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特集未来をつくる科学技術

新しいバイオディーゼル合成方法の開発(仮訳)

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JST(科学技術振興機構)とJICA(国際協力機構)が共同で実施するSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力)は、日本と途上国の研究者による共同技術開発を促進するためのプログラムで、現在世界33カ国で60プロジェクトが進行中だ。北九州市立大学は、タイのチュラロンコン大学などと共同で、このSATREPSを介した新バイオディーゼル燃料の合成法の研究開発を進めている。松原敏雄がレポートする。

SATREPSの中のプロジェクトの一つである「新バイオディーゼルの合成法の開発」は、2010年から始まった、北九州市立大学、北九州産業学術振興機構、北九州国際技術協力協会とタイのチュラロンコン大学の4年間の共同プロジェクトだ。

「本格的な共同開発を始めたのは2011年度からです。この技術の開発者であり本共同事業のdeputy leaderである藤元薫教授(元、名誉教授)のもとで、我々が基礎研究を続けていたこと、そして以前から懇意にしていたタイのチュラロンコン大学からも新しいバイオディーゼルを作りたいという要望があったことが、SATREPSを活用するきっかけとなりました。タイをはじめとする東南アジアには、植物油の取れるパームやココナッツなどが大量に生えています。その豊富な植物資源が燃料として活用できれば、環境問題にとって大きな前進となるからです」共同開発の指揮を取る北九州市立大学の朝見賢二教授はこう話す。

 現在、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出を削減するために、大気中のCO2を増加させない「カーボンニュートラル」なエネルギーであるバイオマスエネルギーの研究が世界各国で進んでいる。バイオマスエネルギーの一つ、バイオディーゼルは、植物油、動物油脂、廃食用油を原料として作られる。

 一般的にバイオディーゼルの製造方法には、「FAME」と呼ばれる脂肪酸メチルエステルを合成する方法と「BHD」と呼ばれる炭化水素を合成する方法がある。しかし、これらのバイオディーゼルの合成にはいまだ課題もある。

 FAMEは原料となる油脂にメタノール等を加えて合成される。小規模なプラントでも製造できる一般的な方法だが、製造時には産業廃棄物となるグリセリン等が発生する。また、合成された脂肪酸メチルエステルは燃料としての純度が低いうえに20℃以下で固化してしまう。そのため、燃料として使う場合、固化しないように、10〜15%の割合で軽油に混ぜて利用しなければならない。

 一方、BHDは、大量の水素を使って油脂を高圧化で処理することよって合成される。合成された炭化水素は軽油と同成分のためそのまま燃料として使用できるが、大規模な設備が必要となるので、現状では石油精製プラントでしか合成できない。

 SATREPSで朝見教授らが進めている研究は、小規模のプラントで、100%燃料として使用できる新しいバイオディーゼルの合成技術を確立し、4年間のうちに商用として実用化できるレベルとすることを目指している。

 朝見教授は、「我々の新しい方法では、メタノールのような副原料は一切使いません。おおまかに言えば、BHDと同じ炭化水素を、固体触媒を用いて合成します。原料はパームをはじめとする植物油脂、廃食用油、食肉加工場で廃棄物となる動物油脂も使用できます。副産物として炭化水素ガスが数%発生しますが、それは製造プラントの熱源として使用する予定です」と説明する。

 新しいバイオディーゼルの合成法は、まず、活性炭やシリカの表面に酸化マグネシウムをコーティングし、1.2mm程度の粒径状の固体触媒を作る。その固体触媒を反応器に充填し、攪拌しながら400〜430℃まで加熱する。そこに原料となる油脂を投入すると、触媒反応が起きて油脂の分子が分解され、気化したガスがパイプを通って別容器へと排出されていく。それを冷やせば、新バイオディーゼルである炭化水素が合成できる、というものだ。この新しい製造方法では、プラントの製造コストも運用コストもさほどかからない。この方法で生み出された炭化水素によるエンジンテストもすでに行われ、何ら問題なく燃焼することが実証されているという。

 今回のプロジェクトのキックオフ・ミーティングは、2011年5月にタイで行われた。8月から10月にかけてタイのチュラロンコン大学から7名の若い研究者が交代で北九州市立大学を訪れ、それぞれ1カ月ほど滞在して実験技術を学んでいる。「彼らはすでに基本的知識を身に付けていましたが実験に関わるのは初めてで、非常に熱心に取り組んでいました。研究に対する熱意が、ひしひしと伝わってきましたよ」と朝見教授は語る。

 今後の課題は、触媒の能力をさらに高めること、そしてもっと効率のいい反応方式を開発することの2点だという。「現在、合成できる炭化水素の量は原料となる油脂の60%程度ですが、両大学の国際協力を通して研究を積極的に進めることで、理論値に近い80%まで上げることを目指しています」

 固体触媒に用いる活性炭も、天然素材のヤシ殻活性炭も有力な候補としてその利用を視野に入れている。さらに今後は、植物油に変換する工程を省いてパームやココナッツそのものを反応器に直接投入して炭化水素を合成できるかも検証していくという。 新バイオディーゼル合成の技術確立に向け、2012年にはパイロットプラントの建設がタイで開始される予定だ。

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