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Highlighting JAPAN

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特集一人一人が一人一人を幸せにする国際協力

人間の安全保障の国際的な広がり(仮訳)

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日本は人間の安全保障の概念を世界で普及させるために、様々な外交努力を行っている。国際社会における人間の安全保障の広がりについて、国連を中心に10年以上にわたってその普及に取り組み、2010年12月、潘基文国連事務総長から人間の安全保障に関する国連事務総長特別顧問に任命された高須幸雄氏に、ジャパンジャーナルの澤地治が話を聞いた。

──日本と人間の安全保障の関わりの歴史をお教えください。

高須幸雄氏:国際社会で、人間の安全保障という概念を初めて公に提起したのは、国連開発計画(UNDP)が1994年に発表した「人間開発報告書」でした。ただ、当時は、この概念を世界の指針として普及させる大きな動きにはなりませんでした。

しかし1997年のアジア通貨危機により、アジア諸国で医療や教育などの分野への財政支出が大幅に減少し人々の生活を脅かす事態が発生しました。当時の小渕恵三首相は、こうした時こそ人間の安全保障を視点に入れた社会的弱者を支援する具体的行動を起こすことが重要と考え、2国間協力とともに、1998年、国連「人間の安全保障基金」の設立を表明したのです。

さらに日本は、人間の安全保障を世界共通の概念として議論し、普及させるための仕組みづくりを国際社会に提案しました。これを受け、2001年に、国連難民高等弁務官だった緒方貞子氏と、ケンブリッジ大学トリニティーカレッジ学長のアマルティア・セン氏を共同議長とする「人間の安全保障委員会」が設立されたのです。

──人間の安全保障を巡る、最近の国連の動きをお教えください。

国連首脳会合の成果文章で、初めて人間の安全保障の重要性が言及されたのは2005年のことでした。その後日本のイニシアティブで、人間の安全保障に関する共通理解の構築を目指した非公式なフォーラム「人間の安全保障フレンズ」が設立されるなどの動きをへて、2010年7月に人間の安全保障に関する国連総会決議が採決されました。この決議では「加盟国が人間の安全保障の概念に関する議論を継続し、合意に達する必要性を認識する」と明記されました。また、2012年の国連総会に、定義のありかたも含め人間の安全保障に関する各国の考えをまとめた報告書を提出するよう国連事務総長に求めることが決められています。

──人間の安全保障の定義を巡って、国際社会ではどのような議論があるのでしょうか。

加盟国のほとんどは人間中心の視点から地球的課題に取り組む考え方に賛成していますが、一部の国は懸念を表明しています。それは、人間の安全保障の名のもとに、各国の主権が侵害される可能性があるのではということです。つまり、ある国で人間の安全保障が十分に実現されていない場合、それを是正するために、国連等がその国に実力で「介入」してくるのではという懸念です。

私の国連事務総長特別顧問としての役割の一つは、そうした懸念を持っている国の関係者と会い、国家介入のために利用する概念では決してないと理解してもらうことです。

また政府だけではなく、アフリカ連合(AU)や米州機構(OAS)といった地域機関、NGO、学会、企業等の組織と密接に連携をとり、人間の安全保障に関して、世界共通認識の形成に取り組むことも私の役割です。特に、民間企業が果たす役割は重要だと考えています。様々な集まりを通じ、世界中のビジネスパーソンに人間の安全保障を重視しながらビジネスを行ってほしいと訴えていきたいと思います。

──人間の安全保障を重視した日本企業の活動には、どんなものがあるでしょうか。

住友化学はアフリカでマラリアを防ぐ蚊帳を生産しています。これはチャリティーではありません。ビジネスとして蚊帳の生産を行っており、現地の雇用も生み出しています。また武田薬品は、日本が提唱し2002年に設立された、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)を通じて、アフリカにおける保健医療人材の育成・強化をはかる寄付プログラムを2010年に設立しています。そのほか、日立建機は、安全に地雷を取り除く地雷除去機を開発しました。これらの例は、ビジネスにおける人間の安全保障の実践と言えるでしょう。

──人間の安全保障をめぐる国内の動きはどうなっていますか。

日本青年会議所では、2011年を日本国内で人間の安全保障の概念を広く発信していく年にするとし、会員企業がそれぞれの地元で積極的に講演会等を行っています。

また今年9月には日本で人間の安全保障学会も設立される予定です。日本国内において、人間の安全保障という概念は着実に広がっていると思います。

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