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Highlighting JAPAN

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やまとなでしこ

アクセシビリティのパイオニア(仮訳)

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14歳で視力を失った浅川智恵子氏は1985年に日本IBMに入社以来、視覚障がい者を含め、誰もがコンピュータやインターネット上の情報に自由にアクセスすることを実現するため、「アクセシビリティ技術」の開発に携わっている。2009年には、世界中で約40万人が働くIBMで、現役では75名ほどしかいない技術者の最高職「フェロー」に、日本人女性として初めて選ばれた。ジャパンジャーナルの澤地治が浅川氏に話を聞いた。

──浅川さんは、何故ITの道に進まれたのでしょうか。

浅川智恵子氏:大学生の頃、偶然、コンピュータを使った仕事に視覚障がい者もチャレンジし始めていることを知りました。当時、コンピュータはまだ一般に普及してなく、コンピュータで何をするかもまったくわかりませんでした。でも、何もわからないことをやってみるのも面白いかなと思い、好奇心から情報処理の勉強を始めました。

大型コンピュータの仕組みやコンピュータプログラミングなどを学びましたが、最初は本当に大変でした。しかし、視覚障がい者にとって、将来の選択肢はそれほど多くはありません。少ない選択肢の中から選んだことは、どんなことであれ、最後までやり遂げようと決めていたのです。

──浅川さんがこれまで開発された代表的なアクセシビリティ技術をお教え下さい。

1997年に日本で製品化された、Webページの文字を読み上げるソフトウェア「IBM Home Page Reader」は、視覚障がい者でも簡単にインターネットの情報を得ることを可能にしました。その後、11カ国語に対応し、現在は世界中にその技術が普及しています。当時、様々な国の人から、「本当に素晴らしいソフトウェアを開発してくれてありがとう」と感謝の言葉を頂きました。このソフトウェアのお陰で、私自身も世界中に仲間が増えました。

──現在、浅川さんの研究チームは、Social Accessibility Project を行っていますが、これはどのようなプロジェクトでしょうか。

最近のWebページは画像情報が多いため、視覚障がい者は画像に関する文字情報がなければ、そのWebページの情報を得ることが難しくなっています。Social Accessibility Projectは、Webページのアクセシビリティ向上のために、インターネット上で一般のユーザー(晴眼者)と視覚障がいを持つユーザーが協働して、視覚障がいのあるユーザーの求めに応じて画像が何を示しているのかといった情報を付箋をつけるように付与するといった、Webページのアクセシビリティ向上を支援するソーシャル・ネットワーク・サイトです。

このプロジェクトの原点は、1980年代後半に、私が日本IBMに入社して初めての仕事として行った「てんやく広場」というプロジェクトにあります。このプロジェクトで、私はパソコンに文章を打ち込むと、それが点字に変換され、簡単にプリントアウトできるというソフトウェアを開発しました。

このソフトウェアを使いボランティアが文章を点訳、その点訳されたデータを、パソコン通信を通して皆で共有するのです。当時は、読みたい文章は個人で点訳をしなければなりませんでしたし、ボランティアの方が点訳してくださったものを別の図書館でタイムリーに、しかも同時に閲覧することは不可能でした。しかし、これによって、皆で問題を解決し、かつ、情報を共有できるようになったのです。これは、今で言う「クラウドソーシング(集合知)」の先駆けと言えると思います。

──福祉ではなく、ビジネスとして、アクセシビリティ技術は、どのような可能性があるのでしょうか。

WHO(世界保健機関)の統計によれば、現在、世界中に障がい者約10億人、高齢者が約5億人、非識字者が約7億人以上いると推定されています。これは世界人口の約3分の1に相当します。また、携帯電話は、契約台数ベースで世界人口の半分以上に普及しています。社会の情報化が進む中、情報へのアクセシビリティ向上は、もはや特別な人への配慮という次元を越え、あらゆるサービスやビジネスの成功を左右する、重要な要素であるといえるでしょう。ITが人に適応し、誰もが等しく情報へアクセスし、活用することを実現するために、ハード製品、ソフト製品、ウェブコンテンツの作り手とそれらを活用するユーザーの両者を支援するアクセシビリティ技術の研究開発は重要になってくると考えられます。

例えば、NTTドコモの携帯端末「らくらくホン」は、高齢者はもちろん、視覚障害者もストレスなく使うことができます。これは、障がい者と高齢者を支援することがビジネスにつながった好例と言えます。

──ITを活用することで、今後社会にどのような貢献ができるとお考えですか。

現在、東京大学およびNHK放送技術研究所と共同で、「高齢者クラウド」プロジェクトと呼ばれる、超高齢社会においてシニア層の社会参加と就労を支援するICT基盤の研究を行っています。例えば、高齢者が近隣の子育てをしている親を助ける、あるいは、子育てをしている親が、近隣の一人暮らしの高齢者を助けるといった、社会的なニーズに対応するようなシニア層の社会参加を、ネットワーキングや情報共有の仕組みを生かして実現する、というようなものです。

私自身も二人の子どもがまだ小さく、非常に手がかかったとき、近所で誰か助けてくれる人はいないかとしばしば思っていました。この研究プロジェクトでは、ITによって情報をシェアすることで、そうしたニーズへの対応を可能にしたいと考えています。誰でも情報にアクセス出来るようになること、言い換えるなら「情報の民主化」によって、より良い社会が実現出来るのではないか、と考えています。

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