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Highlighting JAPAN

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連載 47の物語

東京

静けさと混沌と(仮訳)




東京は片時も休むことがないように、ネオンと限りない喧噪は初めて訪れる者たちを愕然とさせる。しかし巨大なメトロポリスにも落ち着いた、ほっと気を抜くことができることができる空間はたくさんある。

東京の端にある高尾山はそのひとつ。街から隔絶されながら、同時にまたその一部でもある。その傾斜31度を超える日本でももっとも急こう配のケーブルカーに乗れば、赤やマゼンタ、黄金に燃える鮮やかな落ち葉のカーペットにつつまれる。トンネルが現れ、中に入ると、上りゆくその先の出口の光を見るのはまるで潜望鏡で空の国を覗き見ているようだ。

頂上から眺める眼下には手が届きそうなほどすぐそこに街が見えるが、この場所の心を静める作用は下界のせわしないペースとはまったく異質なものだ。太陽の光がはるか遠くの鉄筋とガラスに反射してキラリと光る。別の方角には富士山が雪をまとい、その勇壮な姿で青空を背にそびえている。

「高尾ビジターセンター」の佐藤多寿子さんが高尾山の歴史を少し話してくれた。江戸時代でも人々はこの山を守ろうとし、この山で木を切ることを禁じた。そのおかげで現在もこの山は豊かで多様な動植物の宝庫になっている。

「ここには約1300種類もの植物が生息しています」と佐藤さんは言う。「日本でしか見ることができない鳥たちを見るのにもいい場所で、セグロセキレイやアオゲラなども見ることができます」。都会のオアシスとしてたくさんの東京人や近隣の人たちが訪れる山だ。登山者たちは森林浴を満喫できる。山のおいしい空気と樹々などの自然に身を置くことで心身の健康に浄化作用をもたらすことが科学的にも効果があると証明されている。

高尾は自然の宝庫であるだけではなく、歴史と神話の山でもある。1300年の歴史を持つ薬王院として知られる古寺には多くの信奉者たちが訪れる。古寺に続く石段は全部で108段、人の煩悩の数だけあると言われている。

寺に着けば、その空気は線香の香りとお坊さんがお経を読む響きが相まって陶酔させられるようだ。羽の生えた天狗(鼻の長い怪物)の像が無言で立っている。高尾山のシンボル、天狗は山の神の使いであり、山と寺をしっかりと守る役割をしている。

高尾山でリフレッシュしたところで、東京の街に戻れば、「思い出横町」は別な意味でのオアシスだ。身近な社交の場でありエネルギー補給の場でもある。新宿の真ん中にあり、人が手を広げた幅ほどの狭い路地には小さな食べ物屋や飲み屋がひしめき合っている。その多くは狭いカウンターに客がもたれかかれる椅子が5−6個あるだけの大きさだ。

店を一軒一軒覗いてみても選ぶのは難しい。どこもおいしそうな匂いと人々の談笑する声が漏れてくる。店主が客に向かって呼びかける声に誘われ中に入れば、冷たいビールとよだれが出そうな食べ物が待っている。店の軒には昔ながらの提灯と煙ですすけたのれんが下がる。

ひとつの店に入るとカウンターにはビールの大瓶が連なっている。店員に一声かけると瞬く間に狭いテーブルにはビールのジョッキと枝豆に焼き鳥が並ぶ。焼き鳥は小さく切った鶏肉を竹串に刺して焼いた料理で、あぶったシシトウと太い長ネギが添えられて出される。食べ物が出されるとハイキングの疲れも薄らいでくる。一日の成果を讃え合い、肘と肘をぶつけ合うようにジョッキを持ち上げて、さぁ「カンパイ!」

日本最大の都市、東京には様々な楽しみ方がある。ショッピングや観光もいいが、心癒される山登りと居酒屋の体験も、東京旅行の忘れられない思い出を残してくれるだろう。



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