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“440年間の常識”に挑む新世界地図(仮訳)

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いつも見ている世界地図と同様に長方形にきちんと収まっているけれど、よく見ると大陸の形と向きがちょっと変わっている…。実はこれがオーサグラフ(株)代表の鳴川肇氏が作成した画期的な新世界地図「オーサグラフ・ワールド・マップ」だ。新しい地図を山田真記が紹介する。

現在、私たちが日常的に目にする最もスタンダードな世界地図はメルカトル図法というものだ。これは1569年、フランドル(現ベルギー)出身の地理学者ゲラルドゥス・メルカトルが発表した世界地図で、中世ヨーロッパの大航海時代の道しるべとして重要な役割を果たしていた。緯度と経度を直行させ、球体である地球を四角い平面に余過分なく描いたこの世界地図は当時としては画期的なもので、以来440年以上に渡って世界中の人々に親しまれてきている。しかし「メルカトル図法も完璧な図法ではない」と鳴川肇氏は指摘する。

「メルカトル図法では、緯度が高くなるほど大陸の面積が拡大され形が歪むというデメリットがあります。これは地球の南北端に行けば行くほど大陸を引き伸ばさないと平面に描くことができないからです。

ですから、メルカトル図法で見ると、南極大陸やグリーンランドなどは、実際の面積よりはるかに大きく描かれてしまうのです」

こうした欠点を補うべく、これまでに様々な世界地図が模索されてきた。最新のものでは、1946年に米国出身の建築家バックミンスター・フラーが発表したダイマキシオン・マップという世界地図だ。この世界地図では、歪みが少なく、大陸の形を極力正しく表示するという利点がある一方、形がギザギザの地図であるため、海が分断されてしまう。

そもそも球体の表面を平面に完璧に描くことは数学的に不可能だ。しかし鳴川氏は、これまでになかった発想によって、歪みを可能な限り少なくし、なおかつ長方形の平面に収めることのできる地図が作れるのではないか、と考えた。

「オーサグラフ・マップの基本的な製作過程は、まず地球の表面積を96等分して、面積比を保ちながらこれを膨らんだ正四面体に変換し、さらに同じように面積比を保ちながら正四面体の面を平らにして、最後に長方形に切り開くというものです。何回も地球の模型を作っては、はさみで切り開き、失敗しては捨て…を繰り返しました」と鳴川氏は製作過程を振り返る。地図の作成に当たっては、パソコンはほとんど使わず、もっぱら関数電卓を多用して、地道に立体的幾何学の面積や角度を計算した。また、球体から平面に描き写す方法を確立する過程で、立方体や正十二面体など様々な立体に描き写す手法を試みた。こうして7年もの歳月をかけて完成させたのが新世界地図オーサグラフ・マップだ。

オーサグラフ・マップ完成後、この画期的な新世界地図に強い関心を寄せたのは、日本人宇宙飛行士の毛利衛氏だった。オーサグラフ・マップに描かれた地球が上も下もないという観点で毛利氏がスペースシャトルから見た地球とよく似ていたからだ。2011年6月には、毛利氏が館長を務める日本科学未来館の「つながり」プロジェクトにおいて、メルカトル・マップにかわる“世界地図の新スタンダード”としてオーサグラフ・マップが採用された。また、毛利氏の推薦によって、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)より、全国の小・中・高等学校にオーサグラフ・マップが配布された。さらに2015年には、高校の地理の教科書にオーサグラフ・マップが掲載される予定だ。

「オーサグラフ・マップは、航路図のほかオゾンホールの研究や油田開発など、極地地域を中心とした地図として活用することが出来ます。一方、メルカトル・マップは緯度、経度がまっすぐ描かれているので、ローカルタイムゾーンを表現するのには適しています。今後は海外の展覧会や学生等若い世代への告知を行い、少しずつオーサグラフ・マップの知名度を高めて行きたい。2つの地図をうまく使い分けられるようにしていきたいですね」と鳴川氏は言う。

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