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Highlighting JAPAN

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和食

比類なき香り(仮訳)

750年に渡る醤油の歴史がヨーロッパの最上級レストランのテーブルを彩る



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醤油は日本食には欠かせぬものだ。日本では大小、1000社以上の会社が醤油を造っており、そのひとつひとつが独自の製法と味を持っている。競争の激しいこの世界で、和歌山県の歴史ある町・湯浅の小さなブランドがどうやってヨーロッパ各地の9つものミシュラン星付きレストランの厨房で使われるようになったのか?そして日本の醤油のわずか0.01%しか生産していない会社が、いかにして2006年以来、権威あるベルギーの「モンドセレクション金賞」を毎年受賞するまでになったのだろうか?

温和で落ち着いた人柄の湯浅醤油有限会社社長・新古敏朗氏は、大切なのは歴史と伝統、そしてまじめさと情熱だと話す。

日本の醤油の歴史は、様々な言い伝えがあるが、750年ほど前から始まったと湯浅地方では言われている。当時、中国を訪れた僧が、現地のひしお(発酵させて製造する調味料)の作り方を見て、それが同じ大豆を使って作る日本古来の味噌の作り方にもう少し手を加えればいいことに気づいた。帰国した僧は、湯浅近辺に居を構え、醤油を作り始め、その製法を人々にも伝えた。歴史とともにその製法は広まり、進化していった。

醤油は、大豆と小麦で作った麹と塩水を発酵・熟成させて造られる。湯浅醤油有限会社の醤油はすべて国内産の厳選素材が使われる。発酵と醸造は湯浅の地で750年かけて完成された技術を基礎とし、その基礎を支える地元の水は醤油造りに特に適すると言われるミネラルバランスを持っている。多くの醤油が食用油を搾った後の大豆を使用して造られるのに対し、湯浅醤油は丸のままの大豆を使い、煎った小麦と合わせて造る。丹波黒大豆を使って造られた醤油は、2年間に渡って熟成発酵されるが、これは大量生産される醤油の熟成期間の4倍だ。これらすべてが合わさることで、日本でも類を見ない味を生み出している。

湯浅の醤油と他の醤油との決定的な違いはその香りだ。ほのかで繊細かつ、存在感のあるかすかな甘みは味覚のすべてを完全に満たす。他にはないこの存在感がヨーロッパの料理人たちの想像力を刺激し、その料理と合わせることを思いつかせたのだ。焼き物からケーキまで、彼らが作り出す料理は通常醤油と結びつくものではないが、ヨーロッパ的な料理に少し加えられる隠し味として湯浅醤油を国際的な成功へと導いた。

しかし、会社の国際的な賞賛や海外市場の成長も新古氏の基本的な考え方を変えることはなかった。それらは彼の情熱の副産物に過ぎない。「お金のために醤油造りをしているのではない」と彼は言う。「自分が出来る限りの最高の醤油を造りたい。湯浅の醤油造りの歴史や伝統を世界に伝えるだけではなく、その歴史や伝統を湯浅の子供たちとも分かち合いたいですから。この小さな町が世界に愛される醤油の中心であることを誇りに思って成長していってほしいと思います」。

新古氏は多くの時間と手間を地元のコミュニティとの活動に費やしている。農家や学校と協力して、子供たちに醤油の香りあふれる町の歴史を教えるだけにとどまらず、大豆の栽培から始まり、自分たちの町の醤油を使ったおいしい料理を楽しむまで、醤油造りのすべての過程を経験してもらおうというのだ。それが、湯浅の未来の世代もまた醤油を造り続け、その特別なおいしさを世界の食卓に届け続けることに繋がってほしいと思っている。



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