Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2011年9月号 > 菜の花栽培が、被災地に希望の灯火をともす(仮訳)
2011年3月11日に起きた東日本大震災の津波による塩害で、東北の太平洋沿岸部の農地約2万ヘクタールが、従来の作物の作付けができない状態となった。東北大学が中心となって進めている「津波塩害農地復興のための菜の花プロジェクト」は、これらの農地を修復するための試みである。末村成生がプロジェクトリーダーの中井裕教授に話を聞いた。
──なぜこのプロジェクトを始めたのですか。
中井裕:宮城県仙台市にある東北大学農学部も、東日本大震災で被害を受けました。建物が倒壊するような大きな被害はなかったものの、水道や電気などの復旧に二週間ほどかかりました。私達は、インフラの復旧後すぐに、地域の復興に貢献する道を模索し始めました。
農学が専門の私達には、被害を受けた農業を立て直したいという思いがあります。私が所属する研究科には、世界で唯一といえる約800種ものアブラナ科作物の遺伝子バンクがあり、これが何かの役に立たないかと目をつけました。
アブラナ科作物の花を総称して菜の花と呼びますが、菜の花の中には塩害に強い品種があることがわかっていました。だから、津波による塩害で従来の作物の作付が出来なくなっている農地でも、菜の花なら育つはずです。被災農家は栽培した菜の花や菜種油を食用や燃料用として出荷することで現金収入を得られます。さらには、数年にわたって菜の花を栽培していく中で土壌から塩分を抜くことができるかも知れないと考えたわけです。
通常、塩害農地の土や水を入れ替えて元に戻すには、膨大な費用と時間がかかります。このプロジェクトでは、被災農家が「農業ができない」期間をなくし、収入を得ながら農地の回復を図ることを目指しています。
──具体的にはどのように進行していくのでしょう。
私達は宮城県・仙台市と共同で、津波の被害にあった農地の状態を3月から調べ始めました。現在は県内360カ所の農地からサンプリングした土壌の分析を進めているところです。
数カ月後には調査結果がすべて出るでしょう。結果が出れば、農地ごとの塩の濃度に合った菜の花の品種を選ぶなど、きめ細かい対応ができます。
今年の9月頃には、津波で破壊的な被害を受けた仙台市若林区の水田約0.4ヘクタールに菜の花の種をまく予定です。それまでには、農地につまれた瓦礫や作土を覆うヘドロを取り除く作業も必要ですが、大勢のボランティアの協力を得て進行中です。
被災地の復興を願う人々が力を合わせることで、来年の春には一面の菜の花が咲くでしょう。私たちは、このプロジェクトを長期間継続することで農地の回復をはかり、将来のまちづくりにつなげていきたいと考えています。
──菜の花による塩害対策は、これまでにもあったのですか?
いくつかの国で研究は行われています。しかし、菜の花の栽培でどれだけ土壌の塩分を抜くことができるかを実際の災害で試したデータはありません。「津波塩害農地復興のための菜の花プロジェクト」の試みは、東日本大震災の復興だけでなく、世界各地の塩害対策にも役立つはずです。
また、収穫した菜の花からはナタネ油が採れます。ナタネ油はカーボンニュートラルなバイオディーゼル燃料としても利用されています。
私たちはこのプロジェクトで、菜種油からバイディーゼル燃料を生産して、エコエネルギーの創出につなげていく予定です。
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