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Highlighting JAPAN

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科学と技術

希少な甘さ

健康によい砂糖の形態への研究(仮訳)




糖の最小単位である「単糖」のなかでも自然界にもっとも多く存在しているブドウ糖(D-グルコース)や果糖(D-フラクトース)は、あらゆる生物のエネルギー源となるものだ。

自然界には50種類以上の単糖があることがわかっているが、ブドウ糖や果糖などの7種類を除く全ての単糖はごくわずかしか存在しない。そのため「希少糖」と呼ばれ、その存在は知られていたものの、性質や特徴などはほとんど不明だった。

そんな中、1991年に香川大学農学部の何森(いずもり)健教授(当時)が、果糖を希少糖の一種であるD-プシコースに変換させる酵素を持つ微生物を発見。希少糖を作り出すことに成功した。また、自然界にはほとんど存在しないはずの希少糖D-プシコースが「ズイナ」という木にのみ含まれていることを発見し、ズイナ普及の活動も行っている。

D-プシコースは砂糖の7割程度の甘さがあり、それでいてノンカロリー。ブドウ糖や果糖にはない、優れた生理機能を持っていることがわかった。食事と一緒に摂ると食後の血糖上昇を抑制し、糖尿病の改善や予防に効果がある。また、内臓脂肪の蓄積を抑える、むし歯になりにくいなどの作用もある。

ノンカロリーで生活習慣病予防に役立つD-プシコースは、ヘルシーな甘味料として食品分野で使うことが考えられる。そこで、食品利用に向けた研究を進めると、さらにいくつかの機能が見つかった。

スポンジケーキに使う砂糖の一部をD-プシコースに置き換えたところ、砂糖だけのスポンジケーキよりもふんわりとやわらかいスポンジができあがり、抗酸化力が高まったという。豆乳入りの飲むヨーグルトに添加してみた実験では、酸味がやわらぎ、まろやかさや粘りが増すことがわかった。

この他にも植物の成育抑制や病害抵抗性の向上など、さまざまな機能性が確認されているD-プシコース。香川県では香川大学や地元企業などと協力して「香川発の希少糖」を全国に広げる活動を積極的に行っている。基礎的な研究と並行して、量産体制の確立や製品開発を進めており、事業化の第一弾として「希少糖含有シロップ」を発売した。このシロップを使った製品が大手メーカーから発売されるようになってから、「希少糖」の名前は全国でも知られるようになってきた。

「D-プシコースに関しては、すでにある程度量産できる体制が整っており、食品の安全基準もクリアしています」と香川県商工労働部産業政策課で希少糖の事業化などを担当する佐々原浩幸さん。「今はトクホ申請中で、トクホとして認定されればさらに幅広い食品や飲料で使われるようになるでしょう。」

香川県は「糖尿病の推定患者の受療率(人口10万人あたり)」で全国ワースト1位になったほど糖尿病患者が多い県でもある。希少糖を積極的に利用して、糖尿病患者を減らすことが目標だ。

香川大学では、D-プシコースのほか、D-アロースという希少糖の生成 生産にも成功。活性酸素の産生を抑える働きを持つD-アロースには、医療分野での利用も期待できる。

50種類以上ある希少糖のうち、現在実現しているのはD-プシコースとD-アロースだけだが、こんなにも優れた機能が見つかっている。新しい希少糖には、さらに異なる機能があるかもしれない。 香川から全国、そして世界へ。有用性や機能性が明らかになるにしたがって、希少糖の可能性も広がっていく。



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