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Highlighting JAPAN

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連載|日本の伝統を受け継ぐ外国人

紙と鋏で笑顔を切り出す(仮訳)

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鈴木エリザベータさんは、1972年に、日本人の夫と結婚するために来日。日本で出会った紙切りの魅力にとりつかれ、師匠の指導の元、彼女は芸に磨きをかけ、紙切り芸人の中でユニークな人物の一人となった。今、世界中からの駐在員などに芸を披露しているエリザベータさんに、松原敏雄がインタビューした。

「紙切り」は日本独自のパフォーマンスアートで、下絵もない一枚の紙から鋏を使って様々な造形を数分にも満たない短時間で切り出していく。その多くは寄席と呼ばれる、滑稽な芸を楽しむ下町の劇場の芸として披露され、紙を切りながら話し、観客を笑わせ、観客からのリクエストにも応える。そうした紙切り芸を、音楽と踊り、多言語を使って演じ、評判を集めているスイス人女性がいる。イタリアで出会った日本人の夫と結婚するため1972年に来日、今年で日本での結婚生活40年を迎える鈴木エリザベータさんだ。

「紙切りは腕とアイデアがものをいう一発勝負で、仕上がりも毎回すべて違います。それが紙切りの大きな魅力ですね」とエリザベータさんは言う。

元々スイスにも紙をカッターで切って造形を作り出す切り絵の文化があり、エリザベータさんは紙で何かを表現することが大好きであった。来日して最初に興味を持ったのが折り紙で、3年間にわたってレッスンを受けた。続いて、濡らした和紙をちぎって糊と楊枝で形を作っていく「ちぎり絵」にも没頭し、これは5年間のレッスンを受けた。

そして、次に夢中になったのが紙切りだった。夫の友人である紙切り芸人の師匠に、エリザベータさんは教えを請いた。すると、「この技術はお金で買うことはできない。だから無料でいい。そのかわり、一生続けてください」と、師匠は答えた。

エリザベータさんは紙切りを教えてもらうお礼として、外国で紙切り芸を披露することもあった師匠にイタリア語と英語を教えた。

エリザベートさんは、師匠の紙切りの見本を真似て切りながら覚える方法に四苦八苦しながら練習を重ねた。それと同時に、当初から、動物や天使など自分ならではのオリジナルの作品づくりにもこだわった。そんな精進ぶりを認めて師匠が彼女に芸名「林家今寿」を授与したのが、習い始めて7年後の1987年のことである。

それ以降、彼女は師匠と同じステージに立って芸を披露するようになった。ステージに立って間もなく、スイスらしい民族衣装を着て、音楽に合わせて陽気に身体を動かしながら紙を切る独自のスタイルを作り上げた。

「今もステージに出る前は緊張しますよ。そんな時は“お客さん大好き! 一緒に遊びましょう”って気合を入れるの。そうすればもう大丈夫。お客さんが喜んでくれることが、紙切りのなによりの醍醐味です」とエリザベータさんは言う。

大使館でのパーティや駐在員の婦人会、国際的な企業のレセプションパーティ、結婚式など、エリザベータさんの活躍の場は幅広い。海外で紙切りを披露することも少なくない。ちなみに、彼女はドイツ語、イタリア語、英語、フランス語、日本語の5カ国語を使いこなす。紙切り芸を様々な国の人々に披露するうえで、この語学力も大きな支えとなっている。外国人もその芸に誰もが一様に驚き、最後は例外なく全員が満面の笑顔で拍手を送ってくれるという。

「私は今日を生きているの。だから明日のことも昨日のことも考えないで、毎日を夢いっぱいに生きていますよ」とエリザベータさんは言う。

エリザベータさんの紙切り芸は、そんな言葉のように夢あふれたハッピーなものだった。

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