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Highlighting JAPAN

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地方の活性化

農村と都市部を結ぶ新しいコミュニケーションのかたち

奨学米(仮訳)



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お米を通して農村と都市部の若者をつなげ、多くの人々に農業の素晴らしさを伝えることを目的とした「奨学米プロジェクト」。その名の通り、奨学金をお米に置き換え、「奨学米生」である大学生が農家の手伝いをする代わりに、農家が学生にお米を無償で提供するというシステムだ。

2009年、当時東京の学生だった笠木恵介氏が、「農作物を有効活用したい」という思いからスタートさせた。「農家と消費者の距離を少しでも縮め、一人でも多くの人に農業関係者になってもらいたい」と笠木氏は語る。

奨学米プロジェクトは、福島県富岡町から始まり、現在は新潟市、福島県只見町へと広がっている。参加する学生の動機はさまざま。単にお米がほしいという学生もいれば、栄養士を目指す学生、農業機械関連の会社に就職が決まった学生など、すでにのべ300名以上が参加した。年に3回、主に週末を使って農家に行って農作業の手伝いをし、その対価として30kgのお米が支給される。一般的な農業体験では、田植えや稲刈りなど楽しいところだけを手伝うことが多い中、奨学米プロジェクトでは、過酷な労働を伴うリアルな農作業が中心となる。

農家の人々にとっても、普段なかなか接することのない都会の学生たちとの交流は、新鮮な風をもたらし、働く意欲にもつながった。「過疎化が進むこの町に、若い人たちが来てくれることはとても嬉しい。未来の消費を担う彼らの感覚は、生産者にとって貴重な意見でもあります」と農家の一人は語る。中には、奨学米プロジェクトを通じて仲良くなった農家のもとに、社会人になってからプライベートで遊びに行く若者もいるのだそう。農家と若者の間に生まれた絆は、一生の結びつきとなった。

一方で、学生たちもお米をもらえる以上の感動を得ることができた。「裸足で田んぼに入って雑草を取ったり、ニワトリに餌をやったり、地域のイベントに参加したり、さまざまな体験をさせてもらいました。これまでお金を払えば何でも食べられるという環境で育ってきた僕たちにとって、自分で汗水流して働いた対価としてお米を手にすることは、とても感慨深い経験です。このプロジェクトに参加したことで、食べ物に対する意識が変わりました」と、4年間にわたり毎年奨学米プロジェクトへの参加を続けている松本一希君は話す。お世話になった農家のお米を、いつか自分のお金で買える日が来ることを心待ちにしているという。

さらに、外国人留学生を対象とした「グローバル奨学米」も進められている。都市部の学校を選ぶことの多い外国人留学生にとって、田舎で農業をしながら生活することは、日本の本当の姿を知る貴重な経験となり得る。さらに、留学生が田舎の田園風景を撮影してSNSにアップしたり、自国の友人たちに農家での暮らしを語ったりすることで、都会とは違うもう一つの日本の魅力を世界中に発信してくれるという効果を持ち、ここで出来た関係が彼らが次に日本に来る理由になるのだ。

「実はこのプロジェクトは地方活性だけではなく、地方を通じて都会の人々が元気になれる都市活性でもあるのではないかと感じています。日本の農業のファンが、全国そして世界中にどんどん増えてくれればいいですね」と話す笠木氏。若者たちのパワーが地方の農業を活気づけ、未来へとバトンをつなげていく。新たに創出されたコミュニケーションのかたちに、今後の期待が高まる。



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