・認定については、 日本公庫のほかにも地元行政等の関係機関が窓口になります。 ・経営改善資金計画の作成支援 ・融資条件の調整 ↓ (2)必要書類を窓口機関に提出 【必要書類】経営改善資金計画 借入申込希望書 最近3か年の決算書類 ↓ (3)経営改善資金計画を推進会議(※)で審査 ↓ (4)経営改善資金計画の認定 |
○スーパーL資金の申込・融資 |
(5)借入申込書の提出(日本公庫へ) (6)貸付決定 (7)実行手続 (8)担保設定手続 (9)事業費の支払い |
※推進会議:市町村に設置される特別融資制度推進会議。
スーパーL資金、農業近代化資金、青年等就農資金など、地域農業振興のための融資制度について、事業計画等の認定などについて協議を行う。
◎都道府県によって手順が異なる場合がありますので、詳細は最寄りの支店窓口にご相談ください。
手続について詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.jfc.go.jp/n/finance/flow/flow.html
融資のほかにどんなサポートが?~展示商談会の開催等による販路支援や、経営相談など。
日本公庫では、上記のような融資制度以外にも、大規模な展示商談会の開催やインターネット上にビジネスマッチングのためのサイトを開設・運営して販路の拡大を支援するほか、各種経営課題の相談に応じるなど、6次産業化の取組を支援する様々なサポートを行っています。
<6次産業化に取り組む方への主なビジネスサポート>
●「アグリフードEXPO」の開催
販路拡大を目指す農業者や食品製造業者とバイヤーをつなぐため、全国規模でのビジネスマッチングの場として、国産農産物の展示商談会「アグリフードEXPO」を東京・大阪でそれぞれ年1回開催しており、毎年、全国から1万人以上のバイヤーが来場し、活発な商談が行われています。
平成27年8月に開催された「アグリフードEXPO」では、出展者数868社、来場者数14,624名にのぼり、会期後も継続して商談を行う件数が7,573件と過去最高を記録しました。新規顧客の開拓のほか、異業種との交流や新商品開発のヒントなど、様々な成果につながっています。
●インターネットビジネスマッチング
6次産業化に取り組む方のビジネスチャンスを広げる場として、日本公庫ウェブサイト上にビジネスマッチングサイトを開設・運営しています。「売りたい」人と「買いたい」人が自ら商品登録を行い、お互いのニーズがマッチしたときに、それぞれの詳細画面から商談依頼を行い、商談を進めていくことができます。
・日本公庫「インターネットビジネスマッチング」
●経営課題の相談
日本公庫各支店では、ご融資先のさまざまな経営課題のご相談にお応えしています。
また、より専門的なご相談が必要な場合は、日本公庫が実施する試験に合格した農業・林業・漁業の各経営アドバイザーのほか、都道府県農業改良普及センターやNPO法人日本プロ農業総合支援機構などの外部機関をご紹介しています。
詳細は、日本公庫ウェブサイトの「経営課題のご相談(外部機関紹介)」に、相談したい経営課題ごとに、主なご紹介先と日本公庫のお取り扱い窓口を一覧にしていますので、ご覧ください。
これまでの融資事例は?~日本公庫が行った6次産業化支援の融資の中から、3つの事例を紹介します。
日本公庫が6次産業化を融資で支援した事例の中から、3つ紹介します。
【事例1】養蜂業者の6次産業化を融資で支援
ひふみ養蜂園株式会社/千葉県
千葉県のひふみ養蜂園株式会社は、ハチミツやプロポリスの製造・販売を行っています。同社は、製品の付加価値向上のため、新たに自社のハチミツを使用したジェラートやドレッシングなどの加工品を開発。また、販売強化と利益率向上を目指し、それら加工品を販売するための新しい直営店舗の開設を計画しました。新店舗では集客のためにイートインスペースや散策できる和風庭園も設けるほか、みつろうキャンドルの製作体験なども開催する予定です。
同社は、新店舗の建設に必要な資金を日本公庫に相談。日本公庫は、同社の6次産業化の取組みなどを評価し、スーパーL資金を融資して支援しました。
イートインスペースを設けた新店舗と新開発したハチミツジェラート
(写真提供:ひふみ養蜂園株式会社)
【事例2】品質とブランドを押し出したリンゴ加工品の海外展開を後押し
株式会社青研/青森県
青森県の株式会社青研は、リンゴの栽培・加工・販売を行う農業生産法人です。直営農場と契約農家が生産する多様な品種のリンゴについて、産地や栽培方法の名を冠してブランド化。生果のほかにリンゴを用いたジュースや飲用酢などの製造販売を展開しています。近年はインターネットを用いた直販や、輸出にも注力。台湾、香港、タイ、中国、カナダなど、着実に実績を積んでいます。
同社はこれらの拡販に対応して高品質のリンゴを確保するため、リンゴを長期保存できる冷蔵庫の増設と、最新式の選果機の導入を計画し、資金調達について日本公庫に相談しました。日本公庫では、同社のリンゴ生産及びリンゴジュースの製造に必要な技術力や販路確保の見通し、青森県産リンゴジュースの販売を通して地域農業の発展・振興が図られることなどを評価。今回の設備投資に必要な資金を、スーパーL資金により融資しました。
契約農家が生産するリンゴで高品質の加工品を製造し、海外にも販売を拡大
(写真提供:株式会社青研)
【事例3】国産紅茶のブランド化を融資で支援
株式会社アーリーモーニング/岡山県新見市
株式会社アーリーモーニングは、岡山県で紅茶農園と紅茶専門店などを展開しています。自社農園で生産する紅茶専用茶樹を原料とした独自ブランド紅茶の販売に力を入れています。製茶については、これまで農園と離れた場所にある設備を借りて作業していましたが、作業効率の改善と販売量の増加に対応するために農園に近い場所に製茶設備を整備することを計画。必要な資金について日本公庫に相談したところ、日本公庫では、6次産業化の取組みとして、国産紅茶の新しいブランド商品を開発し着実に販路を拡大していることなどを評価し、スーパーL資金を融資。同社の紅茶製造施設は平成26年8月に完成し、夏摘みの二番茶から製茶を開始しています。
自社農園で栽培した茶葉を使って独自ブランド紅茶を開発
(写真提供:株式会社アーリーモーニング)
(取材協力:財務省、(株)日本政策金融公庫 文責:政府広報オンライン)
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