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Highlighting JAPAN

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特集日本のテーマパークを支えるハードとソフト

スーパータンク(仮訳)

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テーマパークにある数々の夢を紡ぐ装置を裏側から支えているのは、日本の優れた技術力だ。水族館水槽用の巨大なアクリルパネルを製造している中小企業日プラを、山田真記がレポートする。

沖縄県を代表する観光スポットのひとつ「沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館」は、77の水槽に700種以上、20,000匹を越す海洋生物を展示する世界最大級の水族館だ。中でも目玉は黒潮の流れの中に生きる大型のサメやエイ類、回遊魚などを展示している水槽「黒潮の海」だ。この水槽の巨大な窓は、高さ8.2メートル、幅22.5メートル、厚さ60センチメートルで、7,500トンの水量をせき止めている。この水槽の窓に使われている巨大パネルに、世界最高水準の日本の技術が詰まっているのである。

このパネルを開発したのは、香川県高松市郊外に本社を置く日プラ株式会社だ。同社が開発する水族館用の巨大パネルは、つなぎめが見えないことが大きな特長になっている。

「世界最大の魚類であるジンベエザメの全身を1枚の大きなパネルを通してお客さんに見てもらいたかったんですよ。途中に柱があったら、ジンベエザメがたびたび切れて見えてしまうでしょう」と話すのは同社社長の敷山哲洋氏だ。

同社が開発するパネルは、厚さ3~4センチほどのアクリル板を接着剤で何枚も貼り合わせて作られる。黒潮の海の場合、厚さ4センチのアクリル板15枚を重ねて貼りあわせている。高さ8.5メートル、幅3.5メートルのこのようなパネル7枚を接着して、つなぎ目のない一枚のパネルをつくっているのだ。

「アクリル板は厚さが3~4センチのものが品質的に一番安定しているんです。他社さんは50センチなり60センチの厚さのパネルを1枚のアクリル板で作っている。これだと、水圧などによる経年劣化でアクリルパネルに歪みが生じる恐れがあるのです。当社のアクリルパネルは、こうした経年劣化がほとんどありません」と敷山氏は胸を張る。

高品質のアクリル板を積層することで、アクリルパネルの強度が得られる。しかし、アクリル板を何枚も貼り合わせる際、接着層の厚さが不均一になると、正面からの透明度が落ちる、という難点がある。この問題を同社は、独自のアクリル板接着技術と張り合わせたアクリル板の熱処理技術でクリア、強度と透明度を兼ね備えた巨大アクリルパネルを完成させた。

「技術もさることながら、重要なのはむしろ発想ですよ。何枚ものアクリル板を張り合わせるという発想自体が他社さんにはなかったということです」と敷山氏は言う。

見ての通り

同社のアクリルパネルの製造技術は、実に世界50カ国近くの水族館で発揮されている。最近の例で言うと、2008年にオープンしたアラブ首長国連邦のザ・ドバイ・モールにある水族館に同社のアクリルパネルが採用された。このパネルは、幅32.88メートル、高さ8.3メートルと世界一の大きさを誇り、オープンした年に、ギネスブックに登録された。また、現在、海外で建設中の水族館で、幅約40メートルのパネルが使用されることが決まっており、予定通り来年12月に完成すれば自らギネス更新認定を受けることになるだろう。「特に海外に営業をかけているわけではないんですがね。世界の水族館業界に口コミで当社の技術が広まったんでしょう」と敷山氏は話す。

敷山氏は、今後、同社が新たに開発した積層技術を活かしたアクリルパネルを高速道路の防音壁に利用してみたい、と考えている。日プラが開発したアクリルパネルは遮音性が高く、万が一、自動車が激突してアクリル板が割れても、周囲に破片が飛び散る心配はない。

世界の水族館を席捲した独自の技術を生かした日プラの新製品の“芽”は、他にもまだまだ見つけられそうだ。

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