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Highlighting JAPAN

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特集世界に広げる「ライフ・イノベーション」

医療を支えるものづくり(仮訳)

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日本のものづくりの技術は、医療器具にも生かされ、海外からも注目されている。そうした医療器具を「ものづくり日本大賞」の受賞製品から、山田真記が紹介する。

超未熟児用人工呼吸器

社員数35名の株式会社メトラン(埼玉県川口市)は、超未熟児の命を守る人工呼吸器の開発を行っている。

同社社長はベトナム出身のトラン・ゴック・フック氏だ。大学留学のためにフック氏は1968年に来日、大学卒業後、日本の医療機器メーカーで経験を積み、1984年にメトランを創業し、未熟児(2,500g以下の新生児)用の人工呼吸器の研究・開発を始めた。

従来の人工呼吸器は、口や鼻からチューブを入れ、圧力をかけて肺の中に空気を送り込むという方式が採られてきた。しかしこの方法だと、肺が発達していない未熟児の場合、圧力によって気管支や肺が傷つき、最悪の場合、死に至る。そこでフック氏は、圧力ではなく振動により酸素を肺に届けるという方法に着目した。

「当社が開発した高頻度振動換気(HFO)方式の人工呼吸器は、毎分900回の振動によって酸素を肺胞まで届けることができます。この方式で酸素を届ければ、気道内圧変動がほとんどなく、気管支や肺の損傷を最小限に抑えることができるのです」とフック氏は説明する。

「ハミング」と名付けられたこの人工呼吸器は、現在、国内の新生児集中治療室の約9割で使用されており、国内累計の出荷台数はおよそ1,400台に達しており、海外での評価も高い。ハミングは、現在までに世界12カ国に200台以上輸出されている。

「当社は現在、大手の医療機器メーカーと提携してメンテナンスや営業のグローバルな対応を進めているところです」とフック氏は話す。「より多くの国々にハミングを普及させて、新生児医療に役立ててもらいたいと考えています」

光で固まる医療用固定剤

従業員数約440名のアルケア株式会社(東京都墨田区)は、太陽光や蛍光灯の光によって硬化する医療用固定材「オプティキュアスプリント」を世界で初めて開発した。

骨折、捻挫、脱臼を治療する際に、患部の安静・安定維持のためには、通常、石膏ギプスや水硬化性キャストなどの固定材が使われている。しかし、こうした固定材を硬化させるには、水が必要であった。また、硬化するまでの時間も30分以上かかる。しかし、「光硬化性ウレタンアクリレートモノマー」を使ったオプティキュアスプリントは、太陽光や蛍光灯などの可視光を当てるだけで、硬化させることが出来るのだ。しかも、硬化するまでに、太陽光であれば数秒ほど、LEDや蛍光灯の強い光を近距離から当てれば20-30秒しかかからない。つまり、従来の固定材では不可能であった、硬化する時間や硬化する場所のコントロールを自在に出来る。

「水が不要のため、手術室、診療室、病棟といった、清潔に維持したい場所、出来る限り水の使用を避けたい場所でも利用可能です」と同社の研究開発本部長の岩嵜徹治氏は言う。「また、水の準備が困難な災害時の現場で使用することも出来ます」

実際、東日本大震災において、オプティキュアスプリントは、その威力を発揮した。大震災の被災地では長期間、水の入手が困難であったが、医師は、医療用照明器で骨折や捻挫をした被災者の処置を行うことが出来た。また、患部が濡れることによる不快感も避けられるので、患者にも好評であった。

オプティキュアスプリントの値段は従来の固定材に比べやや高いが、これまでのように水を用意したり、処置した後に片付けたりといった作業が全く必要なくなるので、人件費を含めたトータルのコストは割安になる。

「オプティキュアスプリントは骨折の処置だけではなく、高齢者やアスリートのケガの予防や、リハビリテーションにも利用出来ます」と岩嵜氏は言う。「今後は、海外の展示会や学会発表を通して、海外の医療関係者にもアピールしていきたいです」

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