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連載|科学・技術

ラマン分光法によるプラスチックの選別(仮訳)

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種類が多彩で、これまで選別することの難しかった廃プラスチック。この非常に困難な課題を克服し、資源の有効利用をさらに進めるリサイクル技術を、佐々木節が報告する。

日本では各種リサイクル法の施行により、使われなくなった家電や自動車はメーカーが責任を持って回収し、ほとんどの部品を資源として再利用している。そうしたなか、ひとつの課題となっているのが廃プラスチックの扱いである。廃プラスチックは、自動車バンパーのような大きな部品を除けば、大半がABS樹脂やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)など、さまざまな種類のプラスチック片が入り混じった状態でリサイクル事業者へと送られてくる。ところが、こうした混合プラスチックからは、家電などに使う品質の高い部品を再生することは不可能だ。梱包用クッション材などの原料、あるいは焼却の際に熱エネルギーを回収・利用するサーマルリサイクルの燃料にしか使えなかったのだ。

 これまでも手作業や近赤外線センサーなどを使って廃プラスチックを種類ごとに選別する取り組みは行われてきたが、常に障害となっていたのがコストと選別精度の問題である。リサイクル事業者は、大量の廃プラスチックをスピーディかつ高い精度で選別できなければ、メーカーに再生プラスチックの原料として販売できないからである。

「今から5年ほど前になりますが、廃プラスチックの選別技術に関して、近畿大学・産業理工学部の河済博文教授に相談したのですよ。そのとき言われたのは『商業ベースに乗せるならラマン分光方式しかないですよ』ということ。そこから世界で類を見ない、まったく新しい選別システムの開発がスタートしたのです」

こう語るのは大阪府と福岡県でリサイクル事業を営む株式会社サイムの代表取締役、土田保雄氏である。

サイムが廃プラスチックの選別に導入したラマン分光法とは、物質に光を当てると、その分子のもつ固有の振動により、受けた光の散乱が物質によって異なってくることを利用したもの。プラスチック片にレーザーを照射し、そのラマンスペクトルを検出することで種類を識別する。いちばんの特長は識別精度がきわめて高いこと。対象に触れることなく分子構造を判別できるので、洗浄後の水に濡れたプラスチック片でも問題ない上に、光の吸収を測定する近赤外線方式とは違い、色の付いたプラスチックでも正確に種類を特定できる。さらにレーザー照射から識別までにかかる時間はわずか1000分の3秒。これは近赤外線方式に比べると100分の1という素早さなのである。

昨年10月から本格稼働の始まったサイムの選別システムでは、分速100mで動くベルトコンベア上を破砕された様々な材質のプラスチック片が途切れることなく流れていく。それらのプラスチック片は、5㎜間隔で50個並べられたレーザー光を使ったセンサーが識別し、その結果に応じてベルトコンベアの末端でエアガンから圧縮空気が噴射され、それぞれ材質別の回収容器の中へと落とされていく。

「近頃は原油価格が高騰していることもあり、再生プラスチックの原料は月産300トンを越えれば十分採算ベースに乗せることができます。現在、われわれの大阪事業所で出荷している量は毎月約500トン。これはラマン分光方式でなければ、とうてい実現できなかった数字です」と土田氏は言う。

こうして家電メーカーなどに販売された再生プラスチックの原料は、再び形を変え、新しいテレビや冷蔵庫、洗濯機などの部品に生まれ変わっている。これまでCSR(企業の社会的責任)の色合いが濃かった廃プラスチックの再利用だが、ラマン分光方式による選別技術が実用化されたことで、今後は大きく様変わりしていく可能性がある。環境対策や資源の有効利用だけではなく、コストの面からもメーカーには大きな魅力があるからだ。また、サイムの開発した選別システムは、プラスチックばかりでなく、食品や医療業界といった高い安全性が求められる分野での検査や選別などにも応用が可能。リサイクル業界だけでなく、世界のさまざまな分野の企業からも大きな注目が集まっている。

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