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Highlighting JAPAN

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特集冬を愉しむ

冬を愉しむ(仮訳)

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日本列島は南北3000kmに伸び、東西では太平洋側と日本海側に山脈で二分されるため、気候の地域差が非常に大きい。日本は四季の変化に富んだ国であり、特に冬は、北海道や本州の東北・上信越地方を中心に、厳しい寒さに加え、大雪となることも少なくない。一方で、南にある沖縄などの南西諸島は、冬でも暖かい日が続く。富士山を除き、「日本で最も寒い町」と言われる北海道東部の陸別町の1月の平均気温は零下11.4度だが、沖縄県波照間島の1月の平均気温は19.2度と、南と北とで30度以上の温度差がある。また、陸別町は、夏には30度に達することもあり、夏と冬の寒暖差も大きい。このように、春夏秋冬の四季の移ろいと共にある日本では、その季節や地域に応じて様々な生活の知恵や文化が生まれてきた。今月号の特集記事では、厳冬を迎える日本の「冬」を紹介する。

北海道の北東には、オホーツク海が広がり、冬には海氷が形成される海として知られる。例年、1月中旬になると北海道のオホーツク海沿岸に流氷が現れ、1月下旬から2月上旬になると、オホーツク海沿岸の町まで押し寄せる。流氷の厚さは40〜50cmにもなる。

「緯度が低く、人が間近で簡単に流氷を見ることが出来るのは、世界でも北海道のオホーツク海沿岸だけでしょう」と月尾嘉男東京大学名誉教授は言う。

月尾氏は、メディア政策、システム工学を専攻とし、建築デザイン・設計分野におけるIT技術の草分け的存在である。また、地域振興や環境保護のための活動を行い、北海道や東北での地域興しのアドバイスも行っている。一方で、カヤックやクロスカントリースキーを愛好し、海の難所として知られる南米のホーン岬を航行したケープホナーでもある。

北海道の地元では、流氷はかつて、漁業を阻む「やっかいもの」と見られていたが、近年では、冬の観光の目玉となっている。例えば、1月下旬から3月下旬まで、流氷砕氷船に乗ってオホーツク海を巡るクルーズに、国内外から数多くの観光客が集まる。最近では、冬場の休業を利用して地元漁師が始めた「流氷ウォーク」も人気を集めている。

「近年日本では、このような、雪や寒さを積極的に活用するイベントが各地で開催されています。ただ、こうした観光のためだけではなく、日本人は古くから、雪や寒さを生活に役立ててきました」と月尾氏は言う。「特に、そうした知恵が顕著に現れているのが食品加工です。それらは、もともと冬の保存食として生まれましたが、現代においても受け継がれ、広く一般に食べられています」

例えば、日本酒は冬の寒さが厳しい地域に産地が多い。これは、日本酒を造る時に、寒さによって雑菌の繁殖が抑えられことで、美味しい日本酒が出来上がるからだ。また、テングサと呼ばれる海藻を原料にした保存食品「寒天」や、煮物としてしばしば食卓に上がる「凍り豆腐」は、冬に原料を凍結・乾燥させて作る日本の伝統的な食品だ。ユネスコの無形文化遺産に登録されている「小千谷縮・越後上布」は仕上げの最後に雪上で晒す「雪晒し」により発色を鮮やかにしているが、地域の春の到来を告げる風物詩になっている。

伝統工芸の製作にも、冬の寒さが欠かせないものがある。伝統的な和紙作りは、冬の冷たい水を使って行われる。また、京都や金沢の友禅染では、かつて、冬の冷たい川の水に、染色後の生地をさらし、余分な糊や染料を落とす「友禅流し」が冬の風物詩であった。

「人類は、文明の利器がない時代に、厳しい冬の環境を乗り越えるために、様々な知恵を絞ってきました。その一つが、雪や寒さといった自然の力を活用することです」と月尾氏は言う。「そうした知恵は、単なる過去の遺産ではないのです。環境の時代と言われる現代において、省エネルギーのために、日本の冬、そして雪の文化をあらためて見つめ直すことも大切だと思います」

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