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Highlighting JAPAN

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連載|やまとなでしこ

21世紀アートの媒介者(仮訳)

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キュレーターは、展覧会を企画し、展示品を集め、展示品の展示の順番や方法を決める役割を担う。つまり、展覧会はキュレーターによる一つの作品と言っても過言ではない。東京の六本木にある森美術館のチーフキュレーターの片岡真実氏は、日本だけではなく、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど、世界各国で現代美術展のキュレーションを手がける。11月11日まで韓国で開催されている光州ビエンナーレでも、アジアの女性6名が務める共同アーティステック・ディレクターの一人に選ばれている。ジャパンジャーナルの澤地治が片岡氏に話を聞いた。

──芸術の世界にあって、アーティストという道を選択しなかったのはなぜでしょうか。

片岡真実氏:子どもの頃から母親が家で画集や絵本を見せてくれていたこともあり、絵を見ることは好きでした。中学校、高校と独学で油絵を描いていましたが、中学校から大学生までは、それよりもハンドボールに熱中していました。美術に対する関心から、大学は美術科に入学しましたが、アーティストになろうとは思いませんでした。大学生の時、陶芸を専攻していましたが、粘土や釉薬という素材や焼成の過程に対して100%の自分をコミットする必要を痛感しました。その時、自分は芸術作品を作るために、そこまでの準備ができていないと思ったのです。

──どのようにキュレーターを志すようになったのでしょうか。

大学生の時に、アメリカのペンシルバニア州に留学して美術を勉強しました。休みの時に、頻繁に訪れたニューヨークの美術館やギャラリーで、ジャスパー・ジョーンズやアンディ・ウォーホルなどの20世紀のアメリカ現代美術と出会ったのです。そこで、現代美術は、現実に対する何らかの提言を行ったり、あるいは、全く異なる価値の提示によって見る人の意識を覚醒するなど社会を変える力があることを知りました。自分がアーティストとなって自己表現するよりも、自分が現代美術と社会をつなぐ媒介となって、人間の意識を変える試みをすることに興味を持つようになったのです。

──まず、1997年から東京の新宿にある複合施設「東京オペラシティ」のアートギャラリーのキュレーターに就きましたね。

東京オペラシティ開館前の1992年から、シンクタンクでアートギャラリーの開館の準備に携わっていました。国際的なスタンダードから見ても遜色ない、日本の現代芸術を発信する場所、あるいは国際的な美術の動向を日本に紹介する場が必要だという強い使命感がありました。

東京オペラシティの建設には数社の大企業が関わっていました。当時、私はまだ20代後半で、関係者の中で唯一の女性でしたが、自分より非常に年上の男性を相手に東京にあるべき現代美術のための空間に関する議論を行いました。その結果が、キュレーターへの道につながったのだと思います。

──2003年に森美術館のキュレーターに就きましたが、森美術館のキュレーションはどのような考えのもとで行っているのでしょうか。

森美術館はアジアの現代美術の「ハブ」を意識しながら、日本やアジアのアーティストを中心に国際的な展覧会を開催しています。展覧会は私の探求心の表れとも言えます。企画ごとに自分の疑問や課題に対して、何らかの解答を得ようとしているのです。例えば、日本のアーティストを国際的に、どのように発信していけるのかというのは、私の大きな課題の一つです。日本の魅力はその多面性にあると思います。伝統的な美術もあれば、アニメや最新の技術もある。今、美術家でそうした日本の多面性を、会田誠という作家の実践と重ねあわせて見ています。会田誠は日本では圧倒的な人気がありますが、海外では、奈良美智や村上隆ほど、さほど評価されていません。11月17日から森美術館で「会田誠展:天才でごめんなさい」を開催しますが、これは国際性という概念へのチャレンジでもあります。

──息抜きは何でしょうか。

料理です。料理はキュレーションに似ていますね。意外な食材同士の組み合わせで美味しい料理が出来上がったりする面白さが料理にもあります。日本にいる時は、夕食はほとんど自分で料理をしています。

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