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Highlighting JAPAN

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特集冬を愉しむ

四季を通じてエコな建物(仮訳)

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雪の多い地域では、毎年、除雪や融雪のためのコストやエネルギー負担が大きい。雪国に限らず、冬には家庭内やオフィス内でも、暖房によるエネルギーの消費が増加する。エコへの取り組みが進む中、寒さや雪をエネルギー源として活用し、エネルギーの消費を低くする技術が広がっている。山田真記とジャパンジャーナルの澤地治が報告する。

雪をエネルギーに変える

雪国では、除雪は大きな問題だ。除雪のためのコスト、除雪した雪を捨てる場所の確保に地域は頭を痛めている。しかし、こうした雪をエネルギー源として活用する動きが広がっている。

主に普及しているのは、冬の間に降った雪や、冷たい外気を使った氷を夏まで保管し、その冷気や冷水を、農作物の貯蔵や、冷房に利用する方法だ。例えば、北海道の中央部にある美唄市の玄米の保管施設は、6,000トンの玄米を3,600トンの雪を使って貯蔵している。貯蔵庫内の温度は5度に保たれ、味の劣化を防いでいる。また、北海道の空の玄関口の新千歳空港では、空港の一角にある縦100m、横200mの広さの敷地に雪を貯蔵している。世界最大級と言われるこの雪貯蔵施設から流れる雪解け水を夏の空港ビルの冷房として利用しているのだ。これによりビル全体で使うエネルギーの2〜3割を賄っているという。

大手飲料メーカーのサントリーが2008年に竣工した鳥取県江府町の「奥大山ブナの森工場」(以下、「奥大山工場」)(敷地面積約29万平方メートル)では、雪を貯める「雪室」が設置されている。ここでは、工場の生産ラインで雪が利用されている点が特徴だ。

「奥大山工場」は、日本の南西部にある中国地方の最高峰の大山(1729m)の麓に位置し、敷地内で汲み上げられた水を使ってミネラルウォーターを生産している。広大なブナの森に生い茂るこの地域は、中国地方有数の豪雪地帯で、冬には1〜2mの雪が積もる。

「奥大山工場」の雪室には最大、約250トンの雪を貯めることが可能だ。この地域では、12月頃から本格的に雪が降り始める。敷地内に積もった雪をショベルカーで集め、雪室へと運ぶ。通常、1月には雪室は雪で一杯となる。

冬はこの雪室の雪の溶けた水を使って冷水をつくり、ミネラルウォーターの生産設備の冷却に使用する。生産設備の冷却に使われた水は熱で水温が上昇するので、この暖かくなった水は雪室の中にあるパイプを通すことで水温を下げてから川に放流している。この水自体はまったく汚染されたものではないが、人工的に温度が高くなった水を、それよりも水温が低い川に流すことは、環境に影響を与える可能性があるからだ。

しかし、同時に、この暖かくなった水を冷却するには、1日約30トンの雪室の雪を要するため、雪の運搬にともなう燃料の消費を大幅に抑制することに成功した。2011年1月には約500トン、ダンプカーで200台分の雪を、敷地外に運搬することなく、溶かしている。

一方、夏には、雪室の雪は、工場内の冷房用の冷水として使われる。雪室内は断熱材が施されているので断熱性が高く、冬に貯めた雪が夏まで残っているのだ。

この雪室の利用により、冷房や冷却に必要な電力を抑えることで、「奥大山工場」は年間約5トンの二酸化炭素(CO2)削減に成功している。


天候に左右されないエコハウス

近年のエコ需要で、日本では、一般家庭の住宅における自然エネルギーを使った電力の創出や、電力消費の少ない冷房、暖房、家電機器等の省エネルギー製品への関心が、人々の間で大きく高まっている。

一般住宅における自然エネルギーの利用については、国や自治体の支援を受け、太陽光発電システムの普及が特に進んでいる。「太陽光発電協会」の調べによると、2012年4月時点で、国内の住宅用太陽光発電システムの累計設置件数は100万件の大台を突破したという。

しかし、太陽光発電システムの短所は、発電量が天候に左右されるということだ。雨や曇りの日は、発電量が減少するのは避けられない。

そうした中、大手住宅メーカーのパナホームは、天候に左右されない安定した自然エネルギーである地熱を利用した住宅を開発した。

「私たちは、天井や外壁、基礎まで家全体を断熱材で包み込み、自然の恵みである地熱を活用する『家まるごと断熱』を考えました。その発想の基本は、床下を地熱活用のスペースとして捉えるという点にあります」とパナホームの戸建住宅事業部チーフマネージャーの塩手誠司氏は言う。「一般の住宅のように床裏面に断熱材を設けて床下と居住空間を遮断するのではなく、地熱をダイレクトに取り入れるようになっているのです」

地熱と言っても、地球内部のマグマなどを熱源として発電する「地熱」とは異なる。「家まるごと断熱」で利用される地熱は、太陽光や外気により、温められ(冷やされ)、地中に蓄えられている熱だ。地中熱は季節や天候による温度変化の影響を受けにくく、地表面から約10m下の温度は年間を通して年間平均外気温度(東京では16度前後)近くに保たれる。

従来の住宅では床裏面に断熱材を設けていたが、「家まるごと断熱」では、床裏面に断熱材を設けずに、鉄筋コンクリート基礎の内側(基礎の立ち上がり部分)に断熱材を入れる。基礎には床下へ外気を取り入れるための吸気口があり、床下の空間は完全に密閉されているわけではない。しかし、それでも、地熱の影響により、床下の空気は外気温に比べ温度変化が少なく、夏は涼しく、冬は暖かいのだ。

そして、床下の空気を活かすのが、「エコナビ搭載換気システム」である。これは、住宅の内と外の温度差をセンサーが計測して、その温度差によって換気量を自動に制御するシステムだ。冬は、床下で暖められた外気を自動的に室内に取り入れる。夏に室内の温度が上がると、床下の冷たい空気をファンで室内に入れる。あくまで換気であり、冷房や暖房とは異なるが、このシステムにより、冷房や暖房に使うエネルギーを低減できるのだ。

このように、大がかりな設備を設置することなく、自然のエネルギーを活用して、省エネルギーを実現することができる。家族4人が住む想定で、一般的な住宅(延床面積約123㎡)と、「家まるごと断熱」と「エコナビ搭載換気システム」を採用した住宅「カサート・テラ」を同条件で比較すると、「カサート・テラ」の年間光熱費は、一般的な住宅に比べて約4分の1に抑えられる。また、CO2排出量も年間3.55tから1.40tに削減できる。実際に「カサート・テラ」に住む人からは、「広い家でも電気代を気にせずに暮らせて、意識せずとも環境に貢献できるのが嬉しい」といった声が聞かれるという。

世界的に見ても類例のない「家まるごと断熱」と「エコナビ搭載換気システム」は、2012年の「第9回 エコプロダクツ大賞」(エコプロダクツ部門)において、国土交通大臣賞を受賞するなど、優れた省エネ性能が非常に高く評価されている。


防寒必須アイテム(仮訳)

日本には、気温が下ったときに暖かく快適に過ごすために役立つ製品が数々ある。あらゆる年齢層の人に人気があり、多くの人にとって冬の時期には欠かせないアイテムを紹介する。

使い捨てカイロ

寒さが厳しくなり、手足が冷えるようになったら、いよいよカイロの出番だ!「使い捨てカイロ」は、鉄粉の酸化によって発生する熱により温まり、ビニール製の外袋から出して軽く振るだけで、すぐに暖かくなる。1970年代後半に日本で商品化されたカイロは、不織布の小袋で、中に鉄粉や塩、活性炭などが入っている。サイズにより異なるが、一般的によく使われるものは、手のひらほどの大きさのもので20時間程度、より小さいサイズのものはその半分程度の時間、心地よい暖かさが保たれる。冬の屋外作業や通勤通学時に気軽に携帯できる保温グッズとして、カイロは多くの人に愛用されている。現在、レギュラーサイズやミニサイズのほか、衣類に貼るタイプや、靴の中敷タイプ等の足元用など様々なタイプがある。日本カイロ工業会によると、2011年5月から2012年4月の一年間で、20億枚を超すカイロが日本国内で販売された。

このように便利な「使い捨てカイロ」は、海外にも広がり、それぞれの国や地域の状況に合わせた使い方で活用されている。例えば、小林製薬株式会社は、現在、中国、香港、日本、台湾、英国、米国など、世界20の国と地域で「使い捨てカイロ」を販売している。同社によると、例えば北米では、外出時にミニタイプを左右のポケットに入れて両手を暖める使い方が一般的。また、中国では、衣類に貼るタイプの人気が高く、北部では特に足用のニーズも高いそうだ。また、一方の比較的暖かい中国南部でも、暖房設備があまり充実していないことから、短い冬の期間の暖房用品の一つとして重宝されているとのことだ。


機能性肌着

冬の防寒といえば、分厚いセーターやコートを着込んで厚着をするというのがこれまでの常識であった。しかし、今、日本で多くの人が最初に考えるのは、「薄くて、軽くて、暖かい」機能性肌着を着ることである。

機能性肌着は、体から蒸発する水分を利用して発熱したり、暖められた空気を繊維の間にとどめておくことで保温性を確保するなどの機能をもつ。滑らかな肌触りの生地が身体にフィットして着心地も良好だ。製品により異なるが、暖かさだけでなく、伸縮性、吸汗速乾、静電気防止、抗菌・防臭など、他の機能を兼ね備えているものもある。

現在、アパレルメーカーや大型スーパーマーケットのプライベートブランド等、各社から、長袖、半そでなどのシャツタイプや、タイツ、子供用の肌着などの機能性肌着が販売されている。特に女性用は、色や柄のバリエーションが豊富で、洋服の中に着る下着としてだけでなく、ファッションアイテムとして楽しむこともできる。現代の機能性肌着は、従来のアウトドア等の特別な時だけの保温肌着から進化し、多くの日本人が日常生活で身につける冬の衣類のひとつになりつつある。

このような機能性肌着ブームの火付け役となったのが、2003年に株式会社ユニクロが販売を開始した「ヒートテック」だ。「ヒートテック」は、発売以来、肌触りの良さを追求するために、様々な機能の追加や向上が重ねられ、現在、男性用、女性用合わせて、10種類の機能を持つまでになるなど、さらに進化を続けている。そして、2008年からヒートテックの本格的な海外販売が開始され、同年ユニクロは、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、ソウルの5都市で、グローバルキャンペーンの一環として、道行く人にヒートテックの無料配布を行った。後日、ヒートテックを着てみた人たちからは、薄地の見た目とは裏腹のヒートテックの快適な暖かさに驚きの反響が数多く寄せられたそうだ。現在、ヒートテックは、中国、日本、ロシア、シンガポール、タイ、英国、米国など世界13の国と地域で販売されており、2012年4月から2013年3月までの世界での販売目標は、約1億3千万枚とされている。

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