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Highlighting JAPAN

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地球温暖化対策

京都の手繍い刺繍優れた植物

遺伝子組換え技術で育つスーパー樹木(仮訳)

1997年に採択された京都議定書で森林の光合成による二酸化炭素の吸収が温室効果ガスの削減手段として算入されたのをきっかけに、森林の保全や植林が地球温暖化軽減策として高く評価された。近年、そこに風穴を開けたのがスーパー樹木の研究である。この研究に携わる森林総合研究所の生物工学研究領域長・丸山毅氏に話を伺った。

スーパー樹木とは、生物工学研究領域において遺伝子組換えの手法を用いて、主にポプラを対象に、より効果的で広範囲な植林を目指そうという研究である。例えば、乾燥や塩害などの環境ストレスに対する抵抗力の強化、成長の促進、バイオマス生産の増強などが研究対象となっている。また、遺伝子組換えによって導入した外来遺伝子を飛散しないためにも、杉などを対象に花粉を拡散しない樹木の研究も行われている。

丸山氏によると、世界には樹木が育たないほどの厳しい乾燥や強い塩害などの荒れた土地が陸地面積の30%以上を占めているのが現状であるが、高い環境ストレスに耐性を備えた遺伝子組み換え樹木は耐乾性と耐塩性を向上させているので、荒漠地や塩害地でも植栽が可能であるという。このように植林可能な面積が増えることにより、より多くの樹木が光合成を行い、二酸化炭素の削減が可能となるのだ。また、スーパー樹木による森林の保全と植林は、バイオマスエネルギー生産の場の拡大も意味するので、化石燃料の使用が軽減されて温暖化対策に貢献することも期待されている。

そもそもなぜ樹木の遺伝子組換えが着目されたのか。それは、もともと用いていた人工交配技術の限界が理由であると丸山氏は指摘する。樹木は草本性植物と比較して一世代が長く、新形質を付与した樹木の作出は時間的にも技術的にも労力がかかってしまう。その反面、遺伝子組換え技術は、目的とする形質を特定して付与できることから、時間と労力が少なくて済む。また、種の壁を越えて遺伝子を導入できるため、従来の育種方法では活用できなかった形質の導入ができることも大きな魅力という。

しかし、この研究には二つの大きな課題があるという。一つは、全ての形質は独特の遺伝子構造によって成り立っている一方、遺伝子間の相互作用もあって、期待通りの結果にならないことがよくある。その場合、条件を替えながらいろいろな試行が必要となってくる。二つめに、樹木は草本性植物と比較して成長が遅く、巨大化する。これにより、実験を全て順調に進めていくには時間と継続的な労力、そして大規模な施設等が求められる。

この研究が実際に実用化されるには、他にも課題が残されており、その目処はまだついていない状況であると丸山氏は説明する。例えば、森林総合研究所では遺伝子組換えに関する国際法・国内法にのっとって、厳重な管理のもと研究が行われているが、多くの国民はいまだ遺伝子組換え技術に不安感を抱いている。現に日本での遺伝子組換え樹木の実用化は実現していない。そのため、丸山氏によると安全性や生態系保全に関する懸念を払拭するための研究調査・実証試験を積み重ねる必要があるという。

苦難は多いものの、スーパー樹木の実現は地球温暖化軽減への大きな一歩になることは間違いない。これからもスーパー樹木の研究から目が離せない。



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