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Highlighting JAPAN

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科学技術

超合金でエコエンジン(仮訳)

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日本で開発されたニッケルベースの耐熱合金がボーイングの新しい低燃費ジェット機の製造に使われている。佐々木節が合金の開発リーダーである原田広史氏に話を聞く。

「タービンブレードの耐熱温度が40℃上がるごとに、ジェット旅客機の燃費は1%ずつ向上していくと言われています。たかが1%……と思う人もいるでしょうが、これによって1機あたりの燃料代は年間百万ドルも削減できるのですよ。また、ジェット旅客機の燃費向上は、CO2排出を減らすという環境面でも非常に重要です」

このように話すのは、独立行政法人物質・材料研究機構の超耐熱材料センター長をつとめる工学博士・原田広史博士である。

ジェット旅客機のエンジンの中核をなしているのがタービンブレードという羽根車のような部品である。ジェット旅客機に用いられるエンジン(ファンジェットエンジン)では、高温・高圧の燃焼ガスのエネルギーをこのタービンブレードで回転力に変え、エンジン前方の大きなファンを回すことにより推進力の約90%を得ている。原田博士が35年にわたり研究を続けているのは、このタービンブレードの素材として用いられるニッケルベースの超合金である。

ジェット旅客機が最も大きな推力を必要とするのは離陸時で、そのときの燃焼ガスの温度は1600℃以上にも達する。一方、現在実用化されているタービンブレードの耐熱温度は1100℃である。そのため、エンジン前方から吸い込んだ空気をタービンブレード内部や表面に流すことで、部品の温度を耐熱温度以下の1050℃前後に保っている。ただし、燃焼のために吸い込んだ空気を冷却にも回しているため、燃焼効率は当然ながら低下してしまう。タービンブレードの耐熱性を上げることはジェット旅客機の冷却空気の削減と燃費向上にきわめて重要なのだ。

「耐熱合金が実用化されたのは1940年頃で、当時の耐用温度は700℃程度でした。その後、アルミニウムやクローム、チタンなど、ニッケルに混ぜ合わせる元素をさまざまに変えたり、元素同士の繋ぎ目をなくす単結晶化により、耐熱温度は少しずつ向上していきました。しかし、単結晶化の特性にも限度があり、90年代まで超合金の耐熱温度は1050℃あたりにとどまっていたのです。そんなときわれわれが着目したのが超合金の劣化を引き起こす結晶欠陥でした。モリブデン、レニウム、ルテニウムといった希少金属を加え、結晶の重なりを不均一にすることで、逆に結晶欠陥の網目が細かくなり、それらが不活性化することを発見し、耐熱性を格段に向上させることに成功したのです」

この網目構造を細かくする技術を利用し、超耐熱材料センターでは2004年、世界初となる耐熱温度1100℃のニッケル超合金を開発した。現在はイギリス・ロールス・ロイス社との共同開発により、結晶欠陥の網目をさらに細かくすることで、耐熱温度を1150℃まで高めたタービンブレードの開発が最終段階に入っている。この新世代超合金を用いたタービンブレードは、2011年就航する最新鋭の高効率中型機、ボーイング787のエンジンにも採用が予定されている。

二酸化炭素削減への応用

また、原田博士の開発した新世代の超合金は、火力発電所で使われる大型ガスタービンなどへの応用でも大きな期待が寄せられている。燃料のもつエネルギーを電力に変換する効率、熱効率で比較すると、石炭火力発電は42%、最新鋭の複合火力発電でも52%程度だが、新世代の超合金を用いた大型ガスタービンなら56〜60%まで引き上げることができるのである。国内の石炭火力発電所のうち1箇所をこの効率のいいガスタービン火力発電所に切り替えただけでも、日本国内で排出されるCO2量が、実に0.4%も減少すると予測されている。これは温室効果ガス排出削減の大きな切り札になるに違いない。

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