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Highlighting JAPAN

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水と生きる

どこにいても飲むことができる水

日本ポリグル株式会社(仮訳)

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アシスタントが濁った緑色の液体の入ったビーカーをいくつか差し出した。日本ポリグル株式会社代表取締役会長の小田兼利氏が、「これは東京の日比谷公園で採取した水です」と自信に満ちた声で話し始める。彼は、ビーカーの一つに白味がかった薄青色の粉を少量振りかけて攪拌すると、「ビーカーの不純物は、負に帯電した相互反発力を有する粒子からなります。このため、汚れの成分が水全体に拡散してしまうのです。そこでこの反発力を取り除くPGα21Caをひとつまみ投入するのです」と説明を続ける。

小田氏が根気良く攪拌を続けると、緑色の液体の一部が透明に変わり始める。およそ一分後にはこけのような不透明の塊がビーカーの底に完全に沈殿する。小田氏はそこで、フィルターを設けた背の高いコップに中身を注ぐ。彼はそれをごくごくと飲む。

PGα21Caはポリグルタミン酸(PGA)を元に小田氏が発明した高分子凝集剤である。PGAとは細菌が起こす発酵作用によって形成されるアミノ酸の一つである。PGAは水溶性と生分解性を有するとともに食用が可能で、発酵させた大豆から作られる日本特有の食品である納豆のねばりの原因でもある。PGAを水に加えると凝集剤としての働きがある。凝集剤というのは、液体からの固体粒子分離を促進する化学物質である。これを使用すると粒子は弱く結合した集合体(フロック)となり、底に沈殿する。

「私は熊本県のある池でこの方法を用いて7,000トンもの水を一日できれいにこともあります。この物質の有効性は直接経験してみないと分からないかもしれません」と語る。

PGα21Caを利用して飲料水を作るためには、元の水は少なくとも生物が住める程度にはきれいでなければならない。小田氏は、「PGα21Caは砒素や大腸菌のような有害不純物のほとんどを除去できるという実験結果がありますが、たとえ見かけはきれいであっても、何種かの有毒物はそのまま残っている可能性があることを理解する必要があります」と忠告する。

73歳になる発明家・小田氏は、PGα21Caの利点に関する理解を広めるために、これまで40カ国以上の国々を訪問してきた。しかし彼のインスピレーションは、国内での体験、即ち1995年の阪神淡路大震災の際に水の確保に困っている人々を目の当たりにした体験から発している。小田氏は、「私はあの体験によって、どんな水も飲み水に変えられる方法、例えそれが公園の池の水であっても必要な時に飲用として信頼できる水を得る方法の研究を開始する決意を固めたのです」と語る。彼はその後、PGα21Ca開発のための実験に7年を費やした。

その成果は、シンプルだが効率が高く電気の不要な簡単設置型水質浄化装置や、バケツと攪拌用の棒、茶漉しと布切れからなるフィルターさえあればどこでも使用できるレスキューセットなどの製品に生かされてきた。

日本ポリグルは現在世界中に水質浄化支援を行っている。2004年、タイ政府の要請を受けてスマトラ沖地震の津波被災地で活動を開始し、2011年からは日本政府の援助を受けてソマリア全土の50以上の難民キャンプにおいておよそ70万人の難民の支援を行っている。一方、バングラデシュでは、ローカルの研究要員、マーケティング要員、販売要員を兼ねるパートタイムの「ポリグルレディ」を活用して地方公共団体や個人に直販することにより、商品としての成功を収めている。

日本ポリグルの設備や製品を使用するに当たって専門知識はほとんど必要なく、また直販によりわずか1ドルほどで1,000リットルもの水を処理するに十分な量のPGα21Caを供給することができる。同社は現在では、バングラデシュだけで7万人もの個人客を抱えている。

日本ポリグルは、タンザニアでは国際協力機構 (JICA) との共同事業を進めており、最近では経済産業省からの支援も受けている。その一方でインドにおいては、仏教徒が暮らす小さな村でも活動を始めた。PGα21Caが国内外に与えた功績を評価され、小田氏は、2013年10月には日経BP社主宰の第12回日本イノベーター大賞において優秀賞を受賞した。

「私が情熱に突き動かされて仕事をする姿を時々不思議に思われることがあります。しかし、他の人から認知してもらえるか否か、得られる経済的利益は大きいか否かとは無関係に、それでも取り組まなければならない課題が目の前にあるのです。私は当社のような小さな日本の企業は素晴らしい力となる可能性を秘めていると心から確信しています」と語る小田氏は、世界のどの地域からでも安全できれいな水にアクセスできる環境を築くために、今日も世界各地を駆け巡っている。

 



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