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Highlighting JAPAN

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地方の活性化

古い家を新しい生活によって満たす(仮訳)

尾道市

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広島県の尾道市は著名な作家たちの故郷として、また歴史映画やドラマの舞台として日本人によく知られている街である。瀬戸内海に面する街を見下ろす斜面には葉が生い茂り、家々や古い寺の間を細い小道が蛇行している。このようにさまざまな魅力があっても、日本の大都市圏外にある他の多くの地域と同様、尾道にも低出生率と高齢化社会の兆候が見られる。およそ500軒の空き家が存在し、自然現象による破損や老朽化の犠牲となっている。

尾道出身の豊田雅子氏は、8年間旅行代理店に勤め、100回以上の海外旅行を経験した元添乗員で、ヨーロッパの古い街並みや建物の保存状態の素晴らしさに感銘を受けたことをいまも記憶している。2000年の初め頃に退職して故郷に戻った後、豊田氏はこの町を元気にしたいと思い、どうすれば尾道の忘れ去られた家々、つまり日本語で言う空き家を救うことができるだろうかと考えた。

豊田氏は再生する空き家を探し始めた。これは手間のかかる仕事だった。近所を探し回り、知られていない住居については周辺の地図で場所を確認し、居住者と家主について隣人に尋ねる。しかも母親として幼い双子の子供を育てながらの作業である。「私の最初の家を見つけるのに6年かかりました」と豊田氏は述べる。これは豊田氏が後にガウディハウスと命名した、尾道駅の近くの急勾配の斜面に建つ風変わりな木造建築の家のことである。豊田氏は大工である夫の助けを借りて2007年にこの家の再生に取り掛かった。

メディアの注目と空き家再生に関する豊田氏自身のブログにより、尾道の空き家に興味を持った日本全国の人々から問い合わせがあった。豊田氏は、再生された空き家を地域、環境、観光、芸術の推進のために利用することを目的とする、NPO尾道空き家再生*プロジェクトを直ちに立ち上げた。豊田氏のNPOは尾道市の行政とも提携し、「空き家バンク」 として知られるマッチングサービスを作り出した。

「マッチングサービスを提供できるなら、より多くの空き家を救えると考えたのです」と豊田氏は回想する。

豊田氏のNPOは現在16軒の家をサポートし、多くの再生作業が進行中である。空き家に思い切って投資をするのは、タイムカプセルに入るのに似ている。豊田氏は冷蔵庫を開けて「20年も放置されたままの卵を発見した」ことや、「ねずみのミイラ、3年間毎日配達され続けていた新聞の山」のことなど苦労したエピソードを語って聞かせてくれた。しかしアンティークの家具やエレガントなガラス製品などの嬉しい発見もあったという。これらは、NPOが可能な限り転売やリサイクルを行っている。豊田氏と彼女の組織でこれまで仕事をして来た160人以上の人々の努力により、放置されていた古い建物がショップ、カフェ、そしてアートギャラリーや尾道アーティストインレジデンス・プログラムで利用されるスペースなどに生まれ変わった。

豊田氏は「あなごの寝る場所」のようなという意味で「あなごのねどこ」と名づけられた手頃なゲストハウスもオープンした。このゲストハウスは2012年の開業以来、日本人ばかりでなく外国人の間でも人気を獲得しつつあり、一度滞在した人がまた来てくれるケースが多いと豊田氏は述べる。このようなビジターの一人にスイス出身の音楽家がいて、このゲストハウスをとても気に入った彼は、2度目には2週間滞在してここでライブコンサートを行った。

豊田氏は若者たちが田舎を離れて大都会に出て行ってしまい、こういった地域では人口もエネルギーも減っていくという問題を自らの体験により知っている。これは日本ばかりでなく世界中の国々で見られる傾向である。すぐには変わらないとしても、多くの人々に尾道を訪ねてもらえるようにすることは、この街の特色を保存するために欠かせないと豊田氏は信じている。「旅行者たち」のポジティブなコメントは、ここに住む人々が尾道に誇りに持つのに役立っている。

*注記 再生は日本語でリサイクルを意味する。

 

 



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